ふたりのはじめまして
この話、すでに無計画!
もう勝手に進んでしまえぇえ!
…すみません。
国民の見本となり、指導者であるよう、常に尊敬と畏敬の念を受けるべく、王の部屋には隠し部屋がある。
万が一、王となったものが変質的な気性や性癖の場合、この部屋で存分に発散し、外へだしてくれるな、という理由で作られた部屋。
現在、隠し部屋の存在は、父の時代から宰相を勤めるカリエン・シダと、女官長を25年も務める古参の乳母アメア、そして乳兄弟のアギレイ・クルルの3名だけだ。
隠し部屋があることを3名は知っているが、質実剛健を地でいく王が、よもや使用しているなどとは思うまい。
キリュシエルの日常には、かえって何かを隠しているのではないか、というほど品行方正然としていた。
「マシロ、ご飯だ」
『おはよう、キリ。うっわーおいしそう!ありがとう』
「いっぱい食べて大きくなれよ」
『いただきまーす』
王こと東の帝国、第17代帝王キリュシエル・ディーは、空からの来訪者を手厚く―――というか、ペット感覚で少女を世話することにした。
目覚めた少女は、当初状況がわかってないのか、キリュシエルを見るなり叫び、訳のわからない言葉を並べ立てた。キリュシエルも負けずにこちらの言葉を言い募った。
少女はしばらく右往左往、手を振り首をかしげ、泣いて笑った。
少女が何を考えているかキリュシエルはさっぱりわからなかったが、そのヘラリと間の抜けた笑顔に、何だか癒された。なんだこの小動物。かわいい。愛でたい、とキリュシエルは思った。
キリュシエルは、ただ少女と会って通じない話をしてかわいがる事ができれば満足であり、少女に教育を施す気はない。教育は人を聡明にし、また愚かにもする。
少女とは言葉が伝わらないからこそ、この癒しがあるのだろうと思ったからだ。
動物に知能は必要ない、と人間の尊厳をまるっと無視した最低の考えと行いをしているが、、少女への対応は非常に紳士的である。
あくまで、ペット扱いであるが。
少女もまた、楽観的なのか、時折寂しそうに、不安げにするが、基本はよく笑ってよく食べる。
ただ、少女はひとつだけこだわった事がある。
『わたし真白だよ』
「なにを言っている?」
『ましろ、ましろ。まーしーろ!』
「マショー?」
『ま』
「ま」
『し』
「い」
『し!』
「し」
『ろ!』
「ろ」
『ましろ』
「ましぉ」
『ま!し!ろ!』
「ましろ」
少女は自らを指差して言い募った。
キリュシエルはペットにも名前はいるだろうと、大人しく復唱した。そうなると、キリュシエルだけ名前を覚えるのは不公平に感じ。
「キリュシエル」
『きゅうしゅう』
「キリュシエル」
『きゅうしえん』
『…キ リュ シ エ ル』
「きぃゅ…」
『キリ』
「キリ!」
言葉の壁が厚かったか、キリュシエルは早々にあきらめ、名を略した。
自慢げにキリ、キリと言う少女、マシロがかわいらしく、キリュシエルもまぁいいか、とあっさり妥協し、ペットは餌付け、女子供は甘いものをあげる、の定義で菓子を与え、さっそくその正確さに笑うのであった。