RAINY KISS 4
私が内心ではらはらしていると、紫苑は自分の顔を手で押さえ、がっくりと肩を落として深く溜め息をつく。
「なんでそんな事、言っちゃうなぁ…」
困ったような、呆れたような声音。
完全にアウトの方だ…。
「うっ…ご、ごめん!忘れて!今のなし!」
「もう遅い」
ゆっくりと、ダークブラウンの髪をかき上げ、気怠い色香を纏った表情で、紫苑は唇の端を歪める。
“あれ?嫌がってるのとは、なんだかちょっと違う気がする”
「俺を誘うようなこと吉良が言うの…初めてだよね?」
「…だ、駄目…かな…」
「そんな訳ない。すごく嬉しいよ?ただ、帰りたくなくなって困るけど」
覗き込む灰青色の瞳に、吸い込まれそうで、胸の鼓動が一気に跳ね上がる。
俳優”上坂伊織“モードが入った彼の笑みは、ちょっと苦手だった。淫靡すぎて。
彼の色気に当てられて、頬がとても熱くてくらくらする。
「紫苑が帰って来るの、ちゃんと待ってるから」
そんな事しか言えないけど、紫苑は何時もの様に優しく笑ってくれる。
「…遠慮なんてしないから、覚悟して?」
甘い危険を感じて逃げようとした時には、口付けが首筋に降りて来た。
「え?い、今じゃないよ?ちょっと、紫苑っ」
「我慢できない」
もがけばもがくほど、わたしの素肌は彼の前に晒されて、紫苑の熱が肌に絡み付く。
仕事に真摯な彼の事だから、仕事に穴を開けるとは思えないけど、それでも心配で、彼の髪を軽く引っ張る。
「し、仕事は?ねぇ…っ!」
胸元に降りた口付けが、チクリと肌を刺す。
甘い痛みに驚いて、身体が震える。
「大丈夫だから、少し黙って…」
低く囁いて、紫苑は私の体に幾度もキスの痕を刻んでいく。
会えなかった時間の分だけ強引で、濃厚な彼の愛情表現にまどろみ、熱に浮かされ、満たされ、潤んでいく。
寂しさや不安を埋めていくように、二人、一つにとけていく。
降り止まぬ雨と共に……。
END