七月七日のlove letterおまけ
Attention:
今回は、R15程度の微エロな回想が垂れ流しデス…苦手な方はご注意を。
理不尽にも、身を以て紫苑の愛情を幾度も再認識させられた吉良は、自分を抱きしめる男の胸に、疲れ切ったように顔をうずめた。
吉良が紫苑の過多すぎる愛情表現からようやく解放されたのは、深夜も過ぎ空が白み始める間際の頃だった。
晩御飯も食べていなければ、食事の調理に取りかかった物も、そのままキッチンに取り残されたまま。片付けなければと理性が働く半面、吉良の体は泥に沈んだように重たくて、もう指一本動かしたくない状態だった。
お腹が空き過ぎて力が出ないのか、烈し過ぎる紫苑の愛情表現に浮かされ過ぎたのか、吉良にはもう分からない。
彼女が理解出来たのは、紫苑が普段いかに気を遣いながら自分を抱いていたのかと言う事くらいだった。
今日は遠慮なんて言葉が皆無で、羞恥心すら失われるくらい乱れさせられた。
強引で、意地悪で、雄々しい愛撫は、恐いほどに彼の『男』を吉良に体に刻み込んだ。
馴染んだ相手の肌が、温もりが、自分に触れる彼のその全てが別人の様でいて、弱い所を確実に攻めてくる痺れるほどの甘美な感覚は、吉良を惑わし殊更に淫らにさせた。
終焉が来ないのではないかと思うほど繰り返された行為の最中、どれだけ果てたのかも分からない。
「紫苑の莫迦…今日も仕事なのに…」
出勤時間までに起き上がれるのかも分からない吉良は、そう非難するように呟く。
紫苑は困ったように笑い、「ごめん」と悪びれもなく謝る。
心ゆくまで吉良を堪能した男の機嫌は、すっかり戻っていた。けれど、何時まで経っても自分との関係に溺れきらない恋人の一言は、どこか淋しい気持ちになる。
「…こういうのは…その…休みの前だけにしてね」
恥ずかしそうに、掠れた声で甘く気だるい調子で吉良に呟かれ、紫苑の心は一瞬にして晴れる。
無自覚に上手に窘めてくれる彼女に、むしろ煽られた気分さえするけれど、流石に紫苑もこれ以上は体がもちそうもない。紫苑も吉良と同じような時間から仕事がある。
「…そうする」
紫苑は素直にそう答え、自分に寄り添う吉良の、柔らかい猫っ毛の髪を梳きながら、触れ合う素肌に籠った熱りの冷めやらぬ感覚の余韻に浸る。
少しすれば、すぐに吉良からは寝息が聞こえる。
相変わらずの寝つきの良さに、不眠症の紫苑はつい羨ましくなる。
“昼は淑女、夜は娼婦が良い…なんて、良く言ったものだよな”
どこぞの先人の言葉が、不意に紫苑の脳裏に浮かぶ。
昼間の真面目な吉良からは想像もできない、夜の艶やかな彼女を知るのは紫苑だけ。
苦しげで切なげな甘い喘ぎも、快楽に浮かされて褥で艶めかしく身を捩る姿も、縋るように乞うように絡む腕も、潤んだ熱っぽい視線も。
知るのは、彼氏と言う立場にある自分だけの特権。
幾度、吉良がこの快楽に溺れて堕ちてくれたらと、思ったかしれない。
けれど吉良は、紫苑の邪な望みなどすりぬけていく。
たとえ一年に一度の逢瀬しか重ねる事が出来なくても、彦星に心囚われたままの織姫の様に、吉良が自分を求めてくれたら。
紫苑は望まずにはいられない。
最初は、彼女に自分を『見て』もらいたかっただけなのに。
それが叶えば、心を返してくれたら…彼女からの愛が欲しくなり、次から次へと消えることなく慾が湧いてくる。
愛は貪れば貪るほど我儘に、貪欲になる。
以前に比べたら、比べようもないほどの幸せに満たされているはずなのに、どんどん餓えていく。
そっと頭を上げて吉良を覗きこめば、彼女は疲れ切ったように、でも満たされ安心しきった無防備な寝顔を見せてくれる。
見ているだけで安堵し、紫苑の唇が自然と緩む。
“結局、俺が我儘なんだよな…”
我儘を許して包んでくれる吉良だからこそ、紫苑も心に素直になれる。
初めて、心に自由であることを教えてくれた人だから。
紫苑にとって、どれほどの救いだったのか吉良は知らない。
今はもう、彼女の居ない生活など紫苑にはとても考えられない。
想像しただけで、気が狂いそうになる。
“吉良にだけは、我慢なんてしないから…これからも覚悟してね?”
紫苑は彼女の髪を梳く手を止め、吉良の細い肩を抱いて軽く片腕で抱きしめる。
吉良が傍にいる幸せを感じながら、紫苑も深い眠りに落ちた。
END