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第三部 私に出来る事。

 軽く昼食を食べた後、清水さんは情報収集の為に出かけていった。

「俺が近づいたら、逃げるだろうけどな。なにせ呪いの犯人の息子だからな」

 かなり辛そうだった。

 それなら、私がと言いたかったけど、村人はよそ者には厳しいらしい。

 余計に足手まといになりそうで、自宅待機になった。


 実は、その方がよかったのだけど。


 清水さんがいない間、私は借りている部屋でこっそり準備をした。

 部屋の真ん中付近に晴明紋を象った小さな結界を作る。

 普通の結界と違うのは、頂点付近に置かれた札が全て呪札である事。

 霊をおびき寄せ、そして逃がさない為の工夫だ。


 私には陰陽師のような浄化の力はない。

 出来る事はきっと……。


 不安になる。

 それでも、出来る限りはやってみよう。

 清水さんのお母さんの為に。

 なによりも、清水さんの為に。


 結界の用意が出来た私は、黒巫女の装束を見えない場所へ隠した。

 全ては、夜が来てから。

 辺りが闇に包まれる漆黒の時間からだ。

 私はまた、黒巫女になる。



「なんか、変わったことなかったか?」

 夕方近くになって帰って来た清水さんは、疲れていた。

 ぐったりと座り込む。

「え? ううん。別に」

「変なヤツが来たとか、京司郎が来たとか?」

「誰も来てないよ」

 私の返事にホッとした顔をする清水さんを見て、村でよっぽど酷い扱いを受けたのだろうな、と思う。

 私が言えるべき立場ではないけど、この村は異常だ。

 能力者が固まって生活すると、ここまで排他的になってしまうのだろうか?

 自分の一族なんて、おばあちゃんしか知らない私にはわからないけど。


「疲れたでしょ? えっとね夕食は簡単に作ってあるの。後は勝手にお風呂も掃除させてもらった。先にご飯にする? それともお風呂に入る?」

「じゃあ……」


「お前にするよ」

「????」

「????」

 2人で黙り込む。だって、清水さんの声じゃない。


 居間の襖の外から聞こえた声。

 清水さんが乱暴に襖を開けると、京司郎さんが苦笑いして立っていた。

「いやあ、会話があまりにも新婚さんなんで、ついつい定番のセリフを言っちゃった」

 話しながら笑いだす京司郎さんを見て、そうかも知れないと今さら恥ずかしくなる。

「何しに来たんだよ」

 清水さん本気で怒ってる? めずらしい。

「ジュリアちゃんと夕食でも食べようかってな。話を聞いてれば、もう夕食の準備が出来てるそうで……。俺の分もある?」

「あ……はい。今日はカレーですから、量はありますよ」

「やったね。来てよかった」

 京司郎さんが居間のテーブルに座り込んでしまったので、私はなんとなくカレーを温め、サラダをもう1人前追加で作った。

 簡単なもので正解だったみたいだ。


 カレーとサラダを運ぶと、清水さんはブスッとして、京司郎さんはニコニコしていた。

「ごめんねジュリアちゃん。大河が拗ねちゃってさあ」

「拗ねてないよ、別に」

 本当に、こんな子供みたいな清水さんめずらしい。

 やっぱり気心の知れた従兄弟の前では、昔に戻れるのかも知れない。

 この村に来て、清水さんの色々な顔が見れた事が嬉しくて、私はつい微笑んでしまった。

「……本当に美人だよなあ。ジュリアちゃんどう? こんなバカは止めて、将来有望な俺と一緒にイギリスに行くなんてのは?」

「イギリス……ですか?」

 私のもう半分の故郷。

 行った事はないけど、父方の祖父母が住んでる筈で。

 考えたら、私は自分のルーツのもう半分をまったく知らない。


 私がイギリス行きに悩んでると思った京司郎さんが、さらに話そうとする。

「ほら俺、優秀だからさ。留学許可が出たんだよね。国からさ。俺達みたいな力を向こうではヒーラーって言うらしくて、医学現場だけじゃなくて、精神の治癒にも普通にヒーラーが活躍してるんだよ。日本じゃ数人の権力者にしか出来ない治療を向こうでは、一般人にも施せる。医者と癒者は同じ立場で活躍出来るんだ。素晴らしい事だと思わない?」

 日本では影の職業でも、イギリスに行けば普通の職業になるんだ。

 それは、素晴らしいかも知れない。確かに。

「夢みたいですね。普通に職業が名乗れるなんて」

「いやあ、呪術師はさすがにないかもよー」

 呪術師。

 京司郎さんが明るく言うと、全然嫌な響きに聞こえなかった。

 不思議だ。

 太陽の様に明るい人だから、その暖かさで人を癒せるんだろうな。

 素直に、そう思った。


 食べながら、話しながらなのに京司郎さんの食べるペースは早い。

 勝手におかわりをしに行く京司郎さんの背中を見ながら、清水さんが私の頭を軽く叩いた。

「な……何?」

「京司郎のペースに呑まれてるんじゃねーよ」

 もしかして、妬いてる? とか。

 何に? 私の態度に? それともイギリスの話に?


 結局そのまま、京司郎さんが全てのカレーを平らげて「また明日」と帰って行った。


 私は先にお風呂を頂いて、その後疲れたからと、借りている部屋へ引き上げた。


 音がしないように、こっそりと着替える。

 ジュリアから黒巫女へ。

 今日は呪術師ではなく、黒巫女になろう。

 呪いは使わないのだから。


 夜が更けて闇に包まれるその時まで、私は結界内部でジッと待った。







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