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第一部 呪術師として。

 普通じゃないな。見た目は天使、中身は悪魔。


 チャペルから逃げるように飛び出した私は、人気のない本館の裏側で息をついた。

 やっぱり緊張していたのか、手に汗をかいている。


 本館の裏側には観賞用だと思われる桜が植えられていて、満開に咲き誇っていた。

 風が吹いて桜が揺れる。視界がピンク色に染まって、また風が吹く。

 私はその幻想的なピンク色の世界で1人孤独を感じた。


「普通じゃないのはわかってる」

 私の声も桜吹雪と一緒に飛んで、儚く消えた。


・・・・・


「ただいま」

 ゆらゆらした気持ちのまま自宅に帰る。

 ゆらゆらしてふわふわして、落ち着かない。

 たった1人の言葉に、私の脆い心は砕けて、落ちそうに……。

「何をボーッとつっ立ってるんだい?」

 おばあちゃんの声にビクッとなる。

 おばあちゃんには心配をかけたくない。

「何でもないよ。ちょっと大学の人ごみに酔っちゃったダケ」

 自然に見える笑顔を作る。


「…………何があったんだい?」

 私の笑顔の仮面が剥がれそうになる。


 まだダメ。まだダメだ。

「何もないよ。どうして?」

「あんたはね、ウソをつく時口を引き締めるんだよ。1回ギュッってね。子供の時から見てるんだ、誤魔化される訳がないよ」


 まだダメ。まだダメ。おばあちゃんには心配かけたくないの。

「呪術師」としての迷いを知られたくないの。

 私を育てて、立派な「呪術師」になれるように、教えてくれた人だから。


「仕事かい? それとも大学で何かあったのかい? 言ってごらん?」

 優しい口調に涙が零れそうになる。それでも、私は言えない。言ってはいけない。

「呪術師としての迷いかい?」


 苦しくて、苦しくて心の砦が崩壊する。

 涙が一筋、零れて落ちた。



・・・・・


「ふーん。そんな男に会ったのかい。それは珍しいねえ」

 珍しいの言葉に反応してしまう。

「珍しいって。じゃあ、稀にはいるって事? 一目見ただけで呪術師ってわかる人が?」

「呪術師だとはわからないと思うよ。唯ね、感じるみたいなんだよ。私達が今まで行った呪い。多少なりともその返しを受けてるだろう?その残り香みたいな物をね」


 呪いは万能な物ではない。それは小さい頃からおばあちゃんに口を酸っぱくして言われてきた。

 相手を呪えば、自分も傷つき呪われる。

 呪いを依頼した人も、呪いを実行に移した私達「呪術師」も。

 それが、呪い返しなのだ。

 多少は防げる秘儀があるけど、少しずつ呪いは自らの体を蝕み、そして不幸が襲う。

「呪術師」の絶対数が減ってしまっているのは、時代の流ればかりではない。


 絶滅へと自らの足で走り続けているのだ。


 それでも、「呪術師」がまったくいなくならないのは、「呪い」を必要としている人々がいるから。

 その人々が我が国でトップに並んでるような人なら、簡単に絶滅も廃業もさせてはもらえない。

 もう「呪術師」はお国のお抱えになってしまっているのだ。


 私はもう、この力からは逃げられない。


「……リア。ジュリア聞いてるのかい?」

 おばあちゃんの声にようやく現実方面へ思考が働き出した。

「ごめん。何だか色々考えちゃって」

「はあ。いいかい? よくお聞き。あんたを呪術師にしたのは確かに私だ。あんたの母親、つまりは私のバカ娘の代わりにね。それ自体は悪くなかったと思ってる。そうしないとあんたを引き取る事が出来なかったからね。でも、もう呪術師として一人前の力が付いた今は、ジュリア、あんたが決めるんだ。その力をどう使っていくのかをね」


 お母さん。

 おばあちゃんの口からお母さんの単語が出たのを久々に聞いた。


 おばあちゃんの娘、つまりは私の母親もまた呪術師だった。

 母親は優秀な呪術師で、若い頃から、いくつも大きな仕事を依頼されていたらしい。

 そして、ある日の仕事中に私の父親と出会う。

 母はお国のお抱え呪術師、父はヨーロッパの普通の大使館職員。

 そんな2人の交際など認められるはずもなく、父と母は逃げた。

 それも、ヨーロッパへ。

 各国を転々と周り、数年後ようやくイギリスへ落ち着いた。

 そして私が生まれて、1歳の誕生日を迎える頃に事故で2人とも死んだ。

 私は同じ車に乗っていたが奇跡的に無傷で保護され、血縁者に引き取られる事になった。

 父の両親とおばあちゃんは揉めに揉めた。

 それでも、どうしても私を引き取りたかったおばあちゃんは、お国に力を貸してもらう事を思いつく。

 父の両親とおばあちゃんの間にお国の人が入り、私は無事におばあちゃんに引き取られる事になったのだが、引き取り間際になって、厳しい条件が出された。

1 つは私を「呪術師」にする事。2つは国内から出さないこと。3つはお国の為に力を使うこと。

 2と3は私とおばあちゃん両方への条件だ。


 そう、私は両親が亡くなってからは「呪術師」ジュリアの道を歩むことを決められてしまったのだ。


 後悔はない。

 おばあちゃんはいつも言う。「この力は使い方だよ」って。

 人をとてつもなく不幸にするか、それとも幸福に出来るか、それは使い方次第だって。


 優秀なおばあちゃん、母親の影響で私も優秀だと言われるようになった。

 優秀な子供は愚かなプライドと力に対する驕りを持った。


 そして、愚かな私はあの事件を引き起こす事になったのだった。


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