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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第五章
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第九十九話

 目を開いたミノリが、契約した『タリアの娘』の名を宣言します


「バーリ!」


 二回戦が開始してから2分が過ぎた頃、ミノリの仮契約が完了しました。


「――アルコ!」


 それを確認して、私も『娘』であるアルコとの仮契約を済ませます。

 一回戦の失敗――他のメンバーが仮契約を済ませる前に、私一人だけが相手チームと戦うのを避けるため、私の契約開始を他のメンバーの契約完了に合わせることにしました。

 もちろん戦闘開始時の位置取りが不利になりますが、私一人が消耗して最悪の場合に戦闘不能になるよりはマシです。


「ノノ、行こう!」

「はい、ミノリ姉様」


 試合場に足を踏み入れる私とミノリ。

 もう一人のメンバーであるユカリの方は、まだ目を閉じていて契約に集中している状態です。

 そして私にとって意外だったのが対戦相手であるコミチームの動静。

 彼女達もまた、私達同様にまだ試合場には入場していませんでした。

 私が間違っていなければ、向こうのメンバーは全員が本契約をした『タリアの乙女』です。

 呼びかければ、すぐに己が内に宿る『娘』が出てくるため、すぐにでも試合場に入ってくると思っていましたが。


「うしっ、二人入ったぞ!そんじゃ行かせてもらおうかね――レッジョ・ディ・カラブリア!」

「参りますかね――アレッツォ!」


 試合場に足を踏み入れたのは、蝶仮面のコミ選手と、覆面のコマキ選手です。


(――って名前!?『タリアの娘』の名前をそのまま宣言しています!)


 『娘』の名を偽ろうとさえしないコミ選手――ミコ先生。もうミコ先生で確定です!

 どうしてこれで、今まで正体がバレなかったのでしょうか。不思議です。

 ともあれ今の二人の口振りからすると、どうやら私達が仮契約を結ぶのを待っていてくれたみたいです。

 だとすれば残ったシナナ選手……ナナシ先生は、ユカリの仮契約が完了すすまで入場はしないでしょう。

 これで二対三にならずに済みますが、それでも二対二。

 数の上では同じでも、向こうは本職の『乙女』。こちらの不利は否めないです。


「ミノリ姉様、前に出ます!」

「ノノ、気をつけてね」


 ミノリは立ち止まり、私は進みます。

 私が前に出るのは、ミノリが術者であるため。

 それに対して相手チームのコミ選手、コマキ選手は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきます。


「それじゃ私がノノの相手をするから、ミノリの相手は任せたからな」

「何を勝手な事を言っているのですか?私がノノ君の相手をしますので、そちらがミノリ君の相手をして下さい」

「そっちこそ勝手な事を言ってんじゃねーよ。ノノの相手は私に決まっているだろう!」

「ここは私に譲って頂きたい!私だってノノ君とは手合わせをしたいと思っているのですから。貴女はこの間、模擬戦で戦ったばかりではありませんか。それにノノ君は貴女の担当クラスなのですから、これから幾らでも機会はあるでしょう」


 立ち止まり、向き合って口論を始める二人。


『あーっと!?何やらコミ選手とコマキ選手が揉めているみたいです!』

『試合中だというのに、あの二人はこんな所でまで対立して……』

『ん?カオリ先生、今何か仰いましたか?』

『な、何でもないでしゅ……です』


 またカオリが噛みました。

 その間に、私は正面から二人に接近します。

 二人は互いに向き合っているため、とにかく今がチャンスです!


(まずは一人!)


 狙うはミコ先生。

 この間の模擬戦でミコ先生の強さを私は知っています。もう一人のコマキ選手がどれ程の強さかは分かりませんが、まずは厄介なミコ先生の方からです!

 私が片手にアルコの固有武器を顕現させながら迫ると――


「――それじゃ、ノノに決めさせようじゃねーか」

「そうするしかないみたいだね」


 首をこちらに向ける二人。

 その事に私は一瞬だけ躊躇しますが、そのまま顕現させたピッケルを振り抜きます!


(――っ!?)


 しかしその一撃はミコ先生が顕現させた戦斧に止められ、更に後方からミノリが術によって発現した炎の塊は、コマキ選手の障壁の術によっていとも簡単に防がれました。


「ノノの相手は私だな!」

「……仕方ありませんね」


 呟くとコマキ選手は、ミノリの方へ駆け出します。

 このままでは、それぞれ一対一になっていまいます。


「待って下さ――」

「おーっと、お前の相手は私だぜ!」


 私の前に立ちはだかるミコ先生。

 そして手にした戦斧を振り回して、横薙ぎの一撃を放ちます!


「――くっ!?」


 流石に私の持つピッケルでは受けるのは無理があるため、後ろに下がって距離を取ります。

 その間に、コマキ選手はミノリの方へ。そのまま二人は術を撃ち合い始めました。

 目の前の相手――ミコ先生は、私があおの二人の間に割って入るのを、許してくれないでしょう。


 そして、カーン!と鐘が鳴ります。契約時間である3分が過ぎたのを知らせます。

 結局、ユカリは今回も仮契約に失敗して、出番が無い様子です。

 私はミコ先生を警戒しつつ、話し掛けます。


「一つだけ、確認したいことがあるのですが」

「おう、どうした?」

「どうしてミコ先生が試合に出ているのですか?」


 ずばり聞きます。

 試合中に聞くのも何だかマヌケな話ですけど、気になって仕方がありません。


「……ナンノコトデスカ?ワタシハ、ミコセンセーデハ、アリマセーン」

「いえいえいえっ!?何で今更、口調を変えているのですか!っていうか、それで誤魔化せると思っているのですか!!」


 私は流石につっこみざるを得ません。

 それを受けて、ミコ先生の蝶仮面の奥にある瞳が揺れます。


「……ッチ。何故でバレたんだ!?」


(いえ、それは……)


 何故って……その身長とツインテールに、乱暴な口使いですし。何よりレッジョ・ディ・カラブリアってミコ先生の契約する『娘』でしょう!

 まさか本気で言っているのでしょうか。だとすると少し、頭が痛くなってきました。


「大体、『乙女練武祭』に教師が出場しても良いのですか?」

「そりゃこの大会は生徒のためのものだが、こと出場資格に関しては厳密には【学院に所属するCクラス以上の『乙女』】になっている。そして教師である私達の実力はAクラス以上。何も問題はないさ!」


 胸を張るミコ先生。

 何というルールの穴を付いた強引な解釈。

 なまじ見た目が他の生徒達と同年代の少女ですから、他の誰もが先生が出場するとは思いもよらないでしょう。


「うー納得は出来ませんが、それは分かりました。しかし――」


 私は少し、声のトーンを下げます。


「ミコ先生は私のチームに賭けているではなかったのですか?それなのに私たちがここで負けたら、ミコ先生も困るのではないですか?」

「――ぐっ!?それはそうだが……」


 唸るミコ先生。

 その遙か後方では、ミノリの放った術をコマキ選手が避けて……何と!?術者なのに、そのまま殴り合いに展開しています!


「……私たちが出ることになったのも、出場するチームが足りなかったからだ。本来は32チーム揃うのが望ましいんだが、今年だって28チームしか揃わなかった」


 そして迫るコマキ選手の拳をミノリは……受け止めたっ!?

 そのままミノリは掴んだ腕を取ってコマキ選手を投げ飛ばしますが、ネコの様に着地するコマキ選手。


「人数合わせのために出場しているが、元々この大会は生徒のためのものだからな。例年通りであれば、私たちはここで負けるのが筋だろう。ま、それでも出場する以上、一回戦だけは勝たせて貰っているがな」


 そのまま詠唱しながら、肉弾戦闘を続ける二人。

 詠唱が終われば超近距離で術を発現し、相手はそれをかわす。もしくは相殺します。

 二人共、凄い戦いです!


「だが今年に関しては、二回戦でノノ――お前が相手だ。だとしたらこのまま負けるのも面白くねぇだろ――って聞いてるのか!?」

「え、はい!」

「……本当か?」

「勿論です。ささ、続きをどうぞ」


 私はミコ先生に続きを促します。

 ちなみに観客の関心は、ミノリとコマキ選手による息の詰まる戦闘に集中しています。


「ま、それでも私たちの方が強い。だから……一撃だ。一撃だけ私や、後ろで戦っているマキコ先せ……コマキに入れられたら、お前達のチームの勝ちにしてやる。それならば、難しくはないだろう?」


 ミコ先生の瞳が挑発的にギラつきます。

 確かにミコ先生との模擬戦の時は、私の攻撃が何度かミコ先生に入っています。

 ミコ先生を戦闘不能にするよりかは、よほど難易度は低いでしょう。


「分かりました」


 私は頷きます。


「よし。いい加減、再開しようぜ。さっきから、お預けを食らって疼いてるんだ!」

「最後に一つだけ」

「何だ?」


 これはついでなので聞いておきましょう。


「その悪趣……イカした仮面は誰の物ですか?」


 私はミコ先生の目元を隠す、紫と黄色の原色バリバリの趣味の悪い仮面を指差します。


「これは私の持ち物だ。正体も隠せて、その上格好良いだろう!特にこの羽の部分が……もしかして欲しいのか?そうだな、もしお前が勝ったらこれをくれてやっても良いぜ!」


 何故か仮面を貰う流れになってしまいました。


(格好……良い?とにかく仮面は欲しくはありませんが……)


「――負けるつもりはありません!」

「そうこなくっちゃ!」



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