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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第二章
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第十九話

(脱臼すると癖になるって、前世で聞いた事があります。骨折も同じく癖になるのでしょうか?)


 右腕の痛みから逃避するために考え事をする私こと、ノノ5歳。

 ここは村の外にある森の中です。

 先程まで私は、意識を失い地面に転がっていました。


「痛いの痛いの、飛んでいけ!」


 そんな私に、声を掛け治癒術を使用するナナ。

 治癒術はこんな文言でも発動するらしく、ナナの両手から淡い光が溢れます。


 先程の戦闘で、私はナナの大鎌の一撃をまともに食らいました。

 事前に「切断されることはないから大丈夫」と聞いていたため、当たっても軽い衝撃で済むと私は思っていたのですが、まさかフルスイングされるなんて夢にも思いませんでした。

 幸いにも、突き出していた右腕の骨折のみ済みましたが、これが頭や胴にあたっていたらと思うと……背筋が寒くなります。


 それにしても、治癒術というものは何度見ても不思議な光景です。

 まるでビデオを逆再生するみたいに、私の青く腫れた右腕が治って行きます。


「ところで母様、一つ良いでしょうか?」

「うん?」

「気絶している内に治して頂ければ、痛くなかったのではないかと思うんですけど」

「……てへっ」


 誤魔化しの笑みを浮かべるナナに、一瞬だけ怒りそうになります。

 かろうじて我慢しますが、きっと今の私は膨れっ面をしていることでしょう。


「あぁ、拗ねているノノもかわいい……じゃなくて、もちろん考えがあってのことなのよ!実際に術の発動を見ることで、術の使い方を覚えることが出来るし」

「へー、そうなんですか」


 本当でしょうか?

 確かに、治癒術はまだ使えないし、見て覚えるのも大事だと思いますけれど。


「それにしても!今日のノノは凄かったね。ママの一撃をかわして、しかも攻撃までしてくるなんて」


 話を逸らすナナ。

 とはいえ、ナナに褒められて少し気分が良くなります。


 実はナナの攻撃を避けられたのは、今日が始めてでした。

 今までの戦闘では、一瞬の内に背後から喉元に鎌を付きつけられているか、いつのまにか意識を刈り取られ、目が覚めたらナナに膝枕をされているかのどちらかでした。


 先程の戦闘でもそうでしたが、ナナは凄まじく強いです。反面、手加減が物凄く苦手――というか手加減が出来ません。

 一応、戦闘中の術の使用は禁止しているのですが、体の方は抑えが効かないようです。

 しかもナナは戦闘に関しては実戦主義で、習うより慣れろといった方針です。

 そのため圧倒的な実力差の上、全力全開のナナに瞬殺される日々が続いていました。


 あれ?

 もしかして今まで気絶していたときも、同じ位の怪我をしてるなんてことはないですよね。

 ……まぁそれは置いておきましょう。


「いつも背後から襲撃されているので、今回も後ろだと思いました」


 ナナの戦闘スタイルは暗殺者の如くです。

 相手に気付かれずに背後に迫り、大鎌の一撃で確実に息の根を止めます。

 しかも確実を期す為、相手の注意がそれた瞬間を狙います。

 先の戦闘でした物音も、ナナが小石か何かを投げたと推測できます。


「また母様は横薙ぎの攻撃が多いため、しゃがめば避けられる可能性が高いと考えました」


 大鎌を横に薙ぐよりも、縦に振り下ろす方が、攻撃後の隙が大きくなります。

 また移動時も縦に構えるよりも横の方が、攻撃に繋ぎ易いです。


「確かにそうね」


 頷くナナ。

 伊達に今まで何回もやられていません。

 ……次からは縦の攻撃も警戒する必要がありそうですね。


「その後も闇雲に突っ込んできたのかと思ったけど、ちゃんと考えていたみたいだし。いい線まで行っていたと思うわ」

「ありがとうございます」


 べ、別に褒められても嬉しくなんてないんですからね!

 ……嘘です、嬉しいです。


「問題は術の方ね」

「はい……」


 私がナナの攻撃を防ぐのに使用したのは、障壁術。

 その名の通り、見えない壁を作り出す術です

 壁の大きさは調整可能で、形成した壁の大きさに比例して、魔力を多く消費します。


「どうして母様の鎌は、私の障壁を打ち破れたのでしょうか?」

「単純に私の一撃が重かったからよ」


 あっさり疑問に答えるナナ。


「それをさし引いても、ノノの障壁術が脆かったせいもあるわ」

「そうなんですか?」


 確かにナナの大鎌を受けたのは初めてのことでした。

 ですが以前に術を使用した時に、それなりの強度があることを確認しています。


「ただでさえ、術を使用するには集中力が必要になるのに、戦いながらだともっと難しくなるわ。そんな状態で発動した術と、ゆっくり集中して発動した術。どちらの威力が高いかは明らかでしょう」


 確かにその通りです。


「ノノの場合、見た目状は術が発動しているから、障壁の強度が落ちていることにかえって気付かなかったのよ。そもそも武器の顕現、身体強化、術の発動。この三つを同時に使用すること自体が、とても難しいことなのよ」


 少し呆れ気味になるナナ。その説明を聞き納得します。

 そういえば魔獣との戦いにおいて、ナナは当たり前の様にそれらを行ってきました。

 私の知る例がナナしかいないため、何が凄くて凄くないのかいまいち良くわかりません。


「さて、治癒術は終わったけど具合はどう?」


 いつの間にか、右腕の痛みが引いています。

 手を握り、また開いて調子を確かめます。


「大丈夫です」

「それじゃ、そろそろ帰りましょう」


 自然に手を差し出すナナ。

 いつの間にか空も赤くなり、夕日が射しています。

 私もナナの手を握り返します。


「今日はノノが始めてママの攻撃を避けた記念に、美味しいものを食べてお祝いをしましょう」

「母様、まだ昨日のシチューが残っています」


 私達は、そのまま仲良く手を繋いで村に帰りました。



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