第二部 私が救う。
その日から、私達は夜に大学に集合して、一本ずつ記録媒体を確認する作業を行った。
「映像解析室」のラック内は最後に回す事にした。
清水さん曰く「授業で不特定多数が出入りする部屋には隠してないだろう」との事。納得である。
夜中作業3日目。疲労困憊で朦朧としてきた意識に疑問がわき上がった。
「準備室」に本当に隠しているのか?
家に持って帰って隠しているのではないか?
思いながらも「準備室」から持ってきたDVDをパソコンで再生した。
タイトルは『第25回 桜花大学文化祭X』と書いてあった。
普通の大学祭の映像が写る。
これもハズレか……
早送りをしながら惰性で見ていたが途中で雰囲気が変わってる事に気づいた。
明るく賑やかな校内の様子を撮影しながら、撮影者はどんどんと人気の無くなっている道を進む。
メイン通りから外れて校内を歩き、校舎内へ。
どうやら東館へ入ったらしい。最近見覚えのある教室が並ぶ。
撮影者はどんどん進み、真っ暗な部屋の前で立ち止まる。
「映像試写室」
教室のプレートを映して、扉を開ける。
試写室は真っ黒いカーテンがすべて下ろされていて、昼間なのに漆黒の闇の中だった。
そして……
見てるはずなのに理解が追いつかない。頭が真っ白になって、映像を止める事も出来ない。
私は女として、恐怖と怒りに唯、震えている事しか出来なかった。
背後から突然肩をつかまれる。
「いやああああ!!」
かばんの中から護身用の呪札を取り出そうと「待て!!俺だ!!」
動きが止まる。
「し……水……さん」
「見つけたみたいだな。ふーん。文化祭Xね……ふざけたヤローだな」
清水さんが冷静に、パソコンからDVDを取り出してケースに収めた。
お互いに沈黙が続く。
ショックから立ち直った私は怒りに支配されていった。
「許せない。許さない」怒りが口から漏れる。
「……俺が先に見つけたかったんだがな。多分大丈夫だろうって思ったところをジュリアに見てもらってたんだが、まさか学校行事棚に普通に直してるとはな……」
深い深いタメ息をつく。
「悪かったよ。後の事は俺に任せてジュリアはもう帰れ」
「……どうするつもりですか?」
「どうするも何も……手首女性の希望通りに破棄するさ。このDVD」
怒りが全身から溢れて止まらない。
許せない、許さない。獣以下の人間はこの手で同じ目に、同じ恐怖を味あわせてやる……。
「止めとけ」
何も言わないうちから止められた。
「止めない……絶対に止めない! 本気で思ってるんですか? DVDを破棄しただけで、女性が救われるって本気で思ってるんですか? ふざけないで!! 私なら死んでも、殺しても許さない……」
「……止めとけ。このDVDの女性……まあ被害者だが……もういない」
清水さんの言葉に思考が一瞬止まる。
「もう……いない?」
「ああ。1ヶ月程前に自殺した。噂にならなかったか?」
そういえば……自殺した2回生がいるって話を聞いた記憶がある……。
「死んだ相手は救えない。そうだろ? せいぜい出てきた時に願いを叶えてあげるのが……」
「違う! 違う! 違う!! 死んだ相手だって救える! きっと救える!」
自殺した女性は獣達に蹂躙され、身も心も崩れて壊れて、そして死んだ。
獣達は何もなかったかのように毎日を過ごし、記録まで残し、生きている。
「救う」べきは女性の魂だ。
獣には鬼畜道に落ちてもらえばいい……。
「DVDを破棄して、もしまだダビングがあったらどうするんです? それで女性を救ってるのですか? 獣はどうするんですか? 見てみぬフリですか? それで救ってるのですか? そんなの、そんなの「救い屋」なんかじゃない! 唯、相手の言う事を聞いてあげただけじゃない!」
沈黙が部屋を覆う。
今度は、この件は、絶対に、絶対に譲れない。
「どうしろって言うんだ? これを持って警察か? そんな事して救えるなんて思えない。生きてさえいてくれたら、俺が救えたかもしれないのに……。死人は俺には救えないんだ」
警察……
そんな事で「救える」のなら、こんなに必死にDVDを破棄しようとしたり……しない。
人に相談出来たなら、自ら命を絶とうなんて…思わない。
私なら……私なら……どうすれば救われる?ほんの少しでも……。
清水さんを見る。心から悔しがっているのがわかった。そして……考えた。
生きてる人しか「救えない」清水さん。
生きてないものの力を借りる事が出来る私。
能力は違っても気持ちは同じ。
それなら……
「協力すればいい」
「え?」
「私が……やります。だから、私に任せてもらえないですか?」
強い目で見つめあう。
しばらくして清水さんが薄く笑った。
「巫女か。まさか神道系の人間だとは思わなかった」
ばれているとは思った。でも、正確には違う。
「違います。巫女じゃありません。私は……私は……」
息を吸う。深く、深く。吐き出す息と共に、静かに、静かに、落ち着いて言う。
「私は呪術師です」
清水さんが驚いて固まった表情をしたのを初めて…………見た。
それでも、何度でも言う。
「私は呪術師です。私に任せてもらえないですか?」
しばらく時が止まったかのように見つめ合った。
呪術師としての私の時間が再び動き出したのを感じた。




