第二部 一緒に……。
説明はしなかった。もう見てもらうしかない。
失礼して呪術師の正装に着替えさせてもらい、時間が過ぎるのを待つ。
………………
時刻は午前2時。
俗に言う「丑三つ時」
私と悪霊達が1番活発に動ける時間。
だから、私は動く。
黒い小袖に黒袴。小袖の襟元には純白の晴明紋。
髪は後ろで縛り、黒い水引で留める。
闇にとけこむ漆黒の衣装。浮かび上がる五芒星の晴明紋。
やっぱり私には闇装束が1番似合うのかもしれない。
方角を確認する。
北東……俗に言う鬼門を見つけ、用意した呪符をターゲットの部屋近くの見つかりにくい場所に貼る。
下準備はたったこれだけ。
後は本番だ。
深夜、さらに人気の少ないターゲットのマンションの裏通り。
そこからでも部屋は見える。
地面に直接チョークで五芒星の晴明紋を描く。
その頂点5箇所にさらに「悪霊よけ」の札をおく。
晴明紋の魔よけ+「悪霊よけ」の札。簡易版結界の完成だ。
背後で興味深気に見ている清水さんに声をかける。
「すみませんが、巻き込まれてはいけませんので、この結界内に入ってもらえますか?」
清水さんを誘導。そして御霊呼せの鈴を鳴らす。
シャーーン……シャリイイン……シャーーン……
鈴を鳴らしながら舞う。
何度も何度も舞った『悪霊』呼せの舞を。
舞う。舞う。舞う……。
………………
「来た!!」
近隣にいた数十体の悪霊が集まる。
大きな害意を持つものが数体、小さな浮遊霊が数十体。
もちろん、狙いは大きな害意を持つ者だ。
私は微笑みながら、狙いをつけた悪霊に呪札の札を貼り付けていく。
上手く3体捕獲できた。
これでこの子達は、ある程度私の指示を聞かせる事が出来る。
今日はたっぷりと指示を聞いてもらおう。
使役する悪霊を鬼門へ導く。
「さあ、お好きに暴れなさい」
悪霊が鬼門を通ってターゲットの部屋へ侵入したのを見届けてから、あの女性の霊が写っていた場所へ。今日は来てるといいんだけど……。
………………
マンションの表玄関、その近くの植え込みにあの女性は座り込んでいた。
弱く、弱く、震えて、そして目には憎悪の炎。
このままでは、悪霊に落ちてしまうのは時間の問題だった。
深呼吸をして話しかける。
「ねえ……」
闇の中、さらに漆黒の衣装を着た私を見てビクッとした女性。
「ねえ。私、あの男の部屋に簡単に入れる道を知ってる。悪い人達も入ったけど、あなたはどうする?」
「…………」
「案内だけしてあげる。今までより進入が楽な筈よ」
それだけ言って、鬼門の入り口へ。
女性は黙って後を着いて来た。
「ここ、わかるでしょ? 道が出来てるの。簡単に入れるわ。後はあなたにまかせる。でも……」
女性の霊を強い目で見つめる。
「気が済んだなら、必ず上にあがりなさい。そうしないとあなたを救えない。意味はわかるわね」
黙ってる女性を置いて、私は清水さんの元へ戻った。
私が出来るのは、ここまでだ。
これ以上は、もうあの女性の判断になる。
中途半端な手伝い。そして「救い」。
これで……よかったのかは、わからない。
「はあ……」
少し疲れた。
………………
清水さんの車に乗って、家まで送ってもらう。
もう、家業の事を隠す必要もないし、なにより疲れていた。
「なあ。よかったら少し話しないか?」
ずっと黙っていた清水さんが話しかけてきた。
「今日の事? それとも私の事? 唯の雑談なら嬉しいんだけど」
今日はもう、色々と説明するのも億劫で口調が少し乱暴になる。
「雑談……かな?」
びっくりする。
絶対、今日の事説明させられると思った。
「じゃあ俺の事」
俺の事?
「俺さ。自分の無力を痛感したね。なにが救い屋なんだって。心のどっかで思ってたんだよ、生きてる人が善で、死んだ人は悪で、だから生きてる人を救えばいいって。狭い。俺の世界は狭かった。死人が悪? とんでもない。生きてるやつが善? とんでもない。俺は本当に無知で無力な救い屋だ」
「そんな事ない!!」
思わず大声で叫んでしまった私に驚いて、清水さんが急ブレーキを踏んだ。
それでも、私は続ける。
「私に何が出来るんですか? 悪霊を呼んで鬼門作って、道を通して。そこから悪霊を送り込んだだけ。あの男を呪っただけです! 私なんて、私なんて! 生きてる人どころか死人すら救えない! やっぱり私は唯の呪い屋なんです!!」
言いながら、自分の言葉が刺さる。
『唯の呪い屋』
結局私は、中途半端な呪術師で……。
「それこそ、そんな事ないだな」
静かだが力強い、清水さんの言葉が続く。
「今回は、本当に俺は無力だった。多分あのままDVDを廃棄して終わりだ。死んだ女の事は死んでるからそれでお終いなんだよ。ジュリアは今回、女の救いを一番に考えた。そして、霊体でさまよってた女に話かけた。復讐するにしろ、成仏するにしろ、女の気持ちを優先した。多分それで、救われた筈だ。あの女の魂は」
涙が溢れそうになった。
私は……救えたかな?
力が……役に立ったかな?
私は……私は……。
「なあ。ジュリア。こんな事言っていいのかわからないが……」
清水さんが力強い瞳を向ける。
「俺と救い屋をしてくれないかな?」
さらに、もう一度言われる。
「俺と……色々な人を救ってくれないか?」
涙が、溢れて零れて、落ちた。




