第十一話
村の広場に着くと、既に私以外のメンバーは揃っているみたいでした。
既にトール、アンリ、そしてカナデの3人が居て、手持ち無沙汰に待っていました。
「すみません。遅れました」
「大丈夫だよ。私たちもさっき来たばっかりだし」
微笑むアンリ。
なんかデートの待ち合わせをする男女みたいです。
「じゃ移動すっぞ」
トールが先導して歩き出します。
そしてそれに続く一同。
トールとアンリはシャツにショートパンツで、動き易い格好をしています。
私とカナデはスカートを履いています。
本当は私もズボンの方が良いのですが、我が家の女神が断として首を縦に振らないため、泣く泣くスカートを穿いています。
「秘密基地ってどんな感じなのですか?」
私は好奇心が抑えられず、つい聞いてしまいます。
今日はトール達が作ったという、秘密基地に行く事になっています。
「へへ、それは着いてからのお楽しみだ!」
「……もうちょっと行った先に小さな森が合って、その中に一本大きな樹が生えているんだ。そしてそこが秘密基地になっているんだ」
勿体ぶるトールに反して、アンリが説明をします。
しかしそれに対して、
「なんで先に話すんだよ」
トールはむすっとします。
アンリが「別にいいじゃん」と答えると、それを聞いたトールが更に不機嫌になるのが分かります。
そして場の雰囲気が悪くなります。
(これは拙いです!)
そう思った私は、この場にいるもう一人に話題を振ります。
「もしかしてカナデちゃんも手伝ったの?」
すると、
「うん。そうだよノノちゃん。カナも作るのを手伝ったんだよ」
「へぇ、凄いねカナデちゃん」
私が褒めると、カナデは照れ臭そうに笑います。
「トールとアンリも、3人だけの秘密基地なんて凄いですね。そして秘密基地に私を誘ってくれて、ありがとうございます!」
そうぺこりとお辞儀をしながら、二人にお礼を言います。
少しわざとらしくなってしまったでしょうか。
二人の反応を窺いますと、
「……ま、絶対ノノもびっくりすると思うぜ」
と少しは機嫌が良くなったのかトールが言います。
隣ではアンリもうんうんと頷いています。
(良かったです。折角の秘密基地なんだから、楽しく行きたいです)
なんとか喧嘩を未然に防げたようです。
そうこうしている内に森の入り口に到着します。
森といっても小さなもので、10分も歩けば突っ切る事が出来そうな広さです。
そして木々の間から、一本だけ背の高い樹が見えます。
あれがきっと秘密基地の樹なのでしょう。
……しかし、
(もしかして森に入ると、村から出る事になるのでは……?)
私の中に疑念が浮かびます。
村の周りには小さな柵が設けられていて、そこが村の内外の境界線になっています。
しかしその柵が森に入る前に途切れているため、森の中が村の内側なのか分かりません。
「もしかして村から出てしまうのではないですか?」
私は3人に確認します。
すると、
「ぎりぎり大丈夫だって」と楽天的なトール。
「今までだって魔獣が出た事はないよ」ともっともらしいことを言うアンリ。
「だ、駄目かなぁ」と目をうるませるカナデ。
三者三様の答えが返ってきます。
確かに村にもすぐ戻れそうだし、道もしっかりしています。
それにせっかく誘ってくれたのに、このまま引き返すのも悪い気がします。
(とりあえず今日の所は秘密基地を見たらすぐ帰りましょう。そして家に戻ったらナナに確認して、危ないようだったら場合は次からは来ないようにすれば大丈夫です)
そう考えて、一緒に森に入ります。
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「ここだぜ!」
ある程度歩くと、森の外からも見えていた大きな樹の元に着きます。
その樹はうねりながら伸びていて、10数メートルほどの高さです。
幹も太く、私が手を広げても全然足りません。
樹には空洞が空いており、いかにも熊が居そうな感じです。
見上げると縄と木の板で出来た梯子が垂れており、その先の枝に板のようなものが広がっています
「じゃ、お先ー」
トールは先に上っていきます。
「トールの奴、自分だけ先に行って……。カナ少し待ってて、先にノノを上まで送るから」
アンリは「さぁ」と私の手に梯子を握らせます。
「大丈夫、落ちそうになったら後ろから支えるから」
さすがに4歳児や6歳児を一人で上らせない辺り、アンリはお姉ちゃんをしています。
それに引き換えトールは一人だけさっさと昇り、「まだかー?」と上から声を掛けてきます。
「ありがとうです。ではお先に失礼します」
私はお礼を言って、先に梯子を上ります。
「はぁはぁ……」
さすがに4歳児の体には厳しいのか、数メートル上がった所で、息が切れます。
一応、毎日ナナに連れられて村を歩き回ってはいるのですが、もう少し鍛えた方が良いのかもしれません。
「悪い悪い。大丈夫か掴まれよ」
あと少しで梯子を上り切ろうという所で、上からトールが手を差し出します。
私は疲れているため素直にその手に掴まり、体を引っ張り上げて貰います。
梯子の先には2畳程の板が枝の上に固定されています。
屋根はありませんが、枝に茂る葉が太陽光を遮り影になっています。
そして、そこから見えるのは――
「どうだ見てみろ、凄えだろ!」
トールの言葉に、私は大樹から見渡す眼前の風景に目を取られ、返事が出来ませんでした。
この場所からは、村が一望出来ます。
小さな村。
村の回りは畑があって、他に何もありません。
その先には森や平野がずっと広がっていて、更に先には山があります。
(ここが私の住む世界!)
正直な所、そこまで凄い景色ではありません。
以前の世界ではもっと綺麗な景色を見たことだってあります。
しかし、その時は感じなかった衝動が私の胸を高鳴らせます
それはこの世界への期待か、はたまた好奇心でしょうか。
どちらにせよ私は、今見ているこの景色を忘れることは無いと思いました。




