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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第一章
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第十六話

「うわっ!」


 勢い良くハネ起きます。


 記憶はハッキリしています。

 先程まで、謎の空間で女神と契約をしていました。

 そして、死に切れずに生き返った筈です。


(そうだ、ハリ殻ネズミ!)


 あれから余り時間が経っていないのであれば、魔獣が居る筈です。

 急いで周囲を警戒しますが、


(……あれ?)


 魔獣なんて居ません。影さえ存在しません。

 私が居るのも森の中ではなく、見覚えのある部屋に居ます。というか、私とナナの寝室です。


(どうなってるのでしょうか?)


 私は上半身を起こした状態で、手には毛布の端を握り締めています。

 服装も寝巻き姿になっています。


「ノノ!」


 叫び声と共にドアを開け放ち、ナナが現れます。

 そして私を一瞥するなり、


「ノノッ!」


 と私に抱きついてきます。


「ノノ、ノノッ!良かった、無事で。本当に良かったわ!」


 強く抱きしめられているため、少し苦しいです。

 しかし彼女の肩が震えているのに気付き、苦しいですという言葉を呑み込みます。


(……あぁ、結局泣かしてしまいました)


 もう少しこのままでいようと思いました。


--------------------------------------------------


 ナナが落ち着いた後、事の顛末を聞きました。


 まず、家で仕事をしているナナの元に、血相を変えたアンリが現れた事。

 アンリから話を聞いたナナは、急いで森に駆けつけます。

 大樹の上の秘密基地には、トールとカナデが居て、二人共、怪我はしていなかったらしいです。

 しかしトールの話から、私が魔獣の囮になったことを知ります。

 トール達に動かないよう言い含めると、ナナはそのまま森を探します。

 少し進んだ所でナナが見たのものは、血塗れで横たわる私と、ゆっくりと私に近付く魔獣の姿です。

 それを見たナナは、即座にハリ棘ネズミを一刀両断。

 私に駆け寄り、治癒の術を使います。

 傷口は塞いだものの失血により体力が低下していた私は危ない状態だったそうです。

 家に運び込まれた後、ナナは看病を続けますが、私の意識は戻りませんでした。

 そして事件から一週間が過ぎた本日、やっと私の意識が戻ったという訳です。


 結局ナナに助けられたようです。

 トールとカナデも無事で良かったと思います。

 ちなみに服をめくってみると、おへそと鳩尾の中間に大きな傷跡が残っています。


「魔獣に付けられた傷や怪我は、治癒術でも完全には治すことはできないの」


 とナナが申し訳なさそうに説明します。

 傷跡の事は気にしていません。むしろこれを見る度に今回の様な事がないように、と戒めになると思います。


 ……。


「さてノノ。ママは怒っています!」


 真面目な表情でナナが切り出します。


「あなたは賢い子です。私が教えたことは理解し、何が危険で何をしてはいけないのかも自分で考えられると思います。それなのに、今回のように危険な行動を取りました」


 確かに、一歩間違えば私は死んでいました。いえ、死んだも同然です。

 今こうしていられるのは、女神と契約できた偶然とナナのお陰です。


「また村の外には出ないという約束も破りました」


 ナナとの約束を破った件に関しては、一番心苦しいことでした。

 申し訳なさで心がいっぱいです。


「そのため、ノノに罰を与えます」


 するとナナは、私の頭にグーにした拳を落とします。

 ごちん、と衝撃と共に痛みが頭に走ります。


(――痛っっ!!)


 初めて、ナナに手をあげられました。

 痛みとショックで、目尻から軽く涙が出ます。


「これで清算よ。大丈夫、痛くなかった?」


 そしてナナは私の頭を撫でます。

 その優しさに思わず、目頭が熱くなります。


 こんなにも心配してくれるナナを泣かせてしまったこと。迷惑を掛けたこと。

 自分の無力感や不甲斐なさ。

 そして、またナナと会えた喜び。

 色んなことが胸の奥から込み上げて、我慢できずに涙が溢れます。


「母様、ごめんなさい!」


 私は謝ります。


「約束を破ってごめんなさい。危険なことをしてごめんなさい。心配を掛けてごめんなさい」


 泣きながら喋っているため、実際は「ごべんなざい」みたいに聞えていると思います。

 ナナは私の頭を抱き寄せながら言います。


「心配は掛けても良いのよ。私はノノのママなんだから。家族は苦楽を共に分け合うもので、ノノが困ったことがあったら一緒に考えるし、ノノが楽しいことはママも嬉しいのよ」

「……はい」


 ナナは私の涙を指で拭います。


「それに私には解ったわ。危険な事をしたのは友達のためであること。約束は破ったけど、正そうとしていたこと。だからそんなノノは良く出来た子で、私の宝物よ」


 その言葉で私の涙はしばらくの間、止まる事はありませんでした。



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