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Sweet hug  作者: 響かほり
RAINY KISS
5/68

RAINY KISS 3



 耳元で囁かれた、低くかすれた妖艶な声に、思考が停止する。

 ややあって、紫苑の言葉の意味をじんわりと脳が理解する。

 一気に顔が熱くなって、そのまま、羞恥心で眩暈がして倒れかかる。

 それを紫苑が慌てて支えるけど、折り重なるようにしてベッドの上に倒れる。

 しばらく無言で、私を見つめていた紫苑の視線が横にそれる。


「ごめん。ホントは一日、吉良とそうしたいんだけど…俺また、現場に戻るんだ」

「え…?」

「撮影が長引いて、そのまま仕事が玉突きで…戻る目処がつかないんだ。だから、約束したドライブが無理だって、謝りに来たんだ」

「…そう…なんだ…」

「ごめん」


 紫苑との約束は、あまり守られた事がない。

 特にデートの約束は。

 仕事だから仕方ないって理解する反面、やっぱり残念だってショックもある。


「…もしかして、それを言うためだけに戻って来たの?」


 電話で事足りるはずなのに。


「どうしても吉良に会いたかったから、半日だけ休み貰ったんだ」


 無理して戻って来てくれたのかと思うと、もうそこで彼を憎めない。

 それがどれだけ大変な事か、分かるから。

 会いたいと思うのは、私だって同じ。

 それでも私からは絶対、動いてはいけない。

 人気商売の彼の足手まといになるから。

 だからこそ、紫苑の行動が嬉しい。

 私は紫苑の首に腕を絡め、自分から彼に唇を寄せる。

 軽く触れて、彼をぎゅっと抱擁する。


「来てくれてありがとう、紫苑。嬉しい」


 耳元で、紫苑が微笑むのが分かる。

 腕を緩め、彼を見る。


「でもそれなら、起こしてくれたら良いのに」

「吉良の寝顔を見ていたら、なんか俺も眠くなって…吉良がいないと、ぐっすり眠れないんだ」


 安堵したように笑う紫苑が、いつもより愛しく思える。


「デートの穴埋め、ちゃんとするから」

「帰るまでこうしていて…それでチャラでいいから」


 知らない所で、紫苑への気持ちがどんどん大きくなる。

 彼と離れたくないって、少しでも長く彼に触れていたくて、少しだけわがままを言ってみる。

 紫苑は困ったように笑うと、額にそっとキスをする。


「吉良、寂しくさせてごめん」


 私は首を横に振る。

 寂しいって認めたら、独占欲に歯止めがきかなくなりそうで。

 紫苑の全てを、縛り付けるなんてしたくないから、気持ちに蓋をする。

 でも、年上だからって、大人な態度なんてずっと出来ない。


「次に会う時は……貴方に濡れても…いい?」


 意趣返しに、恥ずかしいけれどそう聞いてみる。

 驚いたように紫苑は目を瞬かせ、怖いほど真剣な眼差しで私を見る。


“もしかして、女の方から誘うような事を言われるの、紫苑は嫌い?…ど、どうしよう…”





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