第三部 清水さんの能力。
あの人は誰なんだろう……。
そう思いながら、なんとなくお茶の用意をする。
清水さんと凄く親しそうな感じだったけど、兄弟? って感じでもないな。
居間にお茶を運んで、清水さんの横に座った。
どういう人かはわからないが、悪意はなさそうだし、挨拶を……。
「はじめまして。ジュリア・フローレンス・野中と申します。清水さんの大学の後輩でして、あの」
色々「救い屋」の仕事を手伝ってますって言ってもいいのかな?
チラッと清水さんの横顔を盗み見るが、平然と私が淹れたお茶を飲んでる。
どうやら、救いの手は差し伸べてはくれないらしい。
オロオロ迷ってると、男の人が笑い出した。
「ふーん。ジュリアちゃんねえ。野中さんって言うぐらいだから、ハーフさんかな? こーんな無愛想な男とよく付き合ったよね。凄い美人なんだから、他にいくらでも……」
「こいつは、そういうのじゃないよ」
それは、そうなんだけど、何もそんなにあっさり否定とかしなくても……。
あれ? 私何を考えて……。
「ジュリアには仕事を手伝ってもらおうかと思って、連れてきた。多分、今回の件は、俺やお前よりジュリアの方が役に立つ筈だ」
男の人が目を見開いた。
「この子、霊能者か何かか?」
「いや……」
私が呪術師だって、言いづらいのだろうな。
公に出来るような仕事でもないし、日の当たらない道を歩き続けた職業だし。
それでも、私が役に立つなら、はっきりした方がいい。
そうしないと、話が進まない。
1つ深呼吸をして、言った。
「私は、呪術師です」
ガチャン!!
お茶を零した音だけが響く。
「…………」
男の人に、物凄く凝視されるが、私は視線を外さなかった。
もう、何を言われても逃げない。
清水さんが側にいてくれれば、怖くない。
「…………ジュリアちゃん。ちょっと手を貸して?」
わけもわからず、男の人に手を差し伸べると、ギュッと握られた。
何これ!!!!
男の人の手は、物凄く温かい。
いや、温かいなんてものじゃなくて、暑い!!
暑くて、暑くて、体中から汗が噴出す。
体の中の悪い物が、汗と共に、流れ落ちそうな感覚。
これは、一体何の力?
「ふーん。わかった」
男の人が手を放した。
私は汗を拭こうとハンカチを取り出そうとして、気づく。
汗なんて……一滴もかいてない。
「な……何? 何なの今の? 清水さん!」
清水さんはいつもの薄い微笑で言った。
「さあ、話を始めよう。長くなるから、しんどくなったら言ってくれ」
清水さんは静かに、静かに話し出した。
「ジュリアは自分だけが特殊な一族の人間だと思ってるだろ? そんな事はないんだ。俺達もそんな一族の人間だから。俺達は癒者だ」
「癒者?」
「そう、癒やす者って書いて癒者。一族の歴史は多分、ジュリアよりも古い」
清水さんの一族、癒者の村は、まさに、今いるこの隠れ里。
いつから存在してるのか記録もないほどに古い一族で、代々、その時代その国の皇族、豪族を癒す者として生き続けていた。
癒者一族は「血筋」を何よりも大事にしてきたために、同族婚を繰り返した。
そのために、一族は減り続け「癒す能力」も徐々に衰退していった。
急いで、別の「血」を入れた結果、一族は増えたが、能力を持つ者はさらに減った。
能力が少しでもある者は、現在でも皇族や有力政治家などの癒者として召抱えられる。
清水さんは、それが嫌で嫌でたまらなかったらしい。
だから、大きくなって「癒す」能力が出てきても、一切使わなかった。
修行も勉強も一切しなかった。
そして、それを後悔する事件が起こる。
そこまで言って、清水さんは大きくタメ息をついた。
私は清水さんと出会ってからの事件を思い出していた。
呪いをかけた女性の頭をなでる清水さん。
手首をなでる清水さん。
清水さんに触れられると、途端におとなしくなった人や落ち着いた人。
「じゃあ、癒者の能力って……」
疑問が口から出てしまっていたようで、清水さんはいつもの薄い笑みを浮かべた。
「癒者って言っても能力は様々で、触れただけで傷を治すような伝説的な人から、俺のように傷なんか治せない落ちこぼれまで色々いるさ」
「で……でも! 傷なんて治せなくても清水さんの能力で救われた人がっ!」
「待てよ。落ち着け。もう少し説明するからさ」
そこから清水さんは癒者としての能力の話をしてくれた。
一族内で優秀と言われる人達は、触れただけで多少の傷は治せるそうだ。逆に、傷が治せない者は癒者としては落ちこぼれ扱いで、ある程度の年齢になると普通の生活をする。
傷が治せない清水さんも一族内では落ちこぼれで、中学ぐらいには修行も勉強もなく、普通の生活を始めた。自分には何も「癒す」能力はないと思っていた、いや思いこんでいた。
今世紀最大の能力の持ち主、と言われる従兄弟に指摘されるまでは……。
「その従兄弟ってのが、こいつだ。名前は清水京司郎」
「よろしくね。ジュリアちゃん」
京司郎さんが何かを話そうとすると、清水さんが遮った。
「まだ、話は続きがある。雑談は後でしろ。続きを話すぞ」
そしてまた、清水さんの話が始まる。
「俺もヘンだな? とは感じてたんだ」
癒者としての能力なし、と判断された清水さん。
傷は確かに治せなかった。
それでも、傷ついている友達や家族に触れると、触れた人が少し元気になったのだそうだ。
小さい頃から、何度も何度も触れ合っていた京司郎さんには、その能力がわかっていたらしい。
そして「大河、お前の能力はこの村では落ちこぼれかもしれない。でも必ずや人を救える力である筈だ。だから、その才能を伸ばせ」と京司郎さんに何度も言われた。
「俺は、めんどくさくて、無視した」
村にとって落ちこぼれなら、無理に修行したり勉強したりしないでもいい。
俺は普通に生きていく。
ずっとそう思ってたし、そうするつもりだった。
「そのせいで、母親が死んだ」
俺は、救えなかったんだ……。
清水さんは、小さく、小さく呟いた。




