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第二部 手首の望み。

 背後から物凄い力で押された。

 そうとしか思えない程に強い、強い力だった。


「映像解析室」に一歩踏み入れた私達は押されて転びそうになりながら、真っ暗な室内で膝をついた。

「痛った」

「大丈夫か?」

 清水さんが手を引いて立たせてくれた。真っ暗なので周りが見えない……。立たせてくれた清水さんの手だけが唯一だった。

 そこで、気づいた。

 清水さんの手に手首がついてない事を……。

「清水さん……手首は?」

「ああ。この教室に入った途端消えた。やっぱりあの手はこの教室へ案内する為だけに出てきたみたいだな」

 何事もないように言う。

 私ですら、少し不気味なのに……本当にこの人は一体?


 突然教室の電気がすべて点いた。

 視界が一気に明るくなって、しばらく目が眩んだ。

 慣れてきた目で周りを見渡す。

 思ったよりも狭い部屋だった。いや、それとも機械が多すぎて狭く感じるのかも知れない。

 パソコンらしきものが数十台綺麗に並び、正面の壁には大型のモニター。後は何かを計測する機会が多数。狭いスペースに長机が2つ並び、パイプイスが4脚にラック。ラックには映像を映したらしきDVDやビデオ、映画のフィルムなんかで満杯だった。


 物珍しさにキョロキョロしている私の横で清水さんはパソコンを全て立ち上げ、ラックの撮影済み媒体を一つ一つ丁寧に調べている。

「清水さん何を……」

「考えろ。さっきの手首、あれは女性の手だった。女が手首だけとはいえ、あれ程の念を飛ばして、しかもこんな部屋に連れて来たのは何故だと思う?」

 女の手首……しかも本体は御霊寄せをしても現れない。手首だけしか飛ばせないほど弱っているのか、それとも、この世にはもういなくて、悪霊にもなりきれずこの世に干渉出来るのが手首が限界だったのか。しかも連れて来たのは映像解析室……。

「…………あっ!」

「わかったか。多分そう言うことだ」

 弱ってるか死んでるかはわからない女性。女が「心残り」で人を連れて来てまで「どうにかしてほしい」物があって場所が「映像解析室」そうなれば……

「見られたくない映像が残ってる……ここに?」

「ああ。そう思うよ。だからそれらしき映像を探すしかないだろ?」

 またラック内をゴソゴソ探し出した清水さん。私も手伝う。

「こっちは、いいからパソコン見てくれるか?」

 パソコン……。学校のパソコンなんて……。

 考えながらパソコンを開くと「パスワードを入力して下さい」の表示。

 当然のようにロックが掛かってる。

 わかる訳がない。誰のパソコンを調べたらいいかも判らないのに……。


 背後では清水さんが、記録媒体を一本ずつ再生して見ていた。

 大型プロジェクターに映し出される映像を真剣に見ている。

 あちらも大変だ……と思う。

 手首さんが「見られたくない」映像が何かわからないのだから。

「あの……清水さん。パソコン……」

「立ち上がったか? じゃDVDを再生していってくれ」

 なるほど。パソコンの中身を調べる事は、始めから期待されてなかったようだ。

 DVDを一本ずつ再生していく。


 自主映画らしきもの。

 普通の校内の景色。

 旅先の景色。

 アニメ動画のようなもの。

 ライブ映像。


 手首の女性が見られたくない画像不明の為、最初から最後まで見なければいけない。

 1時間、2時間……目が痛くなってきた。

 3時間、さすがに頭も限界だ。


「清水さん……今日はもう引き上げませんか? 1日では無理ですよ」

 首をぐるぐる回しながら「ああ……」と気の無い返事。

 時計はもう21時。さすがに限界だ。使ったパソコンやDVDを直していると、清水さんに問われた。

「なあ。ジュリア。お前が手首だったら、どうだ? 女的に見られたくない映像ってなんだ?」

「…………」

 女性的に見られたくない映像……。

「それは、たくさんありますけど、性的に恥ずかしいものとか、犯罪を犯してしまったとか、人によっては彼氏と一緒の所とか……それは男性でもかわらないんじゃないですか?」

「性的……犯罪……彼氏……」

 遠くを見つめたまま考え込んでいた清水さんが、突然立ち上がった。

 そのまま「映像解析室」を飛び出していく。

 迷ったが私も後を追った。


 清水さんが入ったのは隣の「準備室」だった。


 準備室内は今までの非じゃないほどの記録媒体が積んであった。これは探せない……。

「お前は帰れ。もう遅い」

 帰ろうとは思ったが、ここまで来て「帰れ」と言われて「はい」とは言えない。

 もう……意地だ。私も一緒にガサガサ探し始めた。

 何を探せばいいのかわからないけど……。

 ムキになって探す私の横顔を見て、清水さんがタメ息をついたのがわかった。

「絶対に人には見られたくないが、自分は見たい。必要な時に取り出したい。そんな物の隠し場所だ。

金庫、隠し戸棚あるいは木は森の中に隠せ、さてどれだ」

「学校にプライベートな金庫や戸棚があるとは思えません。木は……でしょう」

「だろうな。怪しいのを調べつくすのに1晩や2晩は徹夜作業だ。どうする?」

 どうする? 私の選択肢はもう決まってる。


「手伝わせて下さい」

 清水さん、手首の女性。2人の力になりたかった。


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