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Sweet hug  作者: 響かほり
蜘蛛の糸に絡まれて
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蜘蛛の糸に絡まれて 5



「わかったよ。上坂伊織が俺だって分かってもらえるのは、ゆっくり待つよ…でも、吉良が嫉妬してくれるなんて意外だったよ」


 吉良は顔を覆った手を少し下ろし、恨めしそうに俺を見る。


「せっかく、オブラートに包んで言わなかったのに…はっきり言われると、余計に恥ずかしくなるじゃない!莫迦」


 一応、嫉妬していると言う自覚があったらしい吉良に、真っ赤な顔のまま潤んだ瞳で睨まれ、そう悪態をつかれた。

 でも、その声も弱々しくて、羞恥心に震えている。

 そんな逆効果の可愛い真似されると、理性の箍が一瞬にして灰になる。

 何のために、俺が我慢してきたと思っているんだろう、吉良は。

 吉良の耳元に顔を寄せ、唇が耳朶をかすめるほどの距離で、耳打ちする。


「可愛いね、吉良」

「!!!!!」


 薄い彼女の耳朶を優しく甘咬みして、そのまま細く白い首筋に口づけを落とす。


「ちょ、ちょっと紫苑?」

「吉良に避けられたのかと思って、怖かったよ」

「…ごめんね」

「いいよ。吉良がもっと好きになったから」

「っ!…ひゃっ!」


 鎖骨の窪みに口付け痕を残すように首筋を吸い上げた後、痕を確認するように其処を舌で撫であげると、吉良は驚いたのか、変な声を上げてびくりと身を竦める。


「これから先も、上坂伊織は物語の中で多くの人間を演じる。吉良ではない誰かを愛する別の人間になる…濡れ場だってある」


 だから、吉良には知っておいてもらわないと困る。


「それを吉良が目にする事も、耳にする機会も増える。見たくなければ、俺の作品を見なくても良い。…でも、吉良がどれだけ願っても、俳優を止めることはできない」


 顔を上げれば、吉良がじっと俺を見つめる。


「紫苑…」


 不安げに俺を呼ぶ吉良の頬を、そっと撫でる。


「俺に仕事か吉良を選ぶことはできない。この先、きっと何度も吉良を仕事の所為で傷付ける…分かっていても、傷付けたとしても、俺は吉良を手放すつもりはない…俺は欲張りで自分勝手だから」


 身勝手だと怒っても、文句を言っても良い。呆れてもかまわない。頬の一つ叩かれても。でも逃がさない。傍に居て欲しいのは吉良だけだから。

 なのに、吉良は小さく笑い俺の頬に手を伸ばす。


「紫苑が自分勝手なのは初めからだもの…今更だわ…」

「…吉良」

「大丈夫、仕事をやめてなんて言わないから。俳優をしている貴方も‘紫苑’の一部だもの。干渉もしないって約束するわ。だから、紫苑も私から仕事だけは取り上げないでね?…嫉妬は…しないように頑張るけど…少しは許してね?」


 こういう所が敵わない。

 吉良は無自覚のままに、俺の心をどんどん魅了して優しく心を縛り付けていくのだから。


「しない。仕事をしている吉良も好きだから」

「ありがとう…って、紫苑!?な、何してるの!?」


 吉良のナイトウエアの肩ひもをするりと外せば、吉良は驚いて、抵抗しようとする。

 それよりも早く吉良の腕をつかんで、そのままソファに押しつけ、唇を塞ぐ。


「んっ…しぉ…」


 吉良は目いっぱい抵抗するけど、俺の力に勝てるはずもない。

 そもそも、解放する気なんて更々ない。

 こんなに煽られて、吉良が欲しい気持ちを我慢なんて出来る訳がない。

 柔らかな唇を強引に開き、臆病に逃げる舌を絡め取り、ゆっくりと口腔内を侵食する。

 幾度も深く口づけを交わせば、次第に吉良の抵抗は失われていく。

 時折苦しげに、吉良が切なげな吐息を零し、俺の耳朶を犯していく。

 もっと吉良に触れたくて、素肌が露わになっている首筋に、肩に口づけを落としていく。


「やっ…待って…」


 触れる度、小さく身をすくませる吉良は、身をよじりながらまた抵抗を始める。


「お願い」

「待てないけど、何?」


 最後に残っていた理性で踏みとどまってみるものの、少し苛立った自分がいる。

 今の俺は、恐らく不機嫌極まりない顔をしているはずだ。上っ面を誤魔化せないほど。

 俺は顔を上げ、吉良を覗きこむ。

 柔らかな唇から、熱を孕んだ吐息をもらす吉良は、ゾクリとするほど色気のある表情を浮かべている。

 長い睫毛を震わせ、わずかに潤んだ瞳で俺を見る吉良が、愛しくてたまらない。


「紫苑は…本当に私でいいの?」


 今更な言葉に、俺は鼻で笑う。


「こんな時に、俺の愛情試したい?」

「そうじゃなくて…」

「だったら何?」


 思わず冷たく言い放ってしまう。

 馬鹿みたいに吉良が欲しくて、欲望がせりあがるばかりで、吉良の言葉がもどかしい。

 これまでだって、焦らす相手はいたけど、別段焦りもいら立ちもなく余裕で話を聞いていた気がする。

 我慢できないほど抱きたいと思ったのは、これが初めてかもしれない。




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