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最終部 罪と被害者。

 知りたいと答えた私の目を、清水さんは見つめ続けた。

 しばらくして薄く笑った。

 いつもの笑い方に、少しホッとしてしまう。

「本気っぽいな。じゃ……行くか」

「行くって、どこへ?」

「本人達の所に決まってるだろうが」

 そう言って、再び車のエンジンをかけた。



 大きな大きな「お屋敷」の近くに、車を止めた。

「ここって……」

「そ。神夜ちゃんの家」

 この人は、本当に一体何者なの?

 どうして「陰陽師」「神夜」の単語だけで、家まで知ってるの?

 呪術師にしろ、陰陽師にしろ、職業は隠されている筈なのに……。

「そろそろ……かな?ジュリア降りろ」

「え?」

「車から降りて、会って来い」

 言われている事はわかるのに、体が動かない。

 知る事は覚悟したが、会う事までは覚悟してなかった。

 固まってしまった私を見て、清水さんが車を降りた。

 そして、外から助手席のドアを開ける。

「ほら。早くしろよ」

 そのまま手を引かれて、私も車から降りた。


 車の陰に隠れるようにして、固まってしまった私の背中を清水さんが優しく撫でた。

「大丈夫。一緒にいてやるから」

 体がヘンだ。

 徐々に自分の体が温まっていくのを感じる。

 ポカポカして、心地よくて、優しい。

 体内から「何か」が溢れ出てきて、恐怖がなくなり、私は真っ直ぐに立つ事が出来た。


 清水さんの癒者の力。

 温かくて、優しくて、訳もわからず切なくなる。

 胸が壊れそうなほど軋んだ。


 

「来たな」

 その言葉にハッと顔を上げる。

 清水さんの見つめる先に、長い黒髪の綺麗な女の子がいた。

 数回しか見ていないが、間違いない。神夜ちゃんだ。

 2年の間に、なんて綺麗になったんだろうか……。

 同姓でも見とれてしまう美しさを称えた、とても綺麗な女性に成長していた。

 声をかける前に、小走りで私達の横をすり抜けて、家に入ってしまった。


「もう、いいです。ありがとうございました」

 あの姿を見れば、誰でもわかる。

 今はとても幸せに、愛されて生きている。

 あの美しさは「恋をしている女の子」の表情。

 幸せなら、それでいい。

 今さら昔の話をして、不快な出来事を思い出させる必要はない。


 私と清水さんが車に乗り込もうとした時「お待ち下さい!!」とお屋敷の入り口から大声が聞こえた。

 男性が出て行こうとするのを神夜ちゃんが必死に引き止めている姿が見えた。

 あの人……。

 見覚えがあった。

 神夜ちゃんを助けに来た、あの男の子だった。

 少し背が伸びて、大人っぽくなっているが間違いない。

 よかった? のか? 喧嘩中のようだ。


「だから!! お前は連れて行かないって! 何回も言わせるな!!」

「嫌ですわ! この前やっと帰って来られたのに、今度は北海道ですか? 嫌ですわ! 神夜も一緒に参りますわ」

「お前受験生だろうが! いいから家にいろよ! むしろ家にいてくれ! 頼む! 邪魔だし危険なんだよ」

 男の子が神夜ちゃんを振り切って、こちらへ歩いて来た。

 そして、目が合った。


 思いがけない再会に少し怖くなって、思わず清水さんの手を握った。

 清水さんも少し握り返してくれる。

 これで、大丈夫、怖くない。


 男の子は私と清水さんを交互に見た後、微笑んで、何も言わずに去って行った。

「な……んで?」

 罵倒される覚悟をしていた私は拍子抜けして、座り込んでしまいそうになる。

 そんな力の抜けた私を乗せて、清水さんはお屋敷の前から車を出した。


 戻って来たのは、いつものチャペル内の清水さんの部屋。

 私は、まだ呆然としたまま、ベッドに腰掛けた。

「はい」

 清水さんが渡してくれたのは、私がいつもここで飲んでいるミルクティ。

 いつの間に買ったんだろう? そんな事すら見えていなかった。

「ありがとう」

 そのまましばらく、私たちは無言でお茶を飲んだ。


「知らないんだよ」

 清水さんは空き缶をゴミ箱に入れながら言う。

「え?」

「知らないんだよ。ジュリアが呪術師だってな」

 知らないなんて、そんなバカな事……。

「事実。実際に陰陽師連中が必死に探しているのがハーフの女だって情報はない。まあ、実際そんな呪術師がいるなんて思わないだろう? 普通はな」

「でも、私、あの男の子と会って、言葉まで交わして……」

「信じてもらえなかったんだろうな。他に誰も姿を見なかった女。あの陰陽師連中の目を誤魔化せて逃げ出した女、しかも若く綺麗でハーフっぽい。信じてもらえなくても仕方ないかもな。非現実的過ぎる」

 ハーフの若い呪術師。

 そんなにも非現実的? なんだろうな、と自分でもなんとなく納得する。

『血族を重んじる特殊な仕事。ほぼ一子相伝のように伝えられる秘術』

 そんな術を使える外人がいるなんて、考えがたいのかもしれない。


「だから、ジュリア・フローレンス・野中って言う女は誰からも恨まれていない」

「それは! それは私だと知らないだけで、実際は酷い事をしたのは変わらない事実で…」

 誰だかわからなくても、自分は自分の罪を知っている。

 自分だと知られてないからと言って、その罪は消えない。

「恨まれてるように思ったのか? 今日の2人を見て?」

 綺麗になり生き生きと男の子と接していた神夜ちゃん。

 邪険に扱いながらも、神夜ちゃんを大事にしているのが全身から溢れていた男の子。

 とても幸せそうに……見えた。

 それでも、私は……。


「もう、許してやれよ、自分をさ。あの2人はとっくに許してくれてると思うぜ。いつまでも罪に縛られて生きているのはお前で、1番の被害者もお前なんだよ」


 本当に、私も私を許してもいいの?


 涙で言葉が出なかった。



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