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Sweet hug  作者: 響かほり
桜散りいこうとも
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桜散りいこうとも 4



 中小企業の町工場を経営していた両親は私が二十一歳の時、会社の倒産と同時に多額の借金を残して失踪した。

 いわゆる夜逃げ。

 その借金は、看護師として勤めていた一人っ子の私に全て降りかかり、病院に内緒で水商売のバイトをしながら返済することになった。

 シフトをやりくりしながら、やっとの思いで四年近くかけて借金を返し終わったと思ったら、今度は、何件もの金融会社から借金の督促が来た。

 しかも、暴力団がらみの暴利な金融会社ばかりから。

 両親は失踪先でも借金を重ねて、それを勝手に私の負債にして押し付けた。金融会社の人間は、病院にまで借金の取立てに来た。

 それが原因で、前の病院には居られなくなって…大好きな仕事を続けられなくなって、辞めることになった。

 両親は何処にいるのかもわからない状態で、分かるのは、泥沼の借金地獄に落とされた事だけ。

 金利だけで膨れあがっていく理不尽な借金と、身勝手な両親に精神的に追い込まれた。

 水商売で借金を返す生活に疲れ、不眠症になり睡眠薬の過剰服用オーバードーズで私は救急搬送された。

 一人で抱えることが限界だった私を助けてくれたのが、以前退職した職場で医師をしていた榊健斗夫妻だった。

 現、榊健人夫人の美菜先生と私は仲が良く、退職後も交流があった。

 その関係で、当時、美菜先生の恋人だった院長とも親しくしていた。

 健斗院長は代々医者の家系で、いくつもの医療法人を運営する榊グループの直系一族。

 院長夫人の美菜先生は、形成外科の医師であり、美容業界のトップ企業の社長令嬢。

 そんな華々しい家柄の二人は、私の両親を容易に探し出して私の前に連れてきてくれた。

 何年ぶりかに再会した両親は、福福しく身を肥やし、ブランド物を身につけた奢侈の塊だった。

 働きもせず借金で豪遊し、ギャンブルに金をつぎ込んでいた両親の実情を知った私は、両親と絶縁した。

 もう呆れ果てて、怒る気力もなかった。

 ただ、両親の顔も見たくなかった。

 血を分けた親子であることすら嫌だった。

 だから弁護士を立て、両親と籍を切り離し、不当に負わされた借金も無効にした。

 その後、両親は借金を繰り返し、借金取りに追いたてられ、一年くらいして二人は亡くなった。

 何処から調べたのか、見知らぬ土地の役所の人から、両親が亡くなったと連絡が来た。

 借金を苦にした自殺という内容の遺書が残されていたので、自殺で処理されたらしい。

 両親が死んだのは三年前、満開に咲き誇った桜花が散り始めた季節。

 知らせに、涙は出なかった。

悲しくもなかった。

 むしろほっとした自分がいた。

 除籍して、戸籍上も赤の他人になっても、ずっと不安だった。

 また、二人が作った借金で、自分の生活が脅かされるのではないかと、いつもびくびくしていた。

 だから訃報を聞かされても、遺体を引き取らなかったし、彼らが何処に埋葬されているのかも知らない。

 我ながら、自分が酷い人間だと思う。

 自分を生んでくれた両親。

 確かに酷い仕打ちはされたけど、子供の頃はとても優しい両親だった。

 せめて、遺体を引き取って墓を建てるくらい、すべきだったのかもしれない。

 年月が経つにつれ、生まれてくるのは迷いばかり。

 けれど、両親が自分にしたことは、まだ許せない。

 私は両親が死んだと知らされたその日から、心の中が止まったまま。

 美しい桜とは対照的な私の心は、この季節になると不安定に黒く淀んでいく。





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