第二部 再会に事件あり?
まだ日が明るいので、私は辺りが薄闇に包まれるのを待った。
何をするわけでもなく、待っているだけってのは、たいくつで、眠たくなってくる。
・・・・・
「お……おいっ! おいっ! 起きろ」
体を揺さぶられる感覚がして目を覚ました。
昨日も遅くまでレポートを書いていたから、どうやら眠ってしまったらしかった。
「やっ! 誰!!??」
目の前すぐ近くに清水さんがいた。
「し……みず……さん」
「起きたか……よくこんな場所で眠れるものだ。……でこれはお前か」
タメ息をつきながら指差しているのは私が施した封印の数々。
そうです……とも言いづらい……。
「はあ。何やってんだか。こんな物々しい罠しかけて捕まえる気だったのか? 手首を……」
なんとなく小さくなる。だって私は……私の術は……。
小さくなる私を置いて、清水さんが私の施した封印の数々を興味深そうに眺めていた。
「ふーん。悪霊封じの結界と封呪の札、で手に持ってるのが御霊鈴か。本物は初めて見たな」
驚きすぎて声も出ない。この人は本当に何者??
「ネット情報でやってみました。みたいな軽いもんじゃねーな、これは……。本当にお前何者?」
「し! 清水さんこそ! どうして、そんな知識!?」
考えてみれば、私たちはお互いの事をほとんど話していない。
「救い屋」清水さん。それしか知らない。
私が「呪術師」である事は、清水さんは知らない。
清水さんが私の事を訝しがるのは尤もだ。
それでも……まだ話したくない。
私はまた下を向いて黙った。
お互いに沈黙が続く。先に口を開いたのは清水さんだった。
「もう、帰れ。校内にもほとんど人は残ってないと思うぞ。お前みたいに目立つ女が夜道をだな」
涙が出そうになった。
『こんな怪しい女を普通に心配してくれる』って……。
やっぱり、この人は何かが違う気が……する。
席を立って封呪の札を剥がそうとした。
「待て!!!」
清水さんが大声を上げたので急いで振り返る。
清水さんの左手が「手首だけ」に掴まれていた。
いつの間に!
それが第一印象だった。私も、清水さんも何も感じなかったのだ。
突然現れて、正確に人の手を掴んだ。そうとしかいい様がない……。
清水さんは手首を剥がそうとするが、物凄い力で手首は清水さんを放さない。
そのまま、清水さんを引っ張ってどこかへ連れていこうとしていた。
そうは、させない。
私は机の上の鈴を手にとった。
「ばれたくない」「知られたくない」
そんな事考えれなかった。
唯、手首を従わせる事しか頭の中になかった。
私は「呪術師ジュリア」かつては天才的だって言われた。
従わせてみせる……
シャリーンシャリーン…………シャン……
鈴を鳴らす。鳴らしながら舞う。大学の空き教室で……。
闇を呼ぶ。闇の中の悪霊を呼ぶ。
舞う。舞う。舞う。
回転しながら鈴を鳴らす。
シャン、シャリンシャン、シャリン。
闇が濃くなる。来る。悪霊がやって…………く……る。
私はしばらく舞いながら、本命を呼び続けた。
・・・・・
来ない……そんなバカな!!
集まって来るのは、その辺りを漂っていた浮遊霊のみ。
どうして? どうして? どうして?
本命はここにはいないの? 何故??
「やめとけ! こないぞ。多分」
声をかけられて、やっと思い出した。
清水さんが手首に掴まれてひっぱっていかれてる所だった事を……。
冷静になってしまった私は、もう舞を舞う事は出来なかった。
そして、静かに鈴を下げた。
「何故、来ないってわかるんですか?」
私の疑問は当然のものだと思う。そんな私を見て軽く笑う清水さん。
「本体……だろ? 今の御霊寄せで呼んでたのは? 手首だけが現れて必死に俺をひっぱって行くのは何故だと思う? 多分……本体が何かに囚われてて逃げれないんだ。だから助けを求めて必死に誰かを連れて行こうとしてるんだろ? な……そうだよな」
清水さんは手首を優しく撫でた。
手首の力がフッと弱まったのがわかった。
「な? 当たりだ。いいよ。行ってやるよ。どこへ行くんだ?」
そのまま教室から出て行こうとする清水さんを私は無意識に追いかけた。
・・・・・
手首に引っ張られて、清水さんはどんどんと人気の無くなった校舎を進む。
私達が今いるのは文科系教室のB号棟。そこを駆け抜け渡り廊下を渡り東館へ。
東館は文科系施設の中でも専門課程に進んだ上級生が使う校舎だ。
1回生の私はまだ、数えるほどしか足を踏み入れていない。
手首は、どんどんと清水さんをひぱって進む。
そして、東館の4階のある教室の前で引っ張るのを止めた。
そこには「映像解析室」なる表示が出ていた。
「映像解析? ここは何を……」
「そのまんまだ。芸術学部の映像科が自分達のとった映像を解析する時に使う部屋だよ。他の学部も使うかもしれないが、主な利用は映像科だな」
清水さんはなんのためらいも無く「映像解析室」の扉を開けた。
扉はなんの抵抗も無くスッと開き、清水さんと私は真っ暗な室内に足を踏み入れた。