第三部 心の準備が!
「え?」
「だからー。ジュリアはどうするの? クリスマス」
もう、そんな話題の出る季節になっちゃったのか……と少し寂しく思う。
どうするの? どうするの? と聞かれても、多分予定は……。
「えーっと。多分何もしないでゆっくりするかな?」
夏以降なんだか、バタバタと清水さんに付き添う事が多かったけど、私はほとんど役に立たなかった。
だって、死人しか相手に出来ない私が、早々役立てる機会などある筈もなく……。
それでも、何となく付き添ってるのは、もしかしたら役に立てる事があるかも? なんて考えてしまうわけで……。
私の無言を、何か別の意味にとった友達がニヤニヤする。
「もー。わかってるんだから! あの人でしょ? 宗教科の」
「…………そんなのじゃないし」
「わかってる! わかってる! 秘密ね。秘密」
確かに、清水さんとは秘密の行動を起こしてる事が多いけど、絶対に勘違いをされてる。
「あ…あのね、私達は別に……」
言い訳をしようとした私の肩をポンポンと叩く手が現れる。
友達が「あっ!」な顔をしてるので、なんとなく誰だかわかった。
「ジュリア探した。ちょっと付き合ってくれ」
やっぱり清水さんの声。
あーあ。これでまた一段と誤解が広がっていく……。
私はいいけど、清水さんはいいのかな?
彼女さんとか……いないのかな?
見た事も聞いた事もないけど。
私は友達に手を振って、清水さんの後について歩き出した。
学校近くに止めてある清水さんの車に乗り込む。
「今日はどこですか?」
「え? 俺の実家」
「…………え?」
実家? あれ聞き間違い?
「ちょっと遠いんだけど、別にいいよな。明日から連休だしさ」
「え?」
「山奥でさ。結構寒いと思う。防寒着もっとあった方がいいかもな。1回帰るか?」
話の展開にまったくついていけない。
「泊まりになると思うから、着替えとかもあった方がいいし……。ジュリアの家行くわ」
「ちょーっと! 待って!!」
実家? 着替え? 泊まり?
こ……心の準備がまったく出来てない!
「あれ? 着替え持ってたっけ?」
「違う! そうじゃなくて、実家で泊まりで着替えって何? 仕事なの?」
「あーー。うん。まあな」
歯切れが悪い。
もしかして、仕事じゃないの? プライベートでご両親に紹介とか? なんで?
私達別に付き合ってるとか、そんなのなくて、唯の仕事の仲間で……。
「ごめん! 無理! 実家とか無理!」
そういう事は、もっと私達の関係がはっきりしてからの方が……。
尻込みしている私を見て、清水さんが車を止めた。
そして、数分間の沈黙の後、清水さんが口を開いた。
「悪い。つきあって」
それは、どういう意味のつきあってなのかを聞くことが出来ないまま、清水さんは車を出した。
………………
「えーっと。こちらが清水さん。大学の先輩で……」
おばあちゃんと清水さんが向き合っているのは、何かヘンな感じがして恥ずかしい。
「清水大河です。えーっと以前に一度……」
「はいはい。憶えてますよ。ジュリアのお友達だって来た事があったね」
「おばあちゃん! 私今から清水さんと仕事に行くの。何日かしたら帰ってくるから、その時にでもゆっくりと話を……」
気恥ずかし過ぎて、いてもたってもいられない。
「清水さんと仕事? どう言う事だい?」
まだ、おばあちゃんには何も説明してなかった事に気づく。
「えっと。清水さんは大学で救い屋さんをしてて、そのお手伝いを時々……ね」
おばあちゃんが、いきなり清水さんの手を掴んだ。
そのまま黙って見つめ続ける。
「……ふーん。癒者の家系かい? めずらしいね」
癒者?
「ジュリア。あんた自分が何者かはわかってるんだろうね」
「わかってる!」
わかってる、わかってる、わかってる。
自分が呪術師だってのは、嫌になるほどわかってる。
「清水さんって言ったね。あんたもわかっててジュリアを引っ張り回してるのかい? 何か最近おかしいとは思ってたんだよ」
「わかってます。ジュリアさんもあなたも呪術師なんですよね。でも、それが何なんですか?」
清水さんの言葉に、私以上に驚いていたおばあちゃんだったけど、突然大笑いしだした。
「ふふ…それが何なんですか…か。ふふ長生きはするもんだよ。ジュリア」
「な……なに?」
「しっかり癒者さんを助けてあげな。いい男に出会えてよかったじゃないか」
全身が真っ赤に染まる。
これ以上おばあちゃんに何か言われたら死にそうだ、と思い、清水さんを引っ張るようにして家から飛び出した。
車に乗り込んで、一息ついてから、まだ何も聞いていなかった事に気づく。
「清水さん。色々と聞いてもいい?」
「あー。ちゃんと説明するけど、後でいいか? 向こうについてから説明した方がわかりやすいと思うからさ」
そう言われると、聞きづらい。
私と清水さんは、その後ほとんど話さずに、清水さんの生まれ故郷を目指したのだった。




