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Sweet hug  作者: 響かほり
星降る夜の愛し方
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星降る夜の愛し方 5



「あげは、開けて」


 閉じられた扉の前に立った紫苑は、そう私に言う。

 私を下ろせばいいのにと思いつつ、下ろしてくれる気が皆無そうな相手に従い、寝室の扉を開けた。

 電気の灯った寝室に入った紫苑は、ベッドの上に登ると私をそこに下ろした。

 そして、ベッドの上に座り込んだ私の横に腰を下ろすと、室内の照明を操作するリモコンを私に差し出す。


「電気、消してくれる?」


 言われるまま頷いて、私は部屋の明かりを落とす。

 そして、闇の帳が落ちたその世界を見て、思わず感嘆の声を上げた。


「わぁ…すごい」


 天井に、壁に、部屋いっぱいに広がるのは、きらきらと星が瞬く世界。

 都会の夜空では決して見る事の出来ない、たくさんの星がそこにある。

 まるで小さなプラネタリウムみたいで、初めてプラネタリウムに行った時のことを思い出した。

 都会の摩天楼でくすんでしまった空の先には、見えない星がたくさんあると知った子供の頃の感動と高揚感がよみがえって、わくわくする。


「気に入ってくれた?」

「とっても!でも、これどうやって部屋に映し出してるの?」

「小型の投影機。この間、新年のスペシャルドラマの番宣で出演した番組で、ゲーム企画があって、ゲームをクリアした景品としてもらったんだ」

「その番組の話、絢子さんから聞いてないわ」

「今度の月曜日、オンエアーだから」

「え?喋って大丈夫なの?」

「秘密にしておいてね」


 さらりと秘密事項を打ち明けた紫苑は、目の慣れ始めた闇の中で悪戯っぽく笑う。


「これ、実際の星空みたいに、時間で星も動くしけっこう本格的なんだよ?だから、あげはと一緒に見たくて、こっそり昨日から準備してたんだ」


 そう言って、紫苑はそっと私を抱きしめてくれる。


「…ごめん。イヴくらい、せめて洒落た店かホテルでゆっくり食事したかったけど、時間が自由に取れなくて、結局この程度しか出来なかった」

「これで十分よ。それに美味しいお料理も魅力的だけど、こうして二人で人の目を気にせず過ごせた方がいいわ…貴方を独り占めできるもの」


 豪華なプレゼントも、お洒落な食事も要らない。

 いつも忙しい貴方が、こうして時間を縫って傍にいてくれるから。

 紫苑がいない時間は淋しいけれど、それを埋めるだけの『心』をくれるから。

 だから、上坂伊織として仕事をしている紫苑にわがままを言う必要なんてない。

 でも、榊紫苑として私の傍にいてくれる時だけは、ちょっぴり欲張って我儘して困らせてもいいよね?


「…紫苑は、外でご飯したりするほうが良かった?」

「たまには…ね。そうでもしないと、吉良は家事をさぼってくれないだろ?家事の時間の分を、俺と過ごす時間に充ててほしいから」


 予想もしていない答えに、胸が温かくなる。

 感謝の意味を込めて、私はそっと紫苑にキスをする。


「ありがとう紫苑。メリークリスマス」

「Merry Christmas」


 流暢な英語でそう告げた紫苑が、今度は私に触れるだけのキスをくれる。


「…私からも紫苑にプレゼントがあるのよ?」

「プレゼント?」

「クリスマスプレゼント」


 通勤用のバックに隠してあるそれを取りに行こうとしたけど、紫苑の腕の力がそれを抑止する。

 それどころか、そのままベッドに組み敷かれてしまう。

 私を覗き込む彼の表情は、酷く淫靡で心臓の鼓動が跳ね上がる。

 こんな顔をしている紫苑のすることは、これまでの経験から、いくら鈍い私でも読める。


「…ちょ、ちょっと紫苑、ご、ご飯がまだですけど…」

「俺、まだお腹空いてないから、プレゼントから貰うよ」

「だ、だから、プレゼントは私じゃないのよ」


 顔を寄せ甘く囁く相手の胸を、私は両手で押す。

 私はお腹ぺこぺこなのに。

 せめて、晩御飯を食べたい。

 何より、この格好で襲われるのだけはいつも以上に恥ずかしいから駄目!


「せ、せっかく紫苑の為にクリスマスケーキをプリンで作ったのに…早く食べてくれないの?」


 プリンと言う単語に、ピクリと紫苑の眉が動く。

 プリンが大好物の紫苑にはたまらない誘惑のはず。

 眉根を寄せて、心の中でものすごく葛藤しているであろう紫苑の表情が、不意に穏やかになり柔和な笑みを浮かべた。


“あ、諦めてくれた?”


 つられるように笑った私の髪を梳くように撫でる。


「わかったよ。早くなんて言われたら、先に食べるよ…あげはをね?」

「!ち、違う、私じゃなく、んっ…」


 どんな脳内変換をされたのか、極上の笑みを湛えた色男は、私の抗議の声を自らの唇で塞ぐ。

 啄ばむように優しく何度も唇を重ね、絡みあう吐息に混じるアルコールの匂いに、お酒が苦手な私はそれだけで酔ってしまう。

 紫苑の後ろに見える本物の様に部屋の中で輝く星が、ゆらゆら揺れて堕ちてきそう。

 それは、綺麗だけれどちょっと怖くて、時々、怖いくらいに男の人になってしまう紫苑の様で。

 魅入られ、囚われて。

 今宵、聖なる日も私は愛しい人に溺れてしまうの。



   END




 この作品は、昨年のクリスマスに合わせて書かれたものなので、今年のクリスマスとは曜日が異なります。気にされた方がいたら、済みません。

 この後一本、紫苑視点のおまけ話があります。

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