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Sweet hug  作者: 響かほり
とある日の光景…
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とある日の光景… 3



「昼休憩、飯食ったら出かけるぞ」

「…何処にですか?」

「お前の服を買いに行く」

「え~」


 露骨に、吉良が不満の声を上げる。

 それを見て、健斗は片眉を吊り上げた。


「誰のせいだと思っている」

「だって、そんな金銭的余裕はありませんから」


 一流思考の健斗が付き添うということは、洋服の値段も至極当然と張る。

 庶民で、廉価な服を好んで着る吉良とは相反する上に、値段もゼロがひと桁変わる。

 一日で、吉良の給料など容易に吹き飛んでしまう。


「俺の時間を奪った癖に、口答えするな。お前に拒否権はない」

「お、横暴です」


 いつになく、有無も言わせぬ圧力で言われ、吉良は怯む。


「お前、俺の結婚生活に亀裂を入れるつもりか」

「そう言うつもりはありませんけど…」


 美菜のお願い(命令とも言う)は、健斗にとっては絶対遵守事項。まして、妻が溺愛して女絡みであれば尚の事。

 余計な事で夫婦仲に荒波を立てたくない健斗としては、余程でなければ妻の願いを聞き入れる。どれだけ面倒くさかろうとも。

 一方の吉良は、自分の所為で二人が要らぬ喧嘩をするのは絶対に避けたい。

 しかしながら、財布事情との兼ね合いが些か難しいのも事実。


「安心しろ。安月給のお前に買えとは言わん」


 その安月給を支払っている男は、悪役候な不敵な笑みを浮かべる。


「ただし、俺の選んだ物は絶対に着ろ」


 以前、この流れで何度か、吉良はダイアンのラップワンピースを院長に着せられた。

 このワンピースは、体のラインをセクシーに魅せる。

 デザインは吉良も気に入っているし、美菜も好んでいるブランドだ。

 しかし、紐を一本解くだけですんなり服を脱がせられる、男心をくすぐる代物。

 付き合う前の紫苑に『誘っているの?』と、吉良は脱がされかけてラップワンピースの危険な魅力を、文字通り身を以て教えられた。

 健斗は口ではからかうが、手を出してきたことは一度もない。

 けれど、恋人でもない相手からそれを着せられるのは不味いと、鈍い吉良でも危機感を抱いて、それ以後は服のやりくりをしているのだ。


「い、院長に買わせるくらいなら、紫苑におねだりします」


 やんわりと断りを入れた吉良は、突然、腕を健斗に掴まれる。

 健斗がにこりともせず、じっと吉良を見つめる。


「な…何ですか、院長」

「俺では駄目なのか?」


 何がどういう意味で駄目なのか、全く解らない吉良は頸を傾げる。


「俺がお前に何かしてやりたいと思うのは、いけないことか?」


 切実で、素直さすら感じさせる甘い声音に、吉良は固まる。

 普段の傲慢で強引な風情などまるでない。これは、院長お得意の口説きモードの状態だと、瞬時に有能看護師は気付く。但し、気付いても、何故このタイミングでこの状態を自分に向けたのかは、理解できなかったが。


「他の男のモノにはなったが、お前は俺にとって大切な女だ。お前に似合う服を贈るくらいの些細な幸せを、俺に許してくれてもいいだろ?」


 目の前の男が戯れに放つ口説き文句を、幾百と聞き流している吉良でさえ、勘違いしそうになるほど。

 この技で女を口説き落としているのかと、冷静に判断している半面、吉良の心拍は見慣れないものを見て、動揺で跳ね上がっていた。

 乞う囁きを放つ健斗の色気が、自分をベッドに誘う時の紫苑と重なり、どうしようもなく吉良を緊張させる。


「…い、院長、そのキャラ、似合いませんよ?」


 動揺を押し隠しつつ、吉良が茶化すようにそう言えば、健斗はニヤリと淫靡に笑う。


「その割には、心拍数が上がっているぞ」


 気づかぬ間に、手首の動脈を抑えられ脈を取られていた吉良は、慌てて相手の手を振りほどく。


「男が女に服を買い与えるのは、脱がせるためだからな?俺の期待に十二分に添えよ?」

「絶対に脱がされないですからっ!」


 吉良が絶叫すれば、確信犯の健斗は愉快とばかりに破顔して笑い声を上げる。

 出勤してきた受付事務員、藤堂絢子の耳に、吉良の絶叫と、院長の笑い声が聞こえる。

 絢子は、すっかり慣れ親しんだ日課に、苦笑する。


「また院長が、あげはちゃんをからかって遊んでる…今日も平和ねぇ…」


 こうして、榊クリニックの一日は始まっていく…。



     END






健斗が…口説いているのだか、からかっているのやら…

改稿したら、余計に健斗がパワーアップしてしまいました(汗)

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