第一部 過去の事件。
私は自分の力を過信していた。
そして愚かにも正しいことをしているのだと信じていた。
そう、2年前まで……。
…………ジュリア高校2年生
「九十九神? ですか?」
お国の人が来た。いつもなら、おばあちゃんに話すのに、その日は何故か私1人で呼び出された。
「そう。九十九神知らないかい? 古い道具に霊や神が宿って物の怪になるの。荒ぶれば禍をもたらし、和ぎれば、幸をもたらすとされる。こんな感じの物の怪」
そう言ってお国の黒服さんは、絵巻物を見せてくれた。
草履や杖や傘。体が生えて歩いている様子が描かれている。
「これを……作るんですか?」
「そう。古い道具はこちらで用意する。ジュリアちゃんは、その古道具を傀儡(操り人形)にしてくれればいい。いつものアレで」
確かに古道具さえあれば、絵巻物のような物の怪を作ることは出来る。でも……
「何の為にですか? 1つや2つじゃなくて、大量なんですよね」
私の質問に黒服さんはタメ息をついて、怖い声で話してくれた。
「質問は本来は受け付けない。しかし、今回は特別に教えよう。実はジュリアちゃんよりも、もっともっと特殊な能力を持った女の子がいる。あまりにも特殊過ぎるが故に『奇跡の人』と言われている。その力をぜひとも我が国の為に役立たせてもらいたいんだ。そう、ジュリアちゃんのようにね」
驕りを持っていた私は、その時に思ってしまった。
国民を幸せに出来るような特殊能力があるのなら、それは国の為、国民の為に使うべきである……と。
そう、私の「呪術師」の力のように……と。
「わかりました。しかし、九十九神を作る理由にはなってないかと……」
「陰陽師系列の女の子なんだよ。こちらがいくら説得しても応じない。「私の幸せは私が決めます」とのお言葉だ。自分だけ幸せになれればいいのかねえ」
今まで闇の世界での取引を見てきた私にはピンときた。
…………これは、九十九神を使って女の子を脅すな……と。
脅しの方法は様々だが、多分、女の子の回りに私が作るニセ九十九神もどきをウロウロさせ、女の子の大事な人を襲い、精神を揺さぶった後、再度お国の人々が登場。
「こちらに来ないとあなたの周りの大事な人に物の怪(偽物だけど)を送り込みますよ」
女の子が首を縦に振るまで脅し続けるのだろう。
それは、仕方ない。「奇跡の人」なんでしょ? 皆の為に力を使って当然よ。
納得した私は、九十九神型の傀儡を大量に作る契約を果たした。
家に帰って報告をしたら、おばあちゃんに烈火のごとく怒られた。
「特殊な力は国民の為に役立てるべきなの! 個人の幸せばっかり追求しちゃいけないの! 私たちはそうして生きてきたでしょ? そうでしょ? おばあちゃん!!」
おばあちゃんはタメ息をついただけだった。
「私が1人でする! それなら文句ないでしょ!」
「まだ、善悪もはっきりつかない子供に契約をさせるとはお国様も落ちたもんだ」
「子供じゃないわ! 特殊能力を人々の為に使わないその子が「悪」よ」
結局、おばあちゃんとは平行線を辿った。それでも、「契約を守る」為にしぶしぶ手伝ってくれた。
傀儡がある程度の数出来ると、今度は傀儡を操らなければならない。
私が操らないとあんなものは唯の気味悪いお人形だ。
傀儡作りはおばあちゃんに任せて、私は女の子の周辺にどんどん傀儡を出していった。家や学校、そして女の子の彼氏の前にも。
想定外だったのは、女の子(のちに神夜ちゃんと言う名前だと知る)の彼氏が陰陽師だった事だ。
私の傀儡を簡単に破壊してくれた。
数はまだまだ、あったからいいけど。やっぱり即席で大量生産品は弱い。
遠目で女の子が彼氏に抱きついてる様子を見て無性に腹が立った。
「特殊能力を国の為に使わないのは、その男の側にいたいからなのね」
特殊能力者としては、許されない行為だと感じた。
私は次々に傀儡を女の子の前に出現させた。そして、しばらくたったある日、ついに、
「私を貴方方の元へ連れて行って下さいますか?」
自分から私たちの元へやってきた。
私はまた、遠目でその様子を確認して、仕事は完了したって思った。
…………思って油断した。
何かの薬品を嗅がされて、拉致されて連れて行かれた。お国の秘密施設に……。
目を覚ました私は、黒服の1人に説明された。
「奇跡の人」が逃げ出したり、連れ戻しに来られたりしない為にも、このままここで傀儡を操り続けろと。「奇跡の人」神夜ちゃんはお姫様で、「呪術師」の私は姫様の護衛だったのだ。
私は自ら作った傀儡を操り続けて、姫を守り、監視し、邪魔者を排除する。
死ぬまで永久に操る契約だ、とまた契約書を見せられた。
「国民を人々を幸せに出来るかもしれない力」に初めて疑問と困惑と恐怖が生まれた。
私は、契約書にはサインせずに、従うフリをしながら、ひたすら逃げる機会を探し続けた。
そして、あの日がやってきた。
今日は傀儡が凄いスピードで破壊されていく……と焦りながら操っていた。
そもそも1人で何百体も操らせているから、1体1体に即時対応が出来ないのだ。
焦った私の耳に声が聞こえた。男の子の叫び声、神夜ちゃんの心からの悲鳴。
男の子は1人で施設に突入してきた。
一番上の階まで来たのがわかった時、思わず私も飛び出し、助けを求めた。
助けを求める私を置いて、男の子は神夜ちゃんの部屋に入っていった。
私はその隙に逃げた。
本能が「呪術師」だとばれてはいけないと告げていたからだった。
そして、その選択は正しかったのだと知る。
「呪術師はどこだ?」「呪術師を探せ」
山の中で数人の男の人が「呪術師」を探していた。
私は初めて「呪術師」を憎む人たちを目の当たりにした。
その人たちの怒りと乱暴な行動は、私を混乱と恐怖へ陥れた。
「この力は悪しき力なの? この力は使ってはいけないの? この力では人を幸せに出来ないの?」
ねえ。教えて! 教えて! 誰か!!
「呪術師ジュリア」が壊れていくのを感じた。