決着…
夕方の午後五時。真っ赤だった夕日が灰色の雲で覆われ、雨がポツポツと降ってくる。嫌な雨だった。
俺は伊達と勝負する。なぜなら、俺は伊達の事を許すことができないからだ。奴は俺に殴られる理由をいくつも持っている。人を何十人も殺した。俺を殺そうとした。涼子さんを泣かせた。俺の仇を奪った。そして、空を……。
これだけ動機があるのにも関わらず、俺は伊達を殺そうなどとは思っていなかった。そう、殺さずに負かす。それだけで十分だ。殺すなんて、命を奪うなんて誰も持つ事のできない権利だ。それを平気で無視する伊達を俺は許せない。
雨が強くなる。通り雨の様に大きな粒だ。川の流れが激しくなる。ここの川は雨になると、いつもこんな風に流れが強くなる。正面の茂みが荒く蠢く。これは雨のせいでなければ風のせいでもない。人が来たのだ。
伊達だ。傘をささず、頭の先からずぶ濡れになって伊達が現れた。俺の足もとに紙切れを一枚投げつける。俺の書いた果たし状だ。
「約束通り、殺しに来たぞ」最初に口を開いたのはまたしても伊達だった。
「以前にも増して随分悪役みたいな事を言うようになったな」
「私が悪?まぁ見方によるな」何が見方だ。お前は完全に悪党だよ!「で?私を殺すか?あの女の仇討ちの為に。それでは私と一緒だ」
「そうじゃない。よく思い出してくれ。俺は生涯、一回も伊達を負かしたことが無いんだ。だから……今日こそ、一本勝ちをしてみせる」
「くだらない……その為に私を呼んだのか?こんな酷い場所に」
「あぁ……本当は夕日を浴びた決闘がよかったんだが、な」雨が強くなる。通り雨の様だが、それにしては長く続いてる。
「……そうか……昔のあの日の様にか?」十年ほど前、空と伊達と俺の三人での時代劇ごっこ。三年前、空地での時代劇ごっこ。そして……今度は……。
「昔と変わらなければよかったんだけどな、何でこうなったんだ?」
「……そんな事はもうどうでもいいだろう?私はお前を殺し、死に損ないのあの女を殺し、武田を殺し……邪魔者は皆殺しにしてやる!」
「ますます悪役みたいなことを言うな?お前。かなり邪悪だよ」
「それもまたいいだろう、悪役で十分だ」本当に変わってしまった。正義のせの字もない。
「……そうか」と、溜息を押し殺し、駆ける。伊達とほぼ同じタイミングだった。
互いの木刀、伊達の一方的な殺意、俺の覚悟、それらが一気にぶつかる。辺りの空気が激しく震え、雨が吹き飛ぶ。そこからお互い引かず押さずの殺陣がおこなわれた。
しばらく続け、お互いに身を引く。そして構え直す。
伊達は八相の構えから突きの態勢になり、俺を睨みつけた。冷たい……とても冷たい視線だった。俺はその場に片膝をつき、木刀を構えたまま目を閉じた。ただひたすらじっと待つ。
雨音、風の音、川の流れ、心音、伊達の呼吸音、全てが耳ではなく、心に集中する。全ての気配が手に取るように分かった。その中から伊達の殺気を感じ取った。
殺気が強くなる。伊達の放つ殺気。これはきっと、以前戦った時のモノより大きい。それが近づいてくるのが分かる。思ったよりもゆっくりだ。様子を見ているのだろう。
刹那、俺の背にものすごい勢いで殺気が突っ込んできた。
今だ!そこへ向かって覚悟を決めた木刀を振る。硬い手応えののちに、今度はその硬い手応えの向こう側へ木刀を振る。
「ぐあ!」そこで初めて、ある音が聞こえた。乾いた木が折れる音だ。目を開けると、そこには目を見開いた伊達が立っていた。俺の木刀が左肩から鎖骨にめり込み、伊達の動きを止めていた。
「……貴様」と、また伊達から殺気が溢れだす。「まだだ!」伊達の肩から木刀を抜き、胴を払う。「ぐぼあぁぁ!」こんなに気持ちのいい胴払いは初めてだ。そこで伊達は口から勢いよく血を吹き、よろよろと歩き始める。「なぜ、だ……」
「俺とお前とでは覚悟が違う。それだけだ」
「ぐ……貴様の様なバカに……負けてたまるか……」と、木刀を振る。しかし、俺は向かい打たなかった。なぜなら、伊達から殺気を感じなかったからだ。奴は俺の横をすり抜け、虚しく木刀を空振り、その勢いで川へ落ちる。
伊達は川に沈み、下流へと流されていく。それをただ俺は、見届けることしかできなかった。「あばよ、親友……」すると、背後から一つの音が聞こえた。この音は拍手の音だ。小山さんが見に来たのかと思い、振り返ると、そこには意外な人物が立っていた。「え?なぜあんたが?」名を明かそうとしない男。会った時とまったく同じ姿で、傘をさして立っていた。
「いやぁ……素晴らしい決闘だったよぉ。いいねぇ、雨の日の決闘って。あらゆる業が渦巻いているって感じだ」まだ拍手を続けているい。
「何しに来た?ただ見に来たってだけじゃないだろう?」この男、そうかこの男が!
「まぁね。実は」
「お前だろう!伊達をあんな風にした奴は!」
「おや、僕が伊達君に何を?……いいやぁ?僕は何もしていないよぉ。ただ、彼とお喋りしただけだ」以前と同じ口調だ。だんだん腹が立ってくる。
「どんな事を話したんだ?俺の時の様にたぶらかしたのか?」今思うと、こいつの言葉に耳を貸していたら、きっと俺も伊達の様になっていたかもしれない。
「聞こえは悪いなぁ……まっ確かにそう言うことになるね。君は見た目よりも賢いねぇ」
「初めてだよ、賢いって言われたの……」皆からはバカ扱いされていたからな。
「はは、そうか……」まだ拍手をしている。
「で、用件はなんだ?」
「いや、本当は君を倒した後の伊達君に拍手をしたかったんだけどね。ちょっと予想と違ったな。まぁいいや、このチャンスは君に与えよう。この街の仕置き人達を取り仕切って見ないかい?」
「は?一体何を?」
「伊達君を超える君ならば彼らをまとめられるはず。なぁ強力してくれないか?」
「いぃやぁだっ!」空の様な口調で言ってみる。悪くないな、この言い方。
「頭ごなしにイヤってことか。まぁそうだろうね。君、新聞は読んでるかな?これを知ってるかい?都会で辻斬りがブームになっている事を」
「なに!」辻斬りだと?伊達みたいな奴がたくさんいるってわけか?
「さて、誰がこのブームの中心になったかわかるかな?」
「伊達だろ」
「そうだ。でも、伊達君はただのシンボルにすぎない。誰もできなかった事を最初にやった人物にすぎない」
「じゃあ……」
「そ、僕だ。僕が都会にまき散らしたんだ。伊達君の存在、事実、そして甘く、芳しいセリフを使ってね。簡単だよ?自分の歩むべき方向の分からない人を辻斬りに変えるのは。ただほんのちょっと語りかけるだけでいいんだ」
「な……そんなに人の心は……」
「関係ないよ。人の心の強度なんて。一歩踏み出させたら最後だ。二度と戻れない。監獄の恐怖に怯える。そこでまた僕が元気づける。また踏み出る。それを繰り返すうちに、立派な辻斬りの完成。伊達君もこうやって成長した」
「それで、何がしたい?そうやって自分の手を汚さずに世の中の悪を裁くのか?この卑怯者め!」
「は?何を言っている。こんな事でこの国が揺らぐとでも思っているのかい?少し新聞や世間を揺るがせ、お茶の間のネタになり、都市伝説が増えるだけ。いずれ廃れるだろうし、忘れ去られるのが世の常。少し、爪後は残すだろうけど、こんな事ではこの国、歴史は揺らがないだろう。切り裂きジャックがいい例だ。正直、こんな事はまだ序の口だよ。あと数年たてば、新たな世が幕を開けるんだ」と、不気味に笑う。
「どんな世の中にするつもりだ!」
「それはいえないなぁ……この呼びかけに唾を吐いた君には」
「……ふざけやがって」
「ま、今日の所は僕の予想が珍しく外れたってことだけだ。それ以外は見事に当たってきたんだけどな……」
「あんた……名前はなんて言うんだ?これだけは答えてくれ」
「……特別に教えよう。桜井彰だ」
「な、なんだって?」さ、桜井彰って、由美子の兄の名前じゃないか!由美子が生前に言っていた『都会に兄がいるんだ・・・今頃何をしてるんだろう』って。
「はは、察しの通り、僕は由美子の兄だよ。君の恋人だったね、由美子は」
「そんな、あ、あんたが?」
「そうだ。そう言えば、なぜ君はあの時、自宅にいなかったのかな?由美子と、君の家族だけ殺されて、君は無傷だ。なぜかな?」
「うっ……それは!」
「部活だったのかな?補修だったのかな?それとも、道草をくっていたのかな?まぁいずれにしろ、君が由美子を守れなかったのは事実だ!そうだよ、君がもし、あの場に居たならば由美子を、そして家族を守ることができたんじゃないかな?そう思ったことはないかい?」
「くっ!うるさい!」
「何で?僕はただ事実を話しているだけだよ。そうだ、君があの場に居なかったから由美子は殺されたんだ。君が、あの場にいなかったから家族は……」
「黙れ……」心がはち切れそうだ……。
「君は伊達君と同じ……誰一人守る事が出来ない。伊達君の様な殺人鬼になるのは時間の問題かもねぇ?」
「黙れぇ!俺は奴とは違う!」俺は我を忘れ、木刀を振りかぶり桜井へと突撃していた。そして木刀を振ったが、木刀を掴まれ、奪われ、折られる。そして首を掴まれる。ものすごい力だ。
「やっぱりそうだ。伊達君と君は似ている……違いは、人を殺す度胸があるか、無いかくらいだね。君にはそれが欠けている」
「欠けていて結構だ!」
「そうかい……最後にもう一度だけ言う、僕に着いてこないか?」
「何度いわせる気だ!」
「そうか……残念だなぁ」と、ポケットをかき回し、ある物を取り出す。ナイフだ。「ねぇ……どんな気分だい?答えてよ……南雲君」と、目の近くにナイフを近づける。
「もう、あんたとは話したくない……この凶人め!」
「そうかい……」と、ナイフを振りかぶる。俺の首を狙っているようだ。「実はね、伊達君に妹の仇を譲ってしまったんだ。それを後悔しているんだ。でもね、妹の死に責任があるのは、あいつだけじゃなかったね、君もだ。ここで復讐させてもらうよ」と、歯を見せて笑う。「初めて人を殺すなぁ……君は僕の計画を二度も狂わせるのか。まぁ、これで終わりだ、楽にしてあげるよ」
「貴様……」
「なんだい?」ワザとらしく耳を傾ける。
「他人の人生を何だと思ってやがる!」と、手を捻り、足の膝を蹴り、転ばせる。怯んだところに一発拳を入れる。「お前が元凶だ!伊達を変え、あの街を変えた。お前なんかがこの国を変える資格はない!」頬にもう一発入れる。「死ね!お前みたいな奴は死んで当然だ!」桜井はその場に倒れこんだ。近くに転がっていた石を持ち上げ、振りかざす。が、しかしそこで体が動かなくなった。『どんな理由があっても、人を殺しちゃダメ』
そうだ俺も同じになる。伊達と、そして由美子を殺した男と一緒になる。小山さんの言うとおり、人を殺せばそこで終わりだ。みんな同じになる。
俺は違う!俺は自分の道を踏み外さない。その為にも、俺はここでこいつを殺してはいけない。
ただ俺はこの場を立ち去る前にもう一度だけこの男をぶん殴った。そして気絶するこいつを交番まで引きずって行き、背中に『ちかん』という張り紙をして転がした。えぇひらがなですとも!私、バカですから。
「光司、これからどうしような……」光司のアパートの一室で気の抜けた声を出す。さっきから俺はいつもこの調子だ。目標を失うと、人は誰でもこうなるのか?
「知るかよ!伊達は倒した。元凶っぽい男を警察に突き出した。万事めでたしだろ?」と、二本目のウィスキーのボトルを開け、俺のグラスを満たす。「飲め!お前にはその資格がある!」と、自分のグラスの中身をキュウっと呷る。
「……空の容体は?」あまり聞きたくなかった。今でも死線を彷徨っているというのに。
「まだ何とも言えないな……なにせ肝臓と胃をやられたんだ……それに……」と口籠り、また呷る。「まぁ死んだ訳じゃない!それに……目が覚めればなんとかなる……」
「そうだな……そうであればいいんだが……」
「暗い顔するなよ!ほら、テレビでも見てさ!明るくいこうや!」と、テレビを点ける。ニュース番組だ。
「都内XX区の公園内で高校生四名が何者かに鈍器で頭を殴られ、死亡しました。これは近日起きている暴行殺人集団が絡んでいると警視庁からの見解が……」
「この街はどうなるんだ?ったく、総一はやっつけたのに今度はこれかよ!」光司が喚きながら酒を瓶ごと呷る。
これからどうする。この問いに誰か答えてくれ。俺はそう思った。それと同時に由美子の言葉が蘇った。考えずに感じろってやつだ。
「よぉし!こいつらを残らずやっつけよう!それが俺の次の目標だ!」酔いが回っているおかげでいつもよりも大きくバカっぽい声が出た。まぁバカですから。
「お?おもしれぇじゃねぇか!よし!こうなったのも半分は俺のせいだ!俺も協力するぜ!」と、手を出す。俺はその手を握った「ちげぇよ!ハイタッチだ!」なんですかそれ?
この日は疲れ果て、光司の部屋で眠った。最近ろくに寝ていなかったので、じっくりと熟睡した。
雨の降りしきる俺の地元。俺はアパートの一室で寝転がっていた。玄関で物音がし、そこへゆっくりと顔を向ける。由美子だった。
「由美子……勝ったぞ、俺」
「強い!さすが私の愛人!」と、俺に歩みより、隣に寝転がる。
「愛人って……変なこと言うなよ」
「おい、私を舐めるな!」と、冗談混じりの怒った顔をする。「で?やっと吹っ切れた?いろんな事が、さ」
「……あぁ、やっと由美子が殺された事を忘れる事ができそうだ。そして、絶対に忘れないよ。由美子の事を……父さんや母さんを……それに空も……」すると、由美子が俺の頬を抓った。「いでででで!」
「こらぁ!空さんはまだ死んでないでしょう?それに、あのくらいじゃあ死にませんよ。だって、彼女は裏番長だもん」
「何言ってんだ、お前」と、苦笑する。
「ふふ、空さんを信じて!きっと、弘樹を驚かせる事をしてくれるよ!」
「それは?」
「それはぁ……空さんが起きてからのお楽しみ、と言う事で!」
「そうか……はは、楽しみだ」
「……ありがとうね、弘樹」
「なにが?」
「忘れないって言ってくれて……」と、俺に輝かんばかりの笑顔を向ける。
早いものだ。あの日から半年経った。俺は光司と約束した通り、街を見回っていた。犯罪を目撃したり、誰かの悲鳴を聞いたりしたら俺はただちにそこへ向かい、そこにいる奴をぶちのめす。だが……殺しはしない。その場で縛り、警察に届けるだけだ。
たまに返り討ちに遭い怪我はするが、そんな事で俺の決意は折れない。それに、俺には相棒がいる。
俺をサポートし、時には共闘する。光司もそれを望んでいた。
だが、新聞やニュースを見ても犯罪が減る様子は無かった。それどころか『辻斬り長次郎再び出没?』というふざけた記事が載っていて心臓が跳ねた。伊達は世間では都市伝説扱いにされ、この名前をつけられていた。
この記事を見て光司も首をひねった。彼の情報網によると伊達の目撃情報は入ってきていなかった。
だが、もう一つ気になる事はあの桜井彰の事だった。あいつについて光司に調べさせたが、伊達の情報とは違い、奴にはまるで霧でもかかっているように情報がはっきりしないらしい。あいつはいったい何者なのだろうか……。
それはともかく、俺は今日も街を見回っている。伊達も最初は、こんな気分だったのだろう。犯罪を嗅ぎつけ、被害者を救う正義の味方。
しかし、俺は違うぞ!決して人は殺さない。あいつの様な過ちを犯せば、即あいつの様な化け物に成ってしまう。
俺は決して道を踏み外さない!そう俺は夢の中で由美子に誓った。
ある日の朝、俺が公園のベンチで昼寝をしていると、公園の外から喧しいバイクの音が響いた。このエンジン音は奴か……「光司、うるさいぞ!近所迷惑だ!」
「お前こそ起きろよ!携帯には出ないし、ここから呼んでも起きないし!なんだ?また夢の中の彼女へ会いに行ってたのか?うふっふ~っていいながらよ!」
「うるへぇ!お前になにが分かる!」
「二股はいけないぞぉ?オヌシ!」指を向けてくる。お前に言われたくないな。
「どういう意味だよ?」訝しげな表情をしてみる。たまにこいつの言う事は意味不明だ。
「へっへぇ~ん!鮎川さんが目を覚ましたんだよ!小山さんから連絡来たぞ?お前の携帯にはどうなんだ?」なんだと!
「携帯?あぁ……昨日、暴漢に壊された……」
「何台目だよ……呆れた奴だなぁ……とにかく!お前はとっとと会いに行け!小山さん達が来るのにあと2時間はかかるらしいからな!」
「どういう意味だ?」
「二人きりになって来い!で、礼を言いに行け!鮎川さんがお前の事を、身を呈して守ったんだからな!俺が送って行ってやる、後ろに乗れ!」
「あ、あぁ……」と、公園から出て光司のバイクに乗る。
「男と二ケツかよぉ……ったく」
「お前なぁ……いちいちうるせぇよ!」と、言いきる前に発進する。完全に制限速度をオーバーした様な早さだ。風の抵抗が半端ではない。
無理な車線変更や激しい揺れにより、病院に付く頃、俺は吐きそうになっていた。「てめぇ……覚えてろよ」
「あぁ覚えとくよ。じゃあな」と、バイクをいななかせる。現代の馬だな、こりゃ。
「待て!お前はどうするんだ?会いに行かないのか?」
「バカ!俺が顔を出したらムードぶち壊しだろ?それに俺、鮎川さんには嫌われてるみたいだからさ」
「でも、事情を話せば!」
「だぁからお前はバカなんだ!とっとと行けよ!俺は明日辺りにでもかき乱しに行くからよ!」と、笑う。
「お前……覚えてろよ!」
「あぁ覚えとくよ!そんじゃ、またな」と、アクセルをねじり、煙を上げて遠ざかって行った。
俺はさっそく病院で受付を済ませ、空のいる病棟へ向かった。
俺は心中、あらゆる事を思い出した。あの事件の後で励ましてくれたのは空だった。俺の考えに真面目にぶつかってくれたのも空だ。俺を鍛えたのも空……そして、俺の為に命を投げ出したのも空だった……。
そんな彼女に俺はどう声をかければいいのだろう?彼女は約十カ月も昏睡していたのだ。そして今日、やっと目が覚め、俺が最初に見舞いに行く。なんて声を掛ければいい?
そういえば見舞いの品も用意してない。俺ってば何やってるんだ?苦笑しながら空のいる部屋に近づいて行く。鼓動が高鳴る。早く会いたい。だが、なんて声を掛ければ?
「よ、」でいいか?「ひさしぶり」でいくか?いや「おっす!」……「心配したんだぞこのヤロウ」ダメだ!バカの俺には気の利いた挨拶なんて思いつかない!どうすれば。
そうこうしている内に空のいる部屋に着く。俺は出たとこ勝負で行こうと思った。何度か深呼吸をし、そして扉を開ける。「へ?」いない?ベッドはも抜けのカラだった。確かにここで合っているはず。一体どこへ?目覚めたばかりなのだろう?歯磨きか?んなバカな。
すると、誰かが俺の肩を叩いた。振り向くと、笑顔の空が立っていた。
「おい、朝の挨拶はどうした?」
終
慌てて投稿したので段落が滅茶苦茶になりました。すいませんでした。楽しんで頂けたなら幸いです。感想やアドバイスがあれば、一言でもお願いいたします……。




