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Sweet hug  作者: 響かほり
儚いからこそ、花火は大輪を咲かす
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儚いからこそ、花火は大輪を咲かす 2



     §



「え?しばらく帰って来られないの?」


 吉良は一日に一度、必ずある榊紫苑からの電話を受け、思わずそう言葉を漏らした。

 ドラマの撮影を二本抱えている為、このところ帰っては来てもすれ違いで顔を少し合わせる事しかなく、ゆっくり話をするのも電話だけ。

 その彼から、撮影の都合で数日は戻れないと言われ、吉良は無意識にその言葉を口にしてしまった。

 普段は数日帰宅できないと言う連絡が来ても、その言葉を絶対に口にはしない。

 紫苑にはどうしようも出来ない事を口にして、彼の気分を害し仕事の邪魔になるのが嫌だったから。

 電話口で、榊紫苑は恋人の言葉の中にある異変に、何となく気付く。


『…どうしたの?何か困った事でもあった?』

「え?あ、ううん…そうじゃないの」


 慌ててそう答えたものの、吉良の言葉も歯切れが悪かった。

 自分でも、どうして何時も言わない言葉を口にしてしまったのか、とっさに分からなかったのだ。


『何?また患者に口説かれたとか?もしかしてこの暑さで体調崩したとか?大丈夫!?』


 心配そうに尋ねてきた相手に、吉良はくすりと笑う。

 何気ない一言で、色々心配してくれる紫苑に、胸が温かくなる。


「ううん。違うの…ただ…ちょっと、紫苑に会ってギュッと抱きつきたいなぁって…」


 昼間のパーティーへの出席話で、自分がひどく心細くなっていた事に、吉良はそこでようやく気がついた。

 だから、彼に無性に会いたくなっていたのだ。


「しばらくそれが出来ないんだなぁって、残念だっただけ。ごめんね」


 電話口から紫苑の深く長いため息が吉良の耳に聞こえた。


『あのさぁ…そう言う誘い文句は、ホント勘弁して。仕事サボって、今すぐあげはの所に帰りたくなるだろ』

「…え?」

『だから、今すぐ帰ってあげはを抱きしめたくなったんだけど?』


 自分が放った言葉の意味を自覚していなかった吉良は、自分が紫苑に甘えたいと無意識に言っていた事を、ややあって理解する。

 一気に自分の頬が、熱を帯びていくのを吉良は感じた。


「…う…あ…うぅ…恥ずかしい事を言いました…ごめんなさい」


 電話を持っていない手で、自分の顔を押さえて、消え入りそうな声で吉良は紫苑に謝罪する。

 再び、電話口で深いため息が漏れる。

 恥じ入られると余計に相手の心を刺激する事に、吉良は気付かない。


『…頼むよ、あげは…俺、マジで襲いに帰るよ?』

「こ、来なくていいからっ!し、仕事に集中して!終わって帰ってくるまで、待ってるから!…って、待ってるって、襲われるのは、期待してないからねっ!」


 どんどんドツボにハマっていく吉良に、榊紫苑が電話の先で淫靡に笑うのが分かった。


『分かったよ…戻ったら、あげはの望み通り気絶するまで深く愛してあげるから、覚悟して待っていて?』


 そんなことは誰も言っていないと否定するよりも先に、紫苑の声が吉良の脊髄を甘く痺れさせる。

ゾクリと、紫苑の誘惑に惹かれそうになった吉良は、己の思考を振り払う。


「エ、エロい声で、エロい事をさらっと言わないでぇっ!」

『俺をエロくするのは、あげはだけだよ』


 吉良が耳まで朱に染めて声をあげれば、耳元でダイレクトに紫苑の低音の美声が響く。

 胸を甘く締め付け、心を淫らに惑わせる囁きに、吉良は「莫迦ぁ!」と叫んで電話を切ってしまった。


「はぁ…もう、紫苑の莫迦。最近、エロさに磨きがかかりすぎ…こっちまで、変な気分になっちゃうじゃないの…」


 携帯電話をリビングのガラステーブルの上に置き、吉良はそのテーブルの上に突っ伏して恥ずかしさを一生懸命、誤魔化そうとして自分で撃沈する。


「本当は、そんな話がしたかった訳じゃないんだけどなぁ…」


 吉良は体を起こし、携帯電話の横に置いてある、昼間に渡された招待状を手に取った。




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