第三部 清水さんの罪。
母親が死んだ? 清水さんが癒者の才能を伸ばさなかったから? そんな事が……。
黙り込んでしまった私を見て、清水さんは自嘲気味に笑う。
「大河。お前、まだ何もジュリアちゃんに話てなかったのか?」
「ああ」
本当に私は何も知らなかった。
清水さんの一族も、癒者なんて職業も、お母様の事も。
もっと、知りたい。
もっと、あなたを知りたい。
「お母様の話。よかったら聞かせて?」
清水さんは少し悲しそうな顔をしながらも、頷いてくれた。
そして、また静かに話し出す。
「俺が高校生だった頃の話だ……」
清水さんが普通の高校生として、普通の勉強をし、普通の部活動に入り、普通の友達と遊び、全てを満喫していた頃、清水さんの母親は強く、強く憎む相手が出来た。
「俺の……父親だよ」
癒者として、そこそこの能力があった父親は、単身赴任と称して、都内で暮らしを始めた。
若い村の女の子を連れて……。
癒者の村では「能力のある者」はその血を残す為に、色々な女性と関係を持つ事が許されていた。
全ては「癒者の血」の為だった。
「この村は、本当に特殊なんだって、村を出て始めて知ったんだ」
癒者の力のない母親は、村では発言権を持たない。
ただ、ただ、黙って村人の好奇の視線や言葉に耐えるしかない日々だった。
そして、全てを憎むようになる。
自分の亭主を、村人を、何よりも能力のない自分自身を……。
「俺は、毎日毎日、自分の事ばっかりで、母親の異変に気づくのが遅れた」
清水さんが気づいた時、母親はもう呪い返しを受け心身ともに衰弱していた。
元から体の弱い人だったのが、さらに異変を気づき難くしていたのだ。
「人を呪うってさ……凄いエネルギーがいる行為なんだよ」
体が弱いのに、清水さんの母親は、毎日毎日「丑の刻参り」に出かけていた。
冬場に水を浴びて体を清め、薄着をして、雪の降る中を出かける。
毎日、毎日、毎日。
そして、倒れた。
「俺は母親の手を握り続けた。でも、ダメだった」
能力を伸ばす努力をしなかった清水さんは、今より、もっともっと癒す力がなかった。
それなのに、癒す相手は重度の呪い中毒にかかった母親、しかも呪い返しで体も心も凄いスピードで弱っていく。
倒れた母親に付き添って3日3晩手を握り続けた清水さんだったが、力及ばずに母親は亡くなった。
「俺は、自分自身を憎んだよ。所詮は甘えてただけだったんだ」
能力がないと落ちこぼれ扱いされた事.
違う力があるのがわかってたのに、努力しなかった事。
都合のいい時だけ母親と会話した事。
そんな母親が倒れた時にだけ、癒者として力を使おうとした事。
「全ては、俺自身の努力不足が招いた結果だよ」
私は清水さんに言われた言葉を思い出した。
私が幼い頃から呪術師の道を決められ、努力し天狗になった話の時だ。
「俺とは逆だな」
と言った清水さん。
あの時は、言葉の意味が全くわからなかったけど、今ならわかる。
努力をしなかったので、一番大事な時に能力を出せなかったと言う意味だったんだ。
私はかける言葉を失ってしまった。
「ちょっと、休憩しようか」
清水さんはそのままゴロンと横になってしまったので、私は新しいお茶を淹れに席を立った。
台所でお湯が沸くのを待っていると、居間での会話が漏れ聞こえてくる。
「大河。お前の気が急に変わったのは、あの子のせいなのか?」
「…………行かないとは言ってない。待ってほしい」
「すぐにでも着いて来る感じだったのにな。話が出た時は。変われば変わるもんだな」
京司郎さんの笑い声が聞こえる。
今の会話は何なんだろう。
行くとか行かないとかって何?
怖くて、その話を聞くことは、まだ出来そうにない。
私が新しいお茶を配ると、一息ついて、清水さんがまた続きを話してくれた。
清水さんの母親が亡くなって、しばらく経った頃に京司郎さんが、また顔を出してくれた。
その顔を見て清水さんは能力を伸ばす決心を固めた。
修行はもちろん京司郎さんにしてもらい、勉強は家にあった秘蔵書から、神道、密教、霊術、呪い、徐霊方法、陰陽術、勉強しなくてもいい事まで勉強をした。
もう、努力不足の自分を嘆くのは嫌だったのだそうだ。
2年も経つ頃には霊が見えるようになり、だいぶ「心の癒し」を使えるようになったが、やはり傷を治す力は現れなかった。
村では落ちこぼれのままなので、能力を使える機会がなかった清水さんは、京司郎さんの進めもあって、今の大学に進学した。
京司郎さんは大学の先輩なのだそうだ。
その伝手やら何やらで、チャペルの部屋を早々に借りる事が出来た上に、「救い」の依頼も多少は舞い降りて来た。
1年2年と1人で四苦八苦しながら、さまざまな「救い」の依頼を請け負ってきた清水さん。
そして、私が現れた。
「最初見たときは、本当にびっくりした」
どう見ても外人にしか見えないのに、周囲に纏っているのは明らかに「呪い返しの念」
しかも本人は平気そうで無害。
次に再会した時には、明らかに霊が見えてる。
しかも平気な顔で近づいていく。
「こいつは何なんだ! って本気で思ったし気になった」
「私って、そんなにヘンな子でした?」
「ああ。見たことがないな」
少し傷つく。そこは否定してほしかった。
なんとなく清水さんと見つめ合っていると、前からワザとらしい咳払いだ聞こえて、私達は我に帰った。
「えー。そう言う会話は2人っきりの時に頼むよ。まだ仕事の話、してないだろうが」
真っ赤になってしまった。
そうだった。私が何故この村に来たのかは、聞いてなかった。
「今回の仕事は、楽って言えば楽だし、辛いって言えば辛い」
「???」
「丑の刻参りを止めてほしいんだ」
清水さんの顔が悲しげに歪んだ。




