第二部 もう迷わない。
沈黙が続く。
私は、怖くない、負けない、救いたい。
何度でも言う。
「私は……」
「わかった。ごめん、ちょっと混乱した」
混乱? 気味が悪いじゃなくて? 想定外の言葉をかけられた私を見て、また清水さんが薄く笑う。
「巫女だろ ?普通に考えるのは……。悪霊封じに御霊鈴。それで答えが「呪術師」いや……普通はびっくりするだろ?」
「そ……れは……」
何から説明を始めればいいか……。
「……で呪術師さんは何かいい作戦がある……と。お聞かせ願いたいね。出来れば見学と」
「作戦なんて程のものはないです。清水さん。女性はどうして手首より上しか現れなかったのかわかりますか?」
「死んでるってのはわかってるから、原因としては、成仏しかかってるのに撮られた記録が気になって精一杯の力でDVDを破壊してくれる人を求めた……。もしくは……多重未練か」
「私は多重未練じゃないか……と思います」
多重未練。
未練の大きい方に本体を残し、未練が少ない方へ一部を飛ばす。
未練が何個もある霊体が、たまにおかす現象。
心霊写真の手だけ……とかは、多重未練のうちの未練が少ないほうの現象として写りこんでる事がある。
ほとんどが、錯覚もしくは光のいたずらだけどね。
今回は間違いなく、錯覚でもなんでもない立派な心霊現象だ。
「多重未練って事は本体は? って言わなくてもわかる……か」
「はい。間違いなく犯罪者の獣達の側でしょう。このままじゃ、被害者さんはどんどん悪霊化して救えなくなります」
「……だろうな」
「だから、私がお手伝いをしてあげます。女性の霊の……」
大きな、大きなタメ息を清水さんはついた。
「……で、何をどうするって?」
………………
次の日から、私達は別々に走り回った。
清水さんは、獣達の調査及び女性の霊が出没していないかの検証。
私は……
「ジュリア。何してるんだい?」
家の仕事部屋に篭る私に、おばあちゃんが話しかけてきた。
そういえば……話すのは数日ぶりかもしれない。
最近は遅くまで映像記録を調べていたから……。
「ちょっと……仕事?」
「仕事? 学校で呪いの依頼でも受けたのかい? 珍しいね。あんたが自分から依頼を受けるなんて。何年ぶりかねえ」
曖昧に微笑んで誤魔化す。
正確には呪いの依頼を受けたのではなく、呪いで復讐する事なのだが説明が出来ない。
「……ふーん。男かい?」
「なっ! 何が!!」
「……前に話してた珍しいって男かい? 上手くいったみたいで良かったじゃないか」
顔面に血が昇る。
「ちっ……違うよ。これは、えーっと。仕事の準備で、お友達で……」
「ずいぶん気合の入った格好。それに……どうするんだい? こんなにもさ」
周りを見渡す。
確かに……ちょっと作り過ぎてしまったかもしれない。
確かに……まだ、呪術師の正装まではしなくても良かったかもしれない。
「まあ。頑張りな」
それ以上何も聞かずに、おばあちゃんは仕事部屋から出て行った。
「ハア……」
少し、気合を抜かなければいけない。
………………
携帯が鳴る。
ディスプレイには「清水さん」初めての電話だ。
理由は全然色っぽくは無いけど。
「はい」
「ジュリア? わかった。どうする? 今、説明しようか? それとも会って……」
「お会いして聞きます。今はどこですか?」
「キャンパス内チャペル。俺が行こうか?」
「30分で行きます。待ってて下さい」
電話を切り、仕事用具と衣装を大きめなバッグに詰めて、そのまま飛び出した。
30分を少し過ぎてキャンパス内に到着。
もう夕方なので、人影もだいぶ疎らになっていた。
深く息を吐きながらチャペルの扉を開ける。
こんなに緊張するのは初仕事以来かもしれない。
前を向いて気合を込めて「お待たせしました」挨拶をした。
もう……引き返さない、迷わない。
清水さんは、相変わらず薄く微笑んで待っていた。
「じゃ、こっちから説明する。適当に座ってくれ」
適当にと言われ少し困る。
場所は清水さんのチャペル内での個室。
最初に出会った時に清水さんが入って行った十字架の下の扉。あの奥に10個程の個室があり、清水さんは特別に一室借り入れしているのだと言う。
確かに、ここにいたのなら、チャペルに来ても出会えない筈だ。
個室内は狭い。本当に狭い。
3畳程のスペースに無理矢理入れたらしき簡易ベッド。
小さい折りたたみ式の机と折りたたみイスが1つ。
それだけでもういっぱい、いっぱい、なのだ。
イスに先に座った清水さんを横目にベッドに腰掛けた。
「さて、説明を始めよう」
持っていたバッグからデジカメを出し、写真を見せてくれる。
男の人が3名。
3人並んだ写真と1人ずつアップで写した写真。
「これが……」
「そう。犯人……達だな。現在は映像科の3回生。そして……」
違う写真を見せてくれる。
「撮影してた主犯格の男。そいつのマンション前。見てくれここ……」
清水さんが指差した先には鬼の形相をした血まみれの女性の姿が写りこんでいた。
初めて見る被害者女性の霊体。その本体。
女性は、私の想像よりも早く悪霊化をおこそうとしていた。
「時間が無いようだ」
清水さんが小さく呟いた。
「そうですね。決行は……今夜。場所はこのマンションで」
写真を見ながら、私も小さく呟いた。




