第三部 見えない犯人。
「丑の刻参りを止めるって、一体誰の?」
想像はつく。
でも、聞きたくない。
「俺の……母親……」
清水さんの声が小さい。
聞こえないほどに小さくて、悲しげだ。
「お母様って、亡くなった…………」
やっぱり清水さんには辛すぎる依頼。
「…………」
なんて言葉をかければいいの?
「正確には違うだろ? 大河」
京司郎さんの声が響く。
「正確には、大河の母親だって村で噂をされている誰だかわからない犯人……だろ?」
「え?」
「わからないんだよ。犯人がさ」
京司郎さんが、清水さんの後を継いで説明をしてくれた。
ここ数ヶ月。
癒者の村の女性に異変が起きる事件が続いた。
急な病。ケガ。偶然とは思えない事故、災難。
そんな不運に見舞われるのは「癒者の力」がある女性。
清水さんの母親のように、まったく力のない他から嫁いだ人には、何1つ不幸はない。
自然に村の女性の間では「呪い」だと、言う事になる。
噂が噂を呼び「こんな強力な呪いは、丑の刻参りしかない」となる。
丑の刻参り=清水さんの母親
このイメージが村内では、根強く残っていた。
そこから「清水さんの母親は死んでなお、癒者の力を憎んでいる」となった。
そして、清水さんの父親に連絡が行き、清水さんも話を聞くことになる。
「まさか……って思いと、やっぱりなって思いが両方あってさ……」
自責の念からなのか、もう清水さんの母親に興味がないのかは知らないが、父親は村からの連絡をまったく無視した。
『気になるなら、お前がなんとかしろ』
清水さんが父親からかけられた言葉はそれだけだった。
もう捨ててしまった村だとはいえ、自分の母親のせいだと言われれば気になってしまう。
「俺が最初に救えなかったから、まだ彷徨ってるんじゃないかって」
最初は1人で帰るつもりだった、と清水さんは言う。
「本当に母さんなら、俺には救えない。死人は救えないんだ! 2度も救えないなんて、もう耐えられない。だから、ジュリアに甘える事にした。私事に巻き込んで本当に申し訳ないんだが……」
「私で力になれるなら、頼ってくれていい。だけど……」
犯人がわからない。
これは、以外に難しい事件なのかも知れない。
「私、昨日の夜……」
声を聞いた、と言おうとして止めた。
怨みの声。
多分、清水さんの母親だろう。
でも、本当に清水さんの母親が犯人なのかは、わからない。
結論が出るまで黙っていよう。
清水さんをこれ以上苦しめる必要はないのだから。
「昨日……何かあったのか?」
清水さんに覗き込まれて、我に返る。
「う……ううん。何もない。昨日の夜、京司郎さんの声を聞いた気がしたなあって」
咄嗟に誤魔化したつもりだったのだけど……。
「あー。大河の物凄いガードでジュリアちゃんに会わせてもらえなかった時? 心配しすぎだよな。いくら何でも、大河の女に手は出さないよ。ね、ジュリアちゃん」
「…………」
「…………」
私達は、何も言えなかった。
「違います」とも「そうです」とも言わないのは、何故なの清水さん。
私、少しは誤解しちゃうかも知れないよ。
唯の仕事仲間じゃないかもって、期待しちゃうかも知れないよ。
それでもいいの?
こんなに、ややこしい女でも、いいの? って思っちゃうよ。
私にはまだ、そこまで聞ける、自信と勇気はなかった。
黙り込んだ私達を見て、京司郎さんがニヤリと悪い微笑みをした。
「ふーん。まだお互いに気持ちは確認していないと。いいねえ、若いねえ、青春だねえ」
「…………京司郎、もう帰れ。仕事の話は終わったから帰れ」
これ以上ヘンな空気にならないように、清水さんが京司郎さんを追い返した。
2人きりになって、室内が静寂に包まれる。
この、空気なら京司郎さんがいてくれた方が、よかったかも知れない。
た……耐えられない、何か!!
「あ……あの」
「えーっと」
私達は同時に口を開いた。
「あっ! 清水さんからどうぞ」
「え……えっと、あっ! そう。仕事の手順なんだが……」
結局私達の間には、まだまだ違う空気は流れそうになかった。
そのまま、問題点を確認していく。
1 原因は本当に呪いなのか?
2 その場合の犯人は誰なのか?
3 丑の刻参りと言うわりに、何故犯人は目撃されないのか?
(この村での、お互いの監視体制は、それはそれは厳しいらしい)
「正直、どこから手をつけるべきか……」
清水さんの悩んでる姿を見ながら、私は問題点を、心の中で付け足した。
4 昨夜の呪いの声の正体は、本当に清水さんの母親なのか?
私に出来る事。
問題点4から片付けてみよう、と秘かに誓った。
死人の相手なら、私の方が役に立てるはずだ。
頭の中で、持ってきた道具、術の確認を済ませていく。
それでも、私は「呪術師」で。
死人の救い方すら、わからない。
清水さんの母親を捕らえて、使役する。
そんな事はしたくない。
呪術師の私に、どうやったら、死人を本当に救えるのか?
今回ばかりは、清水さんに頼らないで、1人で決着をつけたい。
簡単に方法を思いつかない自分に、物凄く腹立だしくなった。




