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第三部 ごめんね、ありがとう。

「お母さん?」

 穏やかな表情を浮かべる、清水さんのお母さん。

 憑き物が落ちたって言うのは、本当にこんな感じなのか。

「ありがとう」

 頭の中に優しく響く声。


 私の声が聞こえたの? 届いたの?

 お母さんを救えたの?


「どうして泣いているの?」

 お母さんに言われて、自分が泣いている事に気づいた。

「よかったっ……て……」

 言葉が上手に出ない。

「あらあら。大河の彼女さんは泣き虫なのね」

「ちが……」

「私が大河に怒られてしまうわ。ね? 大河」

「え?」

 いつの間にか、襖が開いていた。

 清水さんが泣きそうな顔で、私達を見つめていた。

「いつから……」

 いつから見られてたのだろう。

 全然気づかなかった。

 周りの気配を感じる事も出来ないほどに、私はお母さんに話しかけていたのかと、少し恥ずかしくなる。

「大河。元気?」

「ああ。母さんは、ずっとこの家に1人でいたのか?」

「ずっと?」

 お母さんは何かを思い出そうとしているみたいだった。

 下を向いたまま、考え込んでいる。

 清水さんは私の横に座り、お母さんと向かい合った。


「違うわ」

 しばらく経って、お母さんの声が聞こえた。

「呼ばれたの。誰かに。暗くて、悲しくて、怖い所にいた私を誰かが呼んだの。気づいたら家に戻って来ていて、誰かが来るのを待っていたの」

「誰かって?」

 清水さんが問い詰めようとした時、朝日が一筋部屋の中へ入って来た。

「ごめんね、大河。もう時間切れだわ。私はまた暗い場所へ帰らなければいけないみたい」

 お母さんの体が少しずつ消えていく。


 そんな! 折角話が出来たのに!


 握ろうとしたお母さんの手を、私は握る事が出来なかった。

 透けて、通過してしまう。

「お母さん! 帰らないで」

 もう少し、清水さんの側にいてあげて。

「ごめんね。大河の事を宜しくね」

 その言葉を最後に、清水さんのお母さんは完全に見えなくなった。



「泣くな」

 清水さんに頭をポンポンされて、また自分が泣いている事に気づく。

 やっぱり2人は親子だ。よく似てる。

 そんな優しい親子に、もう少しだけ時間を上げたかった。

「ごめん……なさい。私が……能力がなくて……折角会えたのに」

 もっと、もっと色々な事を、勉強すればよかったんだ。

 そうすれば、もっと2人の時間を作れたかも知れないのに……。

 自分の不甲斐なさが悲しい。

「私が、呪術師じゃなくて! もっと他の!!」

 言葉を最後まで言い終わる前に、清水さんに抱きしめられた。

「ありがとう」


 びっくりしたのと、安心したのと、嬉しかったのと、悲しかったのと。

 色々な感情が一気に押し寄せて、睡眠不足だった私の体を直撃して。

 情けないけど、私は清水さんに抱きしめられたまま、気を失うように眠ってしまった。




「ん……」

 何か焦げ臭いような……。

 起き上がると私は、急いで焦げの匂いが漂っている方へ走った。

「やっぱり……」

 鍋が強火にかけられたまま放置されている。

 煙が凄く上がっていて、急いで火を消す。

 鍋の上から思い切り水をかけて、煙が収まったのを確認してから、一息ついた。


「起きたのか?」

 後ろから清水さんの声が聞こえて、振り向くと両手いっぱいに野菜をぶら下げていた。

「ん? なんか焦げ臭いな」

「鍋に火をかけたまま、外にいっちゃダメ! 私がいなきゃ、この家火事になってるよ!!」

「あーごめん」

 全然悪くなさそうに謝る。

 そこで、気づいた。

 辺りがもう真っ暗になっているのに。

「私……もしかして、ずっと寝てたの? 朝から?」

「ああ。よっぽど疲れてたんだろう。徹夜ばっかりしてただろ?」

 お母さんを待つのに、確かに3日ほどよく寝てなかったけど、そんな事より……。

「知ってたの?」

 薄く笑ういつも通りの清水さんの笑みを久々に見た。

「気づかれてないって思われるほうが心外だよ。初日から鈴の音が聞こえるわ、母さんの叫び声は聞こえるわ、でさ」

「じゃ、どうして……」

 初日から現れなかったの? と聞こうとして思い出した。

 悪霊化していたお母さんの表情。

 恨み、妬み、悲しみ、孤独。全てが混ざったような悲痛な叫び。

「正直、直視するのが怖かった。結局また逃げて、ジュリアに甘えた」

 なんとかしてくれるんじゃないか? ってさ。

 最後の方の声は小さくて聞こえなかった。


 自分の母親が恨みを叫びながら現れる。

 そんなのを直視出来る人はいるのだろうか?

 清水さんが二の足を踏んでも仕方なかったのかも知れない。


「それにさ、俺がいない方が母さんは落ち着いてくれるんじゃないかって思った。いい訳に聞こえるかも知れないけどさ」

「それは……。確かによかったのかも」

 私という見ず知らずの相手だから、お母さんも家族への恨み辛みの話をする気になったのだろう。

 知らない相手の方が話しやすい事もある。


 なんとなくお互いに黙り込んでいると、玄関の扉が開かれた音がして、誰かが入って来た。

「大河、飯出来た?」

 現れたのは、やっぱり京司郎さんだった。

「あれ? ジュリアちゃん……それコスプレ? 大河の趣味?」

「…………」

 私! 黒巫女の装束のまま寝てたんだ! しかも、そのまま飛び出して来たから!

 今さら気づいても遅かった。

 京司郎さんが私の周りをグルグル回りながら、観察している。

「ふーん。神道系の呪術師さんって感じかな? いいねえ。着替えさせたくなかった大河の気持ちがよくわか……」

「そんなんじゃねーよ!!」

 清水さんの怒声。


「ごめんなさい! 着替えてくる」

 慌てて飛び出そうとした私を京司郎さんが止めた。

「ごめん。冗談じゃなく、その格好の方がいいかも知れない。話があるんだ」

 いつもの明るい声じゃない京司郎さんの真剣な眼差しに、私の足は止まった。


 何かあったの?






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