第十話
「うーん、丁度いいのが無いですね……」
私はある物を探して、村の中を歩き回っています。
以前の世界で『それ』は、至る所に捨てられていましたが、この世界では『それ』に近いものが無いみたいです。
(さすがに自分で作るのも難しそうですし)
そう考えながら、私は『それ』に近いある物を見つけます。
形状は『それ』に似通っていて、感触は少しだけ硬いかもしれません。しかし十分に『それ』の代わりとなり得るものでした。
(これならいけます!)
私は嬉々としながら、見つけた物を手に取ります。
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「今日は何して遊ぶか?」
そう声をあげるのは、いつも元気なトールです。
あれから――トール達に誘われてから、私は良く一緒に遊ぶようになりました。
ただしトール達にも家の手伝いがあるため、遊べるのは週に2~3回程度です。
「前回は隠れん坊だったし、鬼ごっこはカナとノノが不利だしね」
アンリも「どうしようかなぁ」と考え始めます。
遊びといっても、基本的に狭い村の中からは出られないため、鬼ごっこや隠れん坊などが主流です。
他にもごっこ遊び(騎士ごっこ等)や村の中の散策もしますが、皆が元気なため、走りまわる遊びが多いです。
「わ、私は皆で遊べるのなら、なんでも良いよ。ノノちゃんはどうかな?」
私に話を振ったのはカナデです。
今まで一番年下だったためトールの後ろに隠れがちでしたが、私と一緒に遊ぶようになってから、以前よりハキハキとしてきたと思います。
「ふふっふ、実は私に考えがあります。この間とても良いものを見つけたので、それを使って遊びましょう!」
私は、この間見付けたあるものを皆に見せます。
「……竹?」
トールが、これでどう遊ぶんだ?といった顔をします。
私が差し出したのは、10センチ位に切り取った竹の幹です。
「名付けて『缶蹴り』です!」
缶ではなく竹ですけど、あくまで『缶蹴り』です。
案の条、「カンって何?」と聞かれますが、黙殺します。
「まずはルールを説明しますので、実際に遊んでみませんか?」
そうして缶蹴りのルールを皆に説明します。
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コーン!
アンリが勢いよく竹を蹴り飛ばします。
私は飛んでいった竹が地面に落ちるのを見て、ゆっくりと竹を回収しに行きます。
この時、さりげなく誰がどの方向へ逃げたかを確認しておきます。
(くくっ、相手は初心者。しかし私の身体能力ではトールやアンリには敵わない。ならば知恵と経験を駆使します)
そうして缶を回収すると、広場の中心――地面に描かれた半径3メートルの円の中心にて、手で目を隠しながら10まで数を数えます。
「……9、……10!」
さて、戦いの始まりです。
広場から半径10メートルの範囲は開けており、隠れられる場所は一つもありません。
その周りには木が生えていたり、物置小屋などがあり、隠れる場所は幾つも存在します。
私はまず「皆どこですか~?」と聞える様に喋りながら、ある方向からは死角となる位置にさっと隠れます。
そして気配を消して、少し待ちます。
すると、竹の近くに鬼がいない事を見てとって、トールが痺れを切らして走り出してきます。
(――しかし甘いですっ!)
私が潜んでいたのはトールよりも竹に近い位置です。
しかもトールからは死角になって見えなくても、こちらからはトールの隠れている位置がまる見えです。そのため、トールが出てきたのが直ぐに分かりました。
「トール見っけ!」
と叫びながら、竹まで走ります。
「げっ!」
トールが私に気付いて急ぎますが、こちらの方が少しだけ竹に辿り着くのが早かったです。
トールが円に入ってきた時には、私は竹に到着していて、そのまま竹を踏み付けます。
「ちくしょー」
トールの悔しそうな声が聞えます。
まずは一人目を確保です。
実は、私にはトールのいる位置は予め分かっていました。
竹を回収する間にトールが隠れるのが見えていたのです。その後、数を数えている間も耳を澄ませてトールが移動していないのを確認しています。
これぞ缶蹴りの基本戦法である『誰か捜しにいくふりをして、出てきた所を捕まえる』です。
トールの単純な正確もあってか、思ったよりもうまく釣れました。
さてトールが捕まった事により、アンリやカナデも飛び出し辛くなった筈です。そうなるとこちらが動き易くなります。
次に狙うのはカナデです。
カナデの逃げた方向も最初に確認しているため、そちらを捜しに行きます。
とはいえ、カナデを捜している内にアンリに竹が蹴られる可能性もあります。慎重に周囲を伺いながら、音を立てないように移動します。
それが幸いしたのか、物置の影からひょこっと顔を覗かせたカナデと視線が合います。
無言で見詰め合う私とカナデ。
「カナデ発見!!」
「――あっ!?」
踵を返して、竹に駆け戻ります。
カナデも一生懸命に追ってきますが、私の方が早く円に到着し竹を踏みました。
これで二人目確保。
「はぁはぁ、まさか近くに居るなんて……」
息を切らしているカナデを尻目に、私も息を整えます。
さて最後はアンリです。
アンリならば先程の捕り物の際に、既に気付かれない様に近くまで接近していてもおかしくはありません。
そのため竹から離れた私は、すぐに竹に戻れる距離を保ちつつ、円の中に居るトールとカナデに注意しながら、辺りを周回します。
すると二人の視線が、私とそれとは別に一定の方向をちらちら見ているのが分かります。
その視線の先には1本だけ生えた木があり、竹に近づくには絶好のポイントです。
(見付けた!)
にやりと笑いながら、私はゆっくりと竹に近づき、
「アンリ見~つけた!そこの木の裏」
と竹を踏み付けます。
すると案の定、アンリが木の裏から出てきます。
「どうして分かったのノノ?」
と疑問を口にするアンリ。私はトールやカナに視線を送ることで答えます。
「この、バカトール!」
「うぉ、なんだよ。急に」
アンリに怒られたトールが、なんで?といった顔をしています。
「それにしてもノノちゃん凄かったね」
「隠れん坊と違って、鬼に見つかってからもゲームが続くのがいいな」
「確かに、このカン蹴りは良く出来たゲームだと思うよ」
三人が褒めてくれるため、少しだけくすぐったいです。
どうやら皆満足したようで、なによりです。
「よし!もう一回しようぜ。今度は負けないからな!」
トールは缶蹴りにはまったみたいです。
「今度は最初に捕まったトールが鬼ですからね」
こうして缶蹴りは新しい遊びとして、私達の間で普及しました。
……後日、私は『一斉強襲』や『入れ替わり』等を駆使して、大人気なく鬼を圧倒したりしますが、それはまた別の話です。




