表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

第三部 清水さんの罪。

 母親が死んだ? 清水さんが癒者の才能を伸ばさなかったから? そんな事が……。

 黙り込んでしまった私を見て、清水さんは自嘲気味に笑う。

「大河。お前、まだ何もジュリアちゃんに話てなかったのか?」

「ああ」

 本当に私は何も知らなかった。

 清水さんの一族も、癒者なんて職業も、お母様の事も。

 もっと、知りたい。

 もっと、あなたを知りたい。

「お母様の話。よかったら聞かせて?」

 清水さんは少し悲しそうな顔をしながらも、頷いてくれた。


 そして、また静かに話し出す。

「俺が高校生だった頃の話だ……」

 清水さんが普通の高校生として、普通の勉強をし、普通の部活動に入り、普通の友達と遊び、全てを満喫していた頃、清水さんの母親は強く、強く憎む相手が出来た。

「俺の……父親だよ」

 癒者として、そこそこの能力があった父親は、単身赴任と称して、都内で暮らしを始めた。

 若い村の女の子を連れて……。

 癒者の村では「能力のある者」はその血を残す為に、色々な女性と関係を持つ事が許されていた。

 全ては「癒者の血」の為だった。

「この村は、本当に特殊なんだって、村を出て始めて知ったんだ」

 癒者の力のない母親は、村では発言権を持たない。

 ただ、ただ、黙って村人の好奇の視線や言葉に耐えるしかない日々だった。

 そして、全てを憎むようになる。

 自分の亭主を、村人を、何よりも能力のない自分自身を……。

「俺は、毎日毎日、自分の事ばっかりで、母親の異変に気づくのが遅れた」

 清水さんが気づいた時、母親はもう呪い返しを受け心身ともに衰弱していた。

 元から体の弱い人だったのが、さらに異変を気づき難くしていたのだ。

「人を呪うってさ……凄いエネルギーがいる行為なんだよ」

 体が弱いのに、清水さんの母親は、毎日毎日「丑の刻参り」に出かけていた。

 冬場に水を浴びて体を清め、薄着をして、雪の降る中を出かける。

 毎日、毎日、毎日。

 そして、倒れた。

「俺は母親の手を握り続けた。でも、ダメだった」

 能力ちからを伸ばす努力をしなかった清水さんは、今より、もっともっと癒す力がなかった。

 それなのに、癒す相手は重度の呪い中毒にかかった母親、しかも呪い返しで体も心も凄いスピードで弱っていく。

 倒れた母親に付き添って3日3晩手を握り続けた清水さんだったが、力及ばずに母親は亡くなった。


「俺は、自分自身を憎んだよ。所詮は甘えてただけだったんだ」

 能力がないと落ちこぼれ扱いされた事.

 違う力があるのがわかってたのに、努力しなかった事。

 都合のいい時だけ母親と会話した事。

 そんな母親が倒れた時にだけ、癒者として力を使おうとした事。

「全ては、俺自身の努力不足が招いた結果だよ」


 私は清水さんに言われた言葉を思い出した。

 私が幼い頃から呪術師の道を決められ、努力し天狗になった話の時だ。

「俺とは逆だな」

 と言った清水さん。

 あの時は、言葉の意味が全くわからなかったけど、今ならわかる。

 努力をしなかったので、一番大事な時に能力ちからを出せなかったと言う意味だったんだ。


 私はかける言葉を失ってしまった。


「ちょっと、休憩しようか」

 清水さんはそのままゴロンと横になってしまったので、私は新しいお茶を淹れに席を立った。

 台所でお湯が沸くのを待っていると、居間での会話が漏れ聞こえてくる。

「大河。お前の気が急に変わったのは、あの子のせいなのか?」

「…………行かないとは言ってない。待ってほしい」

「すぐにでも着いて来る感じだったのにな。話が出た時は。変われば変わるもんだな」

 京司郎さんの笑い声が聞こえる。

 今の会話は何なんだろう。

 行くとか行かないとかって何?

 怖くて、その話を聞くことは、まだ出来そうにない。

 私が新しいお茶を配ると、一息ついて、清水さんがまた続きを話してくれた。

  

 清水さんの母親が亡くなって、しばらく経った頃に京司郎さんが、また顔を出してくれた。

 その顔を見て清水さんは能力ちからを伸ばす決心を固めた。

 修行はもちろん京司郎さんにしてもらい、勉強は家にあった秘蔵書から、神道、密教、霊術、呪い、徐霊方法、陰陽術、勉強しなくてもいい事まで勉強をした。

 もう、努力不足の自分を嘆くのは嫌だったのだそうだ。

 2年も経つ頃には霊が見えるようになり、だいぶ「心の癒し」を使えるようになったが、やはり傷を治す力は現れなかった。

 村では落ちこぼれのままなので、能力を使える機会がなかった清水さんは、京司郎さんの進めもあって、今の大学に進学した。

 京司郎さんは大学の先輩なのだそうだ。

 その伝手やら何やらで、チャペルの部屋を早々に借りる事が出来た上に、「救い」の依頼も多少は舞い降りて来た。

 1年2年と1人で四苦八苦しながら、さまざまな「救い」の依頼を請け負ってきた清水さん。

 そして、私が現れた。


「最初見たときは、本当にびっくりした」

 どう見ても外人にしか見えないのに、周囲に纏っているのは明らかに「呪い返しの念」

 しかも本人は平気そうで無害。

 次に再会した時には、明らかに霊が見えてる。

 しかも平気な顔で近づいていく。

「こいつは何なんだ! って本気で思ったし気になった」

「私って、そんなにヘンな子でした?」

「ああ。見たことがないな」

 少し傷つく。そこは否定してほしかった。


 なんとなく清水さんと見つめ合っていると、前からワザとらしい咳払いだ聞こえて、私達は我に帰った。

「えー。そう言う会話は2人っきりの時に頼むよ。まだ仕事の話、してないだろうが」

 真っ赤になってしまった。

 そうだった。私が何故この村に来たのかは、聞いてなかった。

「今回の仕事は、楽って言えば楽だし、辛いって言えば辛い」

「???」

「丑の刻参りを止めてほしいんだ」

 清水さんの顔が悲しげに歪んだ。 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ