RAINY KISS 1
携帯電話のアラームが聞こえる。
もう、朝の五時なんだ…。
起きて洗濯をして、お弁当作って、仕事に行かないと…。
開かない目と格闘しながら、枕元にあるはずの携帯電話を探す。
私の手が探し出すより早く、アラームが止まった。
なぜだろうと思いながらも、目は開かなくて。
無理やり体を起こせば、誰かが私の身体に腕をまわしてふかふかのベッドに押し戻す。
「大丈夫、まだ時間あるよ?」
耳朶に、低音でそっと囁かれた言葉。
…紫苑の声。
あれ、帰って来たの?
確か、まだ二日はドラマの地方ロケで帰ってこないって言っていたのに。
夢?
でも、抱き寄せられた感覚はすごくリアルで。
「お休み」
優しい声も、頭を撫でる掌の心地よい温もりも、彼のもの。
…紫苑が居なくて寂しいのかな、私…だから、こんな夢を見るのかな…
普段から、紫苑はテレビの収録や雑誌の撮影で、仕事が忙しい。
だから、何日も家を空けて帰ってこない時もあるし、帰ってくる時間だってばらばら。
全然、会えない時だってあるけど…
同棲してから、一月も会えないのは初めてだから…不安なのかな…
夢でも良い。
もう少しだけ、彼を感じたい。
そう考えながら、深い眠りに私は落ちていった。