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最終部 足枷。

「泣くなよ」

 清水さんがそう言って優しく抱きしめてくれたけど、私の涙は止まらない。

「もう少しだけ……」

 涙と一緒に全てを洗い流したかった。

 罪、罪悪感、弱さ、妬み、そして自信のなさ。

 抱きしめられて何かを得たかった。

 喜び、とまどい、強さ、自信。

 私はそのまましばらくの間、泣き続けた。



 気持ちが少し落ち着いた頃、私は覚悟を決めた。

 清水さんがとった行動には、きっと大切な意味がある。

 ずっと気づかないふりをし続けたけど、もうダメだ。

 私はこの人を大事にしたい。

 離れてしまってもきっと大事に思える人だから。

 足枷にはなりたくなかった。

「行くの? イギリス」

 やっとの思いで聞けた一言。

 答えはわかりきってるけど、あなたの口からはっきりと聞かせてほしい。

 怖くても、寂しくても、辛くても、もう逃げないよ。


 清水さんの腕の力が緩んだ。

 私たちは少し距離をとって、お互いを見つめあう。

 永遠のように長く感じた数秒間。

「ああ。ジュリアが落ち着いたら行こうって思ってた。本当は京司郎より先に行って準備してなきゃいけなかったのに、俺が我侭言った」

「準備? 我侭?」

「留学なんて言ってるけど、もう日本に帰って来る気はないんだ。京司郎も俺も。向こうでヒーラーの事務所を開設するつもりだ。場所探しやら根回しなんかで俺がとっくに行ってなきゃいけなかったんだけど……」

「私のせい?」

 ああ、やっぱりと思う。

 私が清水さんの足枷になっていたのか。

 私が頼りなくて、フラフラしてて、自信を無くした呪術師で見てられなかったんだろう。

 出会わなければ、清水さんはとっくにこの場所にはいなくて、きっと今よりも生き生きしてた筈だ。

「ごめん……なさい」

 自分が情けなくて泣きそうになる。

 それでも、今ここで泣いてはいけない。

 もっと心配をかけてしまうから。

 笑って見送って……。

「違う! いや違うんじゃないけど違うんだ!」

「?」

「ジュリアが悪いんじゃなくて、俺が勝手にジュリアを何とかしてやりたいって思ったんだ。凄い術を持ってる筈なのに使おうとするたびに苦しんでるように見えたし、何かから逃げ出そうとしているようにも見えた。色々一緒に過ごして、少しずつ理由を聞いたり感じたりして、俺が勝手に「救い」たいって思った。ジュリアを」

 私はもう、十分に救われていたよ。

 あなたに出会えたから。

 最後に神夜ちゃんにも会うことが出来た……。

 1人では一生会うことなんて考えられなかったよ。


 我慢してた筈なのに、涙がまた零れた。

 この涙は感謝の涙。

 だから、許して。

 別れの涙じゃないから。


 泣いて、泣いて、泣いて。

 涙が枯れた頃に自分の惨状に気づく。

 きっと顔もひどくて、声も枯れてる。

 笑おうって決めてたのに、もう少しだけ時間がかかりそうだ。

 清水さんは私が泣いている間、ずっと黙って側に居てくれた。


 私は最後になるであろう「この時間」が愛しかった。

 もう少しだけ、このままでいたかった。

 いつもの様に過ごして、最後に笑って別れたかった。

 だから、いつものように疑問を投げかける。

 それも、きっと最後。

「どうして神夜ちゃんの家まで知ってたの? 他にも色々情報通で」

「自分だけが特別じゃないって何度も言ってるだろ? 正直陰陽師なんてのはこんな世界では有名人なんだよ。俺達に比べて数も多い。癒者一族は人数こそ少ないが、結束が固い上に、癒者を必要としている連中はこの国の中枢にいる人間だからな。多少の裏事情は流してもらえる。陰陽師、神夜で調べてもらったらすぐにわかったよ」

 陰陽師なんて職業ですら人数が多いと言う清水さんの癒者一族。

 そしてさらに人数が少ないだろう私の呪術師一族。


 本当に、本当に一瞬、おばあちゃんも呪術師も全て捨ててイギリスについて行ってしまいたいと思った自分を恥じる。

 やっぱり私には呪術師の道は捨てられない。

 貴重な一族、呪いの一族。

 それでもそんな私の力を必要としてくれる人がいる限り、この力は絶やしてはいけない。

 私は私の道を歩く。

 やっと決意が出来た。


 もう半分だけの呪術師なんかじゃない。

 心も体も「呪術師ジュリア」に戻った気がする。

 それもこれも、全ては清水さんのおかげだ。



「今までありがとう」

 私、笑えてるかな。

 もう心配ないよって思ってもらえてるかな。


 強がりかもしれないけど、今だけは強がらせて。

 私は清水さんに微笑んだ。


「来月にはもう出るんだ。一緒に……行かないか?」

 ダメ! 言っちゃダメ!

 私は首をふった。

 今の私では、イギリスでのあなたの手伝いは出来ない。

 足枷にはなりたくないの。


「俺の側にいてくれよ……」

 いたいよ。私だって側にいたい。

 でも邪魔にはなりたくないの。

 勢いだけでは不安なの。


 首を振り続ける私を清水さんが抱きしめた。

 耳元で囁かれる。

「一緒にいてくれよ」


 私の笑顔の砦が決壊する。

 また涙が零れた。


「行けない。今の私では行けない。でも今日だけはずっとそばにいたい」

 最後の我侭。

 最後の時間。


 私は生まれて初めて、おばあちゃんには言えない秘密の外泊をした。











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