ふたりの日常
グダグダまっしぐら!
もうほんと…すんません。
キリュシエルとマシロは、言葉はさっぱりだが、意思の疎通は比較的スムーズに進む。
「マシロ、なにしている?」
午前の執務を終え、仮眠すると臣下に言っていそいそと隠し部屋に入った。
そこには、黙々と白紙に文字か記号か絵を書いているマシロがいた。
隠し部屋は、本来の使用法としては、王の怪しげな性癖や趣味を隠すための部屋であるから、高級である白紙も備え付けてある。
マシロはその大量の白紙を使い、一心不乱に作業を進めている。
『あ、キリ!お疲れ様ー』
「何してるんだ?」
『あ、ちょっと邪魔しないで。今トランプ作ってるの』
「これは人…か?ならこの紙の記号はなんだ。これも絵か?」
『まだ触っちゃだめだって!インク乾いてないのっ』
「こらこら、叩くな。何を怒ってるんだ」
キリュシエルの頭をグーで殴れば、通常死罪、加え刑は股裂きのうえ吊るし首。しかしここはキリュシエルとマシロの二人だけの世界。キリュシエルはただ笑って猫パンチのじゃれつきに笑うだけだ。
『できたら教えてあげるから、触っちゃダメ!』
「ん~?」
『もう!』
「いたたた、わかった。取り上げたりしない。ほれ、続きをすればいい」
キリュシエルの頬と耳をぐいぐいと引っ張るマシロに降参し、大人しく札を返す。
札を返されたマシロはほっとしつつ、札に問題がないか早速確認している。たまにキリュシエルを見る目は、ひどく恨めしげだ。
言葉はさっぱり伝わらないが、マシロの行動や表情が、言葉より雄弁にキリュシエルに意味を伝えてくる。
そのまっすぐさが、素直さが新鮮で、とても嬉しい。
ついつい、感情が爆発してしまい、嫌がるマシロを用紙ごと抱きしめ、『トランプ曲がったー!』と泣き怒るマシロを、菓子と絵の具のプレゼントで機嫌をとるのは、このすぐ後のこと。