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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第一章
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第十二話

 秘密基地の一件から数日が経ちました。

 あれからも秘密基地には何回か足を運び、子供達で遊んでいます。

 秘密基地のある小さな森については、その日の内にナナに確認してみました。

 結果は――


「村の端の小さな森?あそこは柵こそ張ってないけれど村の外側になるから、ノノも森に入らないように気を付けてね」

「……はい」


 私は頷きはしたものの、それ以上は秘密基地のことをナナには話せませんでした。

 そしてトール達にも、森が危険だと注意することができませんでした。

 秘密基地に行けなくなった時にトール達ががっかりするかと思うと、話すのを躊躇して言葉が出ませんでした。

 また私自身も、皆で秘密基地にいけなくなることを寂しいと思い、そのままズルズルと保留してしまいました。


--------------------------------------------------


「今日も秘密基地に行こうぜ!」


 授業が終わった後の教室。トールの提案に、アンリもカナデも賛成します。

 私も躊躇いつつも頷きました。


「じゃ森の前に集合ってことで」


 「また後で」と挨拶をして、皆が家に帰って行きます。


 結局、森のことをトール達に話せないまま、また遊びに行く約束をしてしまいました。

 その事に私の胸がチクリと痛みます。


(このままじゃ駄目です!)


 確かに秘密基地に行けなくなるのは残念です。

 しかしこれ以上危険な場所で遊んでいて、取り返しの付かないことが起きないとも限りません。

 それに母様を裏切っているようで、罪悪感が私の中から離れません。


 今日こそはトール達に注意しましょう。

 もしそれで嫌われたり、仲間外れにされたら悲しいですけど、何かあってからでは困ります。

 私がそう決意を固めていると、


「どうかしたのノノ?」


 声を掛けてきたのは、トール達と帰ったはずのアンリです。


「……アンリこそどうしたのですか?もしかして忘れ物でもしたのでしょうか?」

「いや、ちょっとノノの事が気になって。なんか暗かったってゆうか……」


 アンリが心配そうな顔をします。

 もしかして顔に出てたのでしょうか?

 しかし丁度良い機会です。

 面倒見の良いアンリなら、話をすれば分かってくれると思います。


「あのですね――」


 こうして私は、アンリにナナから聞いた話をしました。

 アンリは無言で話を聞いていましたが、私が喋り終えると、


「……そっか。ごめんねノノ」


 と謝ってきました。


「えーと、どうしてアンリが謝るのですか?むしろ私の方が謝らないといけないと思います。折角、秘密基地の事を教えてくれたのに……」

「いや、やっぱりあたしが謝らないと」


 そう言うアンリは、ばつが悪そうに話し始めました。


「何て言うか、トールっていつも自分が自分がって前に出ようとして、結構周りが見えなくなっていると思うんだ。だからその分、付き合いが長いあたしが止めてやらないといけなくて。で、森の事もやっぱりあたしが気付かなくちゃいけなかったんだと思う」


 アンリの顔はいつもと違い、少しだけ大人っぽく感じます。


「それにやっぱこういうことは、年上がしっかりしていないと。こんなんじゃカナのお姉ちゃんも失格かな……」

「そんな事ないです!アンリはいつも優しいですし」

「でもノノだって、さっきまで泣きそうだったし」


 アンリに指摘されて、私は慌てて目元を擦ります。


「ハハッ、冗談だよ」


(うー。からかわれました)


「ごめんごめん。トールにはあたしから話をするよ。なんだかんだ文句を言いつつも、危ないって分かればやめる筈だから」

「はい。お願いします。もちろん私も説得するのを手伝います」

「うん。こちらこそよろしく」


 そう言って手を差し出してくるアンリ。

 私もその手を取り、握手をします。


 これでアンリの説得は完了しました。

 私の心も少しだけ軽くなった感じがします。


「ところで、ノノに一つお願いがあるんだけど」

「何でしょうか?私に出来る事であれば、何でも言って下さい」


 アンリにはトールの説得を引き受けて貰いましたしたので、是非お願いを聞いてあげたいです。


「さっき、あたしのことお姉ちゃん失格じゃないって言ったよね」

「……?確かに否定はしましたけど」

「じゃ一度でいいから、私のことを『アンリお姉様』って呼んで欲しいな」


(……!?)


 え、どういうことなのですか?

 もしかして百合?ガールズヒャホー!なの?

 いえ、きっと他意はないはずです。

 ……そうです!日頃から男の子みたいに扱われているから、そういうお淑やかなお姉さんキャラに憧れているだけなんでしょう。

 きっとそうに違いないです!

 そうと分かれば、せっかくのアンリの頼みです。こちらも恥ずかしいのを我慢して、期待に応えたいです。


「アンリお姉さま」

「――っ!!」


 回れ右をして背中を向けるアンリ。


(……えと、何か拙かったのでしょうか?)


--------------------------------------------------


「アンリお姉さま」

「――っ!!」


 ノノにそう呼ばれ、抱きしめたくなる衝動を押さえ込むため、後ろを向く。


(思った以上に可愛い!)


 軽い気持ちで、冗談半分に言ったつもりなのに、それ以上の反撃を食らった気分だ。

 軽く頬を染めながら、照れ臭そうに名前を呼ぶノノ。

 その可愛さに、きっと今のあたしは人に見せられない様な顔をしていると思う。

 しかしいつもでもこうしてはいられない。

 ノノに怪しまれる前に、しっかりしないと。

 深呼吸して振り返ると、ノノが困惑した表情でこちらの様子を窺っている。


「う~ん。やっぱりいつも通り、アンリって呼ばれる方が良いかなー」


 白々しく、本心とは逆の事を、顔がにやけそうになるのを我慢して言う。

 するとノノは「はぁ。そうですか」と若干肩を落としながら答える。

 ちょっと悪いことをしたかな思いつつ、私は「もう一回呼んで」と口を開きそうになるのを我慢する。

 しかしさっきのは破壊力が高かった。


(……何か、ナナ先生の気持ちが少し分かったかも)


 あたしの頭に普段はお淑やかなのに、ノノの事になると親ばかになるナナ先生の姿が思い浮かんだ。



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