第三部 わからない事だらけ。
私の家を出て、車で走る事4時間。
山奥の奥。そんな場所に数10件の家が立ち並んでいた。
1軒の民家の前で車がやっと止まった。
「着いた。ここが実家」
さっさと車から降りて、清水さんは家の戸を開けようとしている。
私も早く降りようと車から出た瞬間に感じた。
無数の視線を。
気づいてない振りをして清水さんの側に寄る。
「清水さん……」
小声で話しかけた私をさっさと家の中に押し込み鍵をかける。
そのままどんどんと家の中に入っていくので「おじゃまします」と小さく言って後を追う。
そんなには広くなさそうな平屋建ての一軒屋。
私の家といい勝負になりそうなほど古い。
そして何より家の中が冷え切っていて、誰かが住んでいる気配がまったく感じられなかった。
ご両親はどうしたのだろう? と少し不思議に思う。
「ジュリア、こっち」
正面の暖簾が掛かってる奥の部屋から声がした。
行ってみると台所で、テーブルの上には数日間は持ちそうな食料品が置いてあった。
野菜やインスタント食品、コメ、パン……。
「悪い。冷蔵庫に直していってくれるか? 俺は暖房つけてくるよ」
清水さんは実家が近づくにつれて様子がへんになっていた。
目も合わさないし、しゃべらない。
「へんなの……」
そう思いながら言われた通りに食料品を直していく。
冷蔵庫の中には、今日買ったらしき、肉や魚や乳製品が入っていた。
これだけあれば、しばらくは買い物にいかなくても大丈夫そう。
でも、無人の家らしき場所に一体誰が置いていったのだろう?
本当に何だかへんだ。
少し薄気味悪い「気」が漂っているのもへん。
後で、必ず説明してもらわなければ……。
清水さんが呼びに来てくれたので、居間に行ってコタツに入る。
少し暖かくなると、疲れたのか眠くなってきた。
「今日はもう、休むか。すべては明日からって事で」
異論は無かったので、居間の隣の和室に布団を敷いてもらった。
「…………」
よく考えれば、男の人と無人の家で2人っきり。
清水さんに限ってへんな気は起こさないだろうけど、私は念の為に常に持ち歩いている「悪霊入り呪札」を枕元に置いて布団に入った。
……すぐに眠りに落ちた。
声が……する。
何を言ってるの?
「ゆる……さ……ない」
許さない?
「全て……全て……全て!!!!」
布団から飛び起きた。
今のは何?
誰かの恨みの声?
しかも人間ではなく、死人の……。
この家に憑いてるの?
居ても立ってもいられなくなって、清水さんに聞いてみようと居間の襖を開けようとして、また声が聞こえた。
今度は生きてる人間の……。
襖を開けるタイミングを失い、なんとなく立ち聞きしている状態になる。
「やっぱり戻って来たのか?」
「ああ。流石にこのままじゃ寝覚めが悪い。いくら捨てた村だとは言ってもな」
1人は清水さんの声。
もう1人は、知らない男の人の声。
こんな時間に誰が来てるのだろうか?
「もう噂が広がってるぞ。お前が外人連れで村に戻ってきたってな。悪い血が混じる前に追い出せって大騒ぎだ」
「…………」
「俺は別に、外人だろうが何だろうが構わない。けど、誰なんだ? あの子は?」
「…………」
「彼女を実家に連れてきましたって事じゃないんだろ? お前の事だから、村の事件を解決する為に来たんだろうが、なんで女連れなんだ? あの子も何か……」
「ジュリアも一応、能力者だ。俺らとは違うけどな」
「ふーん。ジュリアちゃんって言うのか。美人だよなあ。俺も挨拶しちゃおうかなあ」
居間の方で誰かが立ち上がった気配がした。
ヤバイ!
私は急いで布団に戻って寝たふりをしようとしたが……。
バタバタと暴れているような音が聞こえて、静かになった。
「わかった、わかった。挨拶は今度な。そんなに必死に止めるなんて、よっぽど惚れちゃってるんだなあ。本当に色々珍しい物が見れてよかったよ」
「今日は帰れ。明日、全て説明するつもりだから、出来れば一緒にいてくれた方がいい」
誰かが玄関から出て行った音を、布団の中で聞きながら、私は別の事を考えていた。
「惚れてる」
まさか。
そんな事あるわけがない。
清水さんは、唯、私の呪術師としての能力が必要で、それで側に居てくれているだけで。
へんな期待はしない方がいい。
自惚れは止めた方がいい。
目を瞑って、そのまま寝てしまおうと思ったのに、清水さんが1つ屋根の下にいる事がさっきよりも意識されて、全然眠れなかった。
翌朝。
結局ほとんど眠れなかった私は、6時前に起きて、朝食の支度を始めた。
「清水さんって朝はご飯かな? パンかな?」
一緒に朝ごはんを食べる機会なんてなかったから、好みがわからない。
「…………」
さんざん悩んだ末に、私はお米を研ぎ、豆腐とほうれん草のお味噌汁を作り、魚の干物を焼いて、卵焼きを作った。
まあ、こんなものかな? 朝だし。
ご飯が炊けた所で清水さんが台所に顔を出した。
髪はボサボサだし、寝起きの不機嫌そうな顔を見て、少し笑ってしまった。
「あれ? 朝飯作ってくれたんだ」
「うん。なんとなく早起きしちゃったし。ご飯でいいかな?」
「ああ」
食卓に用意して、一緒に朝食を食べる。
清水さんは一言も発せず、唯もくもくご飯を食べてる。
お口に合わなかったかな? と心配になる。
「……美味い。誰かの作った朝飯なんて、何年ぶりだろ」
ボソッと呟いて、またもくもく食べ、結局おかわりまでしていた。
綺麗になくなった、朝食後の後片付けをしていると、玄関をドンドン叩く音が聞こえた。
こんなに朝早くから、一体誰?
不安顔で玄関を覗き込むと、清水さんより年上らしき男性が立っていた。
「ふーん。新婚ごっこしてたわけだ。約束どおり来たけど、お邪魔だったかな?」
清水さんにどことなく似た顔。そして似た声。
この人は一体誰?
私は、この人が後々長い付き合いになる人物だとは、まだ知る由もなかった。




