第十七話
その翌日にはお見舞いにトール、アンリ、カナの三人が訪ねてきました。
「……あー、ノノのお陰で俺もカナも助かった。本当にありがとう!これからはもっとしっかりするように頑張るから!」
トールは深々と頭を下げ、腰を90度まで曲げてお礼を言います。
「ノノちゃん、助けてくれてありがとう。もしノノちゃんがこのまま起きなかったと思うと私……ヒック……やりきれなくて……」
私に抱きつきながら、感極まって泣き出すカナ。
「まったく無茶をして、本当に心配したんだからね!でもそのお陰でトールもカナも無事だったんだ。私からもお礼を言わせてよ。ありがとう」
アンリには怒られたものの、最後にはお礼を言われました。
私も、皆が無事でこれからも一緒に過ごせると思うと、胸が暖かくなしました。
それから……。
皆が帰った後、女神と契約したことナナに話しました。
話を聞いたナナの反応は、
「まさかノノが『タリア』と契約するとはね。でもお陰で助かったから、万々歳ね」
と、とても嬉しそうでした。
「あの、母様にお願いがあります」
「何?」
「私に魔法の使い方を教えて下さい。母様の様に強くなりたいのです!」
もうあのような事を繰り返さない為にも、また自分や他の人を守れるように、私は想いを口にします。
「分かったわ。ただし教えるからには魔法だけでなく、それ以外の事も鍛えます。私の教えは辛いです。泣きたくなったり、逃げ出したくなる時もあるでしょう。それでもノノはそれに耐え、強くなる覚悟がありますか?」
こちらの決意が伝わったのか、ナナは真剣な表情で問いかけてきます。
(もちろん答えは変わりません)
「はい!」
「それなら、私がノノを強くします」
こうして私の修行の日々が始まりました。
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少女――ナナは森に駆けつけた時から、ふつふつと嫌な感覚がしていた。
案の定、森の入り口に居る筈である娘――ノノの姿はなく、更に進んだ先の大樹で兄妹から話を聞き、それは予感に変わっていった。
そして――
彼女が見たのは地に横たわる娘の姿と、それに近付こうとする紅い魔獣の姿だった。
(――ラヴェンナ!)
反射的に自らの内に潜む『タリアの娘』を呼び出し、大鎌を顕現させながら魔獣に迫るナナ。
魔獣も彼女に気付き迎え撃とうとするが、圧倒的にナナの方が速い。
そのまま鎌を一閃する!
ノノが苦戦した魔獣を、ナナはいともあっさりと片付けてみせた。
そして周囲を一瞥し、他に魔獣がいない事を確認したナナはノノの元に向かう。
(――っ!!)
ノノを見て青褪めるナナ。
先程まで顔色一つ変えずに魔獣を退治したナナが、ノノの姿にひどく狼狽した。
仰向けに倒れたノノの腹部には棘が刺さっており、その棘が背中まで貫通していた。
その上、傷口から大量に溢れ出た血がノノを中心に水溜りを作っている。
また口からも吐血の後があり、意識が無い状態だった。
かろうじて、かすかに上下している胸がノノの生存を教えてくれる。
「汝、力を発現し、彼の者を癒したまえ」
急いで『タリアの娘』に呼びかけ、癒しの術を使用するナナ。
ノノの体がぼんやりとした光に包まれ、出血が止まる。
しかしそれに反し、少しずつ呼吸は弱まってきている。
今度は棘を引き抜き、再び癒しの術を使用する。少しづつ傷口が塞がっていくが、その速度は遅い。
(やはり、治りが悪い)
魔獣に傷つけられた箇所は、『タリアの乙女』が使う魔法では完全には治らない。
そのためノノのシャツを脱がせ、上半身を裸にすると、自らの服の袖を破り包帯代わりに巻き付ける。
「ノノ!目を覚まして、お願い!」
ノノに呼びかけながら癒しの術を使用する。
しかしナナの願いも空しく、ノノの呼吸が止まってしまう。
ノノの胸に耳を寄せ、心臓の鼓動を確認するが何も感じない。
「ノノッ!」
叫びながらも癒しの術を使用する。何度も、何度も。
しかし一向にノノの心臓は動き出さない。
(そんな……嘘……!)
がっくりとナナはノノの上に崩れかかる。
彼女の瞳からは涙が溢れ、悲嘆の言葉が口から漏れそうになる。
ナナが絶望しかけた時――
トクンと何かが動いた。
(――!?)
それと共に、急激にノノの身体から力の波動を感じる。
まさか!と思いつつもナナは顔を上げる。
力はそのまま高まっていき、そのままふっと霧散した。
そして力の余韻の後には、すぅすぅと穏やかに呼吸するノノが残された。
彼女が感じた力は、『タリア』のものであった。
ナナは力を発現していない。そのため、ノノ自身が力の発現をしたことになる。
(『タリア』と契約した!?)
ナナは己の体験を信じられないと思った。
基本的に『タリア』と契約する場合、『タリアの乙女』の仲介が必要である。
そのため、『タリアの乙女』の数は厳格に管理されており、許可無く契約を仲介する事を禁じられていた。
しかし例外もある。『タリア』が直接、契約を結ぶ事がある。
だがそんな事は極稀で、これまでの『タリアの乙女』の中で、直接契約をした者は数人しか居なかった。
だが反面、そうした者たちは皆、強力な加護をその身に受けている。
(ノノの生命が戻ったのは、『タリア』の加護のお陰かしら。何にせよ、ノノが生きていることを感謝せずにはいられないわね)
安堵した彼女は、ノノを抱える。
(ノノが起きたら、いっぱいかまって貰いましょう。最近は他の子と遊んでいる時間が長かったし、私に心配を掛けた罰よ)
そうしてナナはノノと共に、村に帰り着いた。




