最終部 陽だまりの中で。
ヒースロー空港に降り立った私は、身震いをした。
春だというのに寒い。
やっぱり日本とは気候も、空気も違う。
そう感じながら、バッゲージを取り、入国審査の長い列に並んだ。
空港からロンドン市内までの交通機関は、電車、地下鉄、そしてバス。
しつこいぐらいにタクシーの案内をされるが、絶対に勧誘に乗ってはいけないと聞いた。
便利で快適なのは電車なのだろうが、私はバスを選択する事にした。
少しでも早く、この国をこの目で見てみたい……。
私のもう1つの故郷。
愛しいあなたが暮らしている国。
赤い2階建てのバスを想像してたのだけど、私の乗るバスは普通のタイプで少し残念。
まあ、これから時間もある事だし、急いで乗らなくてもいいだろう。
チケットを市内中心部のヴィクトリア駅まで購入。
座席に座って、市内の観光マップと1枚の絵葉書を取り出した。
清水さんから来た唯一のハガキ。
そこには短く「ヒーリングセンター」の住所とたった一言「会いたい」の文字。
私だって会いたかった。
やっと、会える。
空港から市内までを滑るように走るバスだったが、市内中心に差し掛かると渋滞に巻き込まれた。
ノロノロしか進まないバスから外を眺める。
日本とは違い多種多様な人々。
日本とは違う建物、空気、言葉。
私は、この国で暮らしていけるのか、と急に不安になる。
ヴィクトリア駅近くでバスを降りて、地図を片手、荷物を片手に歩く。
「ビッグベンだ!」
手に持っている絵葉書と一緒の風景に思わず立ち止まる。
少しだけ観光をして行こうと、ビッグベンの横にあるウエストミンスター寺院へ向かう。
広い広い内部と高い天井、そしてステンドグラスから溢れんばかりに零れ落ちる光。
ここにいる「神」はきっと私の降ろす「神」とは違う。
それなのに、神様に会えた気がして涙が出そうになった。
最近泣かなかったのに。
強くなった筈なのに。
見知らぬ土地に不安になってるのだろうか?
少しだけ涙を流した。
鐘が響く。
「この音……」
懐かしさにまた涙が溢れそうになる。
おばあちゃんと別れて、国の人と喧嘩してまで来たイギリス。
それなのに、数時間でもうホームシックになってしまったみたい。
「清水さん……」
早く会いたい。
寂しさに負けてしまう。
「清水さん……」
ここでは、強がりが利かない。
迎えに来て。
何の連絡もしなかったくせに、こんな時だけ都合よく願ってしまう。
「早く会いたいよ。神様……」
異国の神に祈りを捧げる。
「この音を聞いて泣くのは、大概日本人だよな」
祈る私の背後から声がする。
そんな、まさか……。
「学校のチャイムの音だろ? ジュリア」
なんで…なんで…。
「あれ? もしかして俺忘れられてるとか?」
「そんな訳ないじゃない!」
清水さんが立っていた。
ステンドグラスの光を浴びて、いつもの薄い微笑みで。
「待ってたよ。俺の綺麗な悪魔の天使」
我慢が出来なかった。
私は清水さんの胸に飛び込んで泣いた。
「おかえり」
清水さんの癒しの手で頭をなでられる。
温かくて、優しい。
私はずっと、この腕の中に帰りたかった。
その為に、勉強して、語学を習得して、自分を磨いた。
もう、帰ってきても、いいんだよね。
3年間も1人で頑張ったんだからね。
「ただいま」
私は私の場所へ帰ってこれた。
温かくて優しい陽だまりのような人。
正反対だから、惹かれてたまらない。
「ただいま、ただいま」
何回も言う。
これからは、この陽だまりの中であなたと生きていく。
ずっと、ずっと。
等身大の呪術師ジュリアとして、あなたと生きたい。
20時から最終回が投稿されます。
何とか、年内に走りきれました。
冬眠中の「くま」ですので、お返事等遅くなりますが、それでもよければお読み下されば幸いです。




