異能犯罪者について
この作品を読む全ての人に、多大なる敬意と感謝を。
俺の名前は五十嵐光司。
職業は異能犯罪者を逮捕する、異能警察官。
俺の異能は「高速冷凍」。
その名の通り、触れた物を高速で凍らせることができる。
年齢は32歳、独身。
自分では、清潔感はあると思っている方だ。
最近は風呂に入り忘れることが多い気がする。
最近ハマっていることはふらふらと歩き、美味しそうな町中華を巡ること。
異能犯罪ってのは、この世に蔓延る異能によって行われる犯罪行為のことだ。
異能を使った万引きや、殺人なんかも起こっている。
それを取り締まるのが、俺らが異能警察官ってわけだ。
異能っていうのは、生まれた時から誰しもが持っている「特殊能力」って覚えておいてくれ。
それか「魔法」でもいいかもな。
例えば、「浮遊する」なんてのも、異能の一種ってわけだ。
こうした異能に酔いしれて勘違いした奴らがしょっちゅういるわけよ。
だからこうして秩序を保つ役割が更に重要視されるようになったわけ。
最近じゃ全国各地で犯罪行為が増えたから、俺らじゃ手が回らないってこともある。
最近じゃ、異能犯罪用の自衛隊を出動することもあるみたいだ。
「さて、今日も1日頑張りますか。」
俺は重い腰を上げて、職場へと向かう。
俺が働いているところは、都会にある交番だ。
駅徒歩5分、俺の住んでいるところからは、車で10分程度。
かなりいい立地にある交番ってわけだ。
もちろん交番なので、財布や傘などの落し物が来たりすることもある。
普通の交番と違うところは、やっぱり見た目だ。
ちょっと派手なんだ。
ま、これ専門の交番も兼ねてるから、国からの資金が厚いってのは理由だな。
あとは目立てばどこにあるか把握してこちらに逃げられることもできる。
もちろんセキュリティ面もそれなりに良い。
ロッカーに向かい、服を着替えて、机に座り、コーヒーを一口。
パソコンで書類仕事をしていると、扉の方から聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「せーんぱーい!おはようございます!」
後輩の水野高松だ。
とても正義感に溢れた青年で、警察官としてはまだまだってところだが、才能はある。
趣味はパン屋巡りらしい。
年齢は20代前半で、俺より7歳くらい離れている。
「よう、今日は早いじゃないか?」
「いつも早いです。先輩が早すぎるんです。」
水野は俺のコーヒーを見て、顔を顰めた。
「またコーヒー飲んで、昨日も飲んでませんでしたか?カフェインばっかり摂らないでください!というか機能どころじゃないですよね?」
「おいおい、お前はいつから俺のオカンになったんだよ。」
水野はため息を漏らす。
「僕は単純に先輩が心配で言っているのに、なんで伝わらないのかなぁ……。」
あ、と水野が何かを思い出したように言う。
「そういえばなんでこの交番、二人しかいないんですか?」
「そりゃあお前、全国的に異能警察官を雇う数が増えたからに決まってるだろ?」
手が回らない、と言ったように、全国的に交番の数が増えた。
それにより、交番に割く人数が必然的に減ったんだ。
異能警察官を求める条件としては、異能の能力が「妨害」「機動力の高さ」「味方へのバフ」ってところだな。
どれか一つでもあれば、犯罪者を追える確率が高くなるからだな。
例えば、水野の異能は「光爆」。
まあ、名前の通り相手の視界の妨害だ。
相手の目が開いていることが条件だ。
目の見えない人は犯罪ができないんじゃないかって?という質問は来ることがある。
もちろんできないさ。
一部「例外」を除いてな。
何故例外なのか?
それも異能のせいだな。
なぜキッパリと言い切れないのか。
それはあの事件のせいだ。
◇
去年、「過去最悪」と呼ばれる事件があった。
水野は警察官になって3年目の時。
その年は、いつもに比べて平和だった。
いや、平和すぎたのだ。
事件の内容は、こうだ。
異能警察官は6名が死亡、3名が意識不明、1名が重傷を負った。
場所は、都内の市民ホールで行われた。
SNSで「市民ホールを占拠した。ここを爆破する。」という投稿が流れていた。
その投稿を見た人が、警察へと通報したのだ。
その日は雨だったか。
朝からぐずついた天気に、冷たく声を鳴らす風。
そして、どこか不穏な空気が流れていた。
追加で通報を受け、俺らも現場へ急行することとなった。
俺らがパトカーで駆けつけた時には、もう終わっていた。
警察官達が。
パトカーのランプが、ただの肉塊となった警察官を淡く照らす。
原型はとどめていない。
顔の形も分からない人や、全てが焼け焦げて異臭を放つ人。
足が無くなった人に、人体模型のように半分にされている人。
もう人と表現するのも難しい「モノ」。
俺らはまだ息がある警察官達を、救急隊へと運ぶように指示した。
遺体となった方は、ブルーシートを敷いて、その上に丁重に乗せた。
雨が無慈悲に、地面へと降り落ちる。
亡くなった警察官達の血を、冷たく洗い流す雨。
赤黒い液体が、地面をゆっくりと、浸食するように染まっていく。
血の匂いがする。
俺は苛立ちながらも、舌打ちして堪える。
「……チッ。」
水野は吐き気を催しながらも、俺についてきた。
「先輩……この人達のためにも、絶対に、捕らえなければ……もう、被害を出さないためにも……!」
その目はギラギラとしていて、絶対に救済をするという、俺には到底できない目だった。
俺たち二人は、拳銃を持ち、市民ホールへと静かに潜入した。
その男は、市民ホールの真ん中にいた。
全身に返り血を浴びたまま。
ポタポタと、血が滴り落ちる音だけが、市民ホールに反響していた。
犯人を見つけた俺と水野は、二人で捕らえることに成功した。
俺が犯人の右足に銃を打ち、水野が視界を妨害した。
「そんな小賢しいもの、私には効きません!」
犯人は水野に向かって異能を使う。
近くにいた水野は飛んできた犯人の異能の、爆発物のような物を奇跡的に避けられることができた。
その後ろにあった、入り口が粉々に、世界に轟くような轟音を上げて消し飛んだ。
犯人が気を取られている隙に、俺が異能を使った。
犯人の手首を掴み、使えないようにした。
「お前、一体いつから……!」
「アンタが俺の後輩に気取られてる時だよ。」
犯人のうつ伏せにさせた。
「私はまだ!『あの方』に満足していただけない!」
「『あの方』だぁ?詳しい話は後で聞くからよ、抵抗すんな。」
俺は犯人を手刀で眠らせた。
「がッ———。」
無線を手に取り、本庁に連絡した。
ほどなくして、その男は連行をされていった。
犯人は目が見えない男だった。
どうやって犯罪を起こしたのか、その男は面白いことを語ってくれたよ。
あの日、俺が捕らえた時に言っていた、「あの方」のおかげで起こせたってね。
「あの方に言われた時から、目を閉じたままなのに、目が見えるようになり、そして、あの強大な力を得た。」
こういう発言をしたんだ。
それから「あの方」に関する情報は沢山探したが、どれも大した情報じゃなかった。
なんとも性質が悪い事件だと思わないか?
真犯人の「あの方」のことは誰も分からない。
逮捕された男はそれ以上の事を何も喋らない。
全国的に似たような事件が発生している事。
あの事件よりは、酷くはないが。
俺たち警察官は、非常に悩まされているんだ。
あの時無くなった警官達は、市民ホールのところに俺たちが定期的に献花をしに行っているよ。
「先輩、結局『あの方』の情報って掴めましたか?」
俺は肩をすくめて首を振る。
「残念ながらそんなものはないさ。掴んだと思った瞬間、霧のように消えていきやがる。そもそも『あの方』が存在するかどうかも分かっていない。」
水野は顎に手を当てる。
「でも、逮捕された男は別の異能を持っていましたよ。元々の異能は『身体能力の向上』だったみたいで。目が見えるようになる効果なんてものは、無かったみたいです。」
俺はへえ、と音を鳴らした。
「それは随分と興味深い。その『あの方』とやらは、既存の異能を無視したものを植え付けられる、と考えるのが筋か?」
「植え付けた、ですか。」
そんな会話をしている水野も俺も、パソコンで作業をしている。
今日は平和だ。
平和。
その二文字は、常に裏切る可能性を孕んでいる。
水野があることを呟いた。
「コピー、ペースト……。」
コピー、ある事を「コピー」して、人物に「ペースト」できる異能が存在しているとしたら。
それはきっと「あの方」という存在なのだろうな。
「なあ水野、お前の呟いたことが、異能だったらどうする?」
「コピペがどうしましたか?」
「例えばよ、例えばの話だ。気楽に聞いてくれ。」
水野は困惑しながらも、力を抜いて、話を聞く体勢になる。
「ええ、まあ、はい。分かりました……。」
「もし、ロケットランチャーがあったとする。それをコピーして、異能としてペーストができたら、どうなる?」
「ロケットランチャーのような異能を得る、って事ですか?」
「じゃあ、仮に武器庫をコピーした場合はどうなると思う?」
「武器庫に関する物を全て使えるようになる、とかですか?」
水野はあ、と声を漏らす。
「去年の犯人、被害者の体に銃槍や、顔の形がわからない人がいたのって……。」
「お前の推察通りだと思うぜ。」
となれば、あの目の見えなかった犯人の透視能力は「レントゲン」のコピーということだろう。
もし「あの方」がそんな強大な異能を持っていたとしたら?
もし「あの方」が何もかもコピーできるのなら?
その場合、犯罪を煮詰めた存在へと昇華されるだろう。
可能性というのは無限大だ。
悪い方にも、いい方向にも転がることもある。
異能だってそうだ。
どれだけ強い異能でも、水野のような奴が使えば、それは凶悪というカテゴリには属さなくなる。
俺が思い耽っていたその時、警報が鳴り響いた。
通報が行われたんだ。
通報場所は、銀行。
おそらく強盗に襲われたんだろう。
「おい水野、車の鍵は?」
「あります!」
水野から投げ渡された鍵を持って、車へと向かう。
銀行は交番からおよそ5分というところだった。
店内には、黒の目出し帽を付けた、少しひょろっとした体格の犯人がいる。
ナイフを店員の首元に近づけ、人質を取っている。
無線が震える、おそらく本庁からの連絡だろう。
「君たち二人で、その場は収まるか?救援が欲しいなら、なるべく早く連絡をしてくれ。
「了解。」
俺たちは駐車場に車を止めた。
「水野、お前の異能で視界を塞げ。いつものように、俺が凍らせて身動きを取れないようにさせる。」
「はい、先輩。俺が先頭に立ちます。」
「俺の合図で突入する、いいな水野。」
「分かりました。」
3カウントが経ち、俺達はドアを蹴り破り侵入した。
「動くな。警察官だ。手を上げて大人しく武器を捨てろ!」
「誰だ通報したのは!お前か!それともそこのジジイか!」
「騒ぐな!お前はもう射程圏内だ!」
水野が拳銃を構えた。
「く、来るんじゃねぇ!こいつを刺して殺してやるぞ!」
「そっちがその気なら!」
水野が異能を使い、犯人の視界を潰す。
「ま、眩しい!何も見えねぇ!どこだ!」
犯人は肩を組んでいた人質から手が離れ、無闇矢鱈に刃物を振り回す。
「こっちさ。」
俺が後ろから犯人を十字固めした。
もちろん足を組んで動かないようにした。
「わ、悪かった!金が無かったんだ!許してくれ!」
水野が手錠を持ってきてくれた。
俺は一度十字固めを解き、犯人に手錠をつけた。
無線で連絡を取り、連行できる準備をした。
その間、店内にいた人達を外へと避難させた。
全員を避難させ終わり、俺はタバコに火をつけようとした。
ライターがつかない。
「水野、ライター持ってないか?」
「またタバコですか?健康に悪いものはやめてください。」
そんな事を言いながら、渋々ライターを渡してくれる。
「サンキュー。」
カチッ。
ライターの音ではない、何かのスイッチの音。
俺と水野は同時に銀行を振り返る。
天気は曇り。
風は冷たい。
いつにもまして平和だった事件。
まさか、と身の毛がよだつほどの悪寒。
その瞬間、銀行が激しい音を立て、爆発した。
俺の顔の前に、破片が———。
◇
爆発の勢いで体が投げ出され、地面を転がった。
痛い、だが同時に、その感覚により自分が生きている事を実感した。
爆発した時の黒煙で、先輩がどこにいるか、周りを見ようとするにも見えない。
風が吹いていて、それが煙をより広げていく。
「先輩!いるなら返事をしてください!お願いします!」
先輩からの返事がない。
最悪の可能性というものが脳内を駆け巡る。
もし先輩が死んでいたら?
吐き気がこみ上げてくる。
あの事件の時のように。
いや、先輩は強い。
死んでない、そうだ。
黒煙が気管に入り、咳き込む。
自分がどこにいるかすら、まだ確認できていない。
感覚だけを頼りに、先輩の近くへ向かう。
先輩を見つけた。
息はしているが、目は覚めていない。
おそらく気絶している。
足元が凍っているから、きっとあえてこけて気絶ですませたのだろう。
先輩が目覚めた時のために、先輩のネクタイやベルトを緩めて、呼吸を楽にしてやる。
着ていた上着を丸めて使い、先輩の足を高く上げた。
まだ銀行はチリチリ、と炎の延焼する音が聞こえてくる。
燃え盛る銀行の中から、炎の音ではないパチパチという拍手の音が聞こえてくる。
それに、若い女のような、男のような、どちらにも捉えることのできる中性的な声。
「銀行にいた人を全員逃がしているとは。全員殺すつもりだったのに、君たち二人のせいで計画が崩れたよ。」
煙が晴れて、視界が良好になる。
そこに立っていたのは、見るからに「支配者」と思わせるほどの、異質な存在であった。
長く白い髪は、どことなく冷たいイメージを与える。
「あの方」だ。
水野は分かりたくないのにも関わらず、分かってしまった。
いや、脳内で理解させられたのだ。
「今回爆破したのは銀行にあるパソコンとかスマホとか、全部爆発できるようにしたんだけど、君たちが外に出しちゃったせいで被害ゼロなの。せっかく銀行強盗のブラフもかけてたのに。」
まさか、人だけではなく、物質に対しても異能を貼り付けられるのか?
「ブラフ……?あれは、銀行強盗のはず、じゃ……?」
「あの方」は呆れたようにため息を漏らす。
「全員爆殺するためのブラフに決まってるじゃん。」
「それじゃ、僕たちが捕まえたあの人はっ!」
ああ、と思い出したような声を出す「あの方」。
「あの子には『時限爆弾』を付けてみたよ。もちろんあの子自身が爆弾さ。」
人が、人自身が爆弾?
それはただの遠距離時限爆弾では。
人の命をこんなに簡単に無下に扱える存在がいてたまるか。
「そうだね、僕の能力は、君たちの想像している通り、『コピー&ペースト』だよ。ま、言わなくても分かってたみたいだけど。」
もし本当にそうなら———。
無線が震える。
あの事件のような、不穏な空気。
水野は震える手を抑えながら、無線からの音声を聞く。
「銀行強盗を乗せた犯人の頭部が破裂し、車ごと大爆破した模様。警察官二名が意識不明の重体!」
「時限爆弾って、犯人が、死んで……?」
「なんで理解できないのかなぁ、だからさ、君たちが捕まえた犯人。あれも一種の被害者で、もう死んじゃったの。」
水野は過呼吸気味になる。
「お前、人のことをなんだと思っているんだ!」
「あの方」は薄気味悪い笑顔を顔に貼り付けた。
「僕の目的を達成するための『道具』さ。」
「あの方」は水野に対して一礼する。
「申し遅れたね、君たちが探しているであろう『あの方』だよ。名前は……ファーストでいいよ?僕は全てのファーストになるからね、覚えやすいだろう?」
「お前らの目的は何なんだ!ファースト!」
「この世界を自由にするんだよ。せっかくの異能があるんだ、それなのに何も活かせないって、つらくないかい?」
「ふざけた事を言うんじゃないっ……!お前らみたいなのがいるから平和にならないんだ……!」
「僕は至って真剣だよ、警察くん。平和とは人によって違うのさ。」
水野は震えながらも、拳銃を手に取った。
狙いが定まらない。
「そんなにブレブレで、当たるのかい?ほら、当ててみなよ?」
右奥からパン、と銃声。
ファーストの肩から血が流れる。
「……へぇ、撃てるんだ、君。」
撃ったのは水野ではない。
先ほどまで気絶していた、五十嵐だった。
◇
頭への致命傷は避けたが、気絶するほどだとは思っていなかった。
飛んでくる瞬間、靴に手が触れており、滑ることができた。
俺は自分の服を見る。
ネクタイやベルトが、緩められてある。
気絶している時に呼吸しやすいように、水野が考えてくれたのだろう。
もう既に煙は晴れており、水野を探せるほどだ。
辺りをキョロキョロと見回し、水野を見つけた。
水野と、水野の前に立っている、女のような、男のような奴。
まさかあれが、「あの方」なのか。
水野は今年で四年目だが、こういう状況にはあまり慣れていない。
俺とコンビで活動してきていたからだ。
少し遠くに転がっていた拳銃を手に取る。
アイツに、水野を殺させてたまるか。
まだ少しおぼつかないが、この距離であれば、当たる。
待ってろ水野、俺とお前で組めば、きっと倒せるはずだ。
その可能性を、この一発に込める。
トリガーに指をかけ、力を込めた。
パン、と響く銃声に、飛び散る鮮血。
なんとか当てられたみたいだ。
心臓には当たらなかったが、肩に当たっていた。
「あの方」は素早い動きで、銀行の裏に隠れた。
「チッ、気絶してただけなのかよ。しぶといおっさんだな!」
その隙に、俺は水野の所に向かった。
「おい水野、どういう状況か簡潔に言え!」
助けが来たとでも言うように、希望に満ちた目で、俺のことを見てくる水野。
いかんいかんと、首を振り俺に状況説明をする。
「先輩が気絶している間に、『あの方』が出ました。アイツは自分のことを『ファースト』と名乗りました。全部の頂点に立つ、という理由で。そして僕たちの捉えた犯人は爆散し、死亡したと確認がされました。元々がアイツの手のひらの上だったようです。」
「ファースト、絶対と言っていいほどの偽名だな。アイツの能力は確認できたか?」
「ほんの少しだけです。銀行の爆発した理由は、アイツがパソコンなどの機械類に爆発をしかけたことが理由だとは考えられます。」
今回は爆発をコピーしてきやがったか。
「おい水野、今回ばかりは俺だって死ぬかもしれない。だが俺は諦めてはいない。アイツを倒すまで、俺は死ねない。」
「……僕も、いつまでも先輩に甘えていては、成長できませんよね。やらせてください。僕も、先輩と戦わせてください!」
意欲的なのはいいことだ。
それが裏目に出ないように、俺は祈るしかない。
「いつでも使えるか?」
「勿論です!」
俺らは銀行の裏へと近づく。
ファーストはいなかった。
別のところに移動したか、もしくは透明になっているか。
アイツのことだ、タコやカメレオンをコピーすれば風景に擬態して、実質的な透明になることだってできるはずだ。
「水野、俺が前を向く。お前に背中を預けるからな。」
「絶対傷つけさせません!」
呼吸を忘れさせるほどの沈黙。
上から気怠げな声が聞こえてきた。
ファーストだ。
肩の傷は、どうやら治っているみたいだ。
「僕の異能、ストック制だから、どんどん使わされると負けちゃうから、早めに死んで欲しいんだけど?」
「そいつはお互い様だな、俺らだってお前みたいに強い異能を持ってるわけじゃねぇんでな。」
ファーストはとことん不機嫌な顔になる。
「負けてくれない?負けてくれたら殺さないであげるからさ。」
俺は銃を構えて、発砲した。
そこにファーストはいない。
「水野、周囲の警戒!」
「遅いね!」
俺の真上に雷雲が集まり、雷が落ちてきた。
危機一髪、回避することができた。
雷の落ちたところは、焼け焦げている。
もしあれが人に落ちていたと考えるだけでも、恐ろしい。
俺は息を呑んだ。
「本当にズルだろ、あの異能。……水野、異能の準備しとけ。俺はここら一帯を凍らせる。」
「それって、車は凍ってスリップするから、救援が——。」
「今更救援呼んでも遅ぇ。目の前のアイツを逃がすよりマシだ。」
俺は地面に手をつけて、辺りのマンションごと凍らせた。
燃え盛っていた銀行も、今はただの氷だ。
「水野、交番の引き出しに遺言書ちゃんと入れて来たんだろうな?」
「もちろん、入れてきてます。でも、死ぬ気は無いです!」
ファーストは肩をすくめた。
「そろそろ仲良しタイムは終わりでいいかな?逃げ場を無くした君の愚かさに脱帽するよ、本当にね!」
ファーストが俺の左手に向かって何かを放った。
熱い、異様に熱い。
掌だけが、局所的に。
恐る恐る手を確認すると、3cm程の穴が空いていた。
血も出てこない、断面は焼き切れている。
レーザーで狙撃されたような。
「お前、レーザーなんてどこからコピーしてきやがったんだ……!」
「スキンケアでも、医療でもレーザーって使われるから、身近な存在なんだよ?知らなかったかい?」
「そうだとしても、そんな火力出せるわけないだろ……!」
いや、違う。
こいつ、全て種類の違うレーザーを全部コピーしてるんだ。
そのコピーしたレーザーをまとめてぶち込みやがった。
ハッキリ言って、イカれてやがる。
俺はファーストに向けて銃を撃つ。
「さっきはどう避けたか知らないけどよ、同じ避け方はできないってことだろ?ストック制ってことは、同じ攻撃は二度と来ないってことだ!」
推測通り、ファーストの左腕に銃弾が当たった。
ファーストは痛みに顔を歪めた。
「何故分からないんだ!この世は強者が支配、弱肉強食の世界なんだぞ!強い奴が猛威を振るう。じゃあ僕たち一般市民はどうするんだ!せっかくの下剋上のチャンスなんだ、異能を使うほかないだろう!違うかい!」
「違います!貴方の言ってることは、ただの自己中心的な理想の押し売りです!無秩序の世界では何もできなくなります!」
「よく言った水野、その通りだ。だがなファースト、分かるぜ、その気持ち。俺もそう思う時があった。だが結果として、この世界は成り立っている。無理に変えて失敗するより、俺は現状維持を選ぶ。堅実なもんでな。」
ファーストは歯ぎしりをする。
「分からず屋……!」
「そろそろ話を終わらせて、決着をつけよう、ファースト。」
ファーストは持てる異能を全て使用し、自身を強化した。
禍々(まがまが)しい、機械のような、別の生き物のような見た目へと変化した。
「まだ隠し球があんのかよ!早く倒れてくれた方が、俺らも楽で済むんだけどな!
ファーストは、目だけで俺らのことを見下ろす。
「君たちが分かってくれないなら、実力で証明すればいい、それだけだ。」
ふっと息を吐いた。
「水野、お前が頼りだ。お前の異能で、俺の、アイツへの通り道を作ってくれ。俺はアイツの急所を凍らせてくる。」
「……先輩、一人で行くってことですか……?」
「ああ、無事に倒すさ、任せろ。」
水野は覚悟を決めたように頷く。
「全力でサポートさせていただきます!」
俺は走り出した。
右手に力を込めて。
「来いよ!警察ども!」
ファーストはドリルやハンマーなど、殺傷力の高い武具を頻繁に使ってくる。
無論、天候もコピーしているらしく、気温を上げたり下げたり、こちらの集中力を削いで油断させにきている。
あちらも本気というわけだ。
「水野!今だ!」
後ろから強い光を感じとり、走る速度を上げた。
「光爆!」
ファーストは目を抑える。
「こんなものっ!」
ファーストが目を瞑った瞬間、水野が銃を構えてファーストに発砲した。
一発一発のダメージとしては、アイツに対してあまり有効では無い。
だが、ヘイトを稼ぐのに十分だろう。
お陰様で、アイツの死角に入り込むことができた。
「チッ、アイツのコピーをここで使うしか!」
ファーストは俺と同じように手を地面につき、周囲をより凍らせた。
「おいおい、俺の異能を見ただけでコピーできるのかよ。骨が折れるぜ。」
こんなことを言える余裕も無くなってきたな。
「そろそろ終わらせないと……アイツがどう戦ってくるかわからねぇ!」
ファーストはスケートをコピーし、滑るように、こちらに高速で近づいてくる。
「水野ォ!狙いはお前だ!」
妨害役として油断している水野に、ファーストが異能で刀を創り出し、水野に構えた。
「この野郎っ!」
水野はファーストの胴体を蹴り飛ばしたが、蹴り飛ばす寸前に横薙ぎをされたことで腕に浅い傷が残る。
ファーストは素早く身を起こし、異能で銃を撃つ。
「このままじゃ防戦一方だ。相手のストック切れを待つか、こちらから仕掛けて潰すかの二択だぞ、水野。」
「先輩、僕がもう一度異能で視界を潰します。」
それを分かっていたかのように、ファーストは目を瞑る。
「アイツ、目を閉じやがった!お前の異能に対する対策ってことだ!」
「なッ……!」
ファーストは目を瞑っているのにも関わらず、確実にゆっくりとこちらに歩みを進めている。
あの男と同じように。
「今回もレントゲンをコピーしてきやがったか!」
「もう僕に光は効かないさ、それにいつまで話してるつもりだい!」
ファーストは水野の懐に潜り込んでいた。
見えなかった、いったいいつからなのか。
「水野!避けろォ!」
ぐちゅり、と肉に刃物が突き刺さる、耳にこびり付く嫌な音。
間一髪急所を外せた水野は、ファーストに弾丸を撃ち込んだ。
「チィッ!」
弾丸は二発はファーストの腕に当てることができたみたいだ。
「僕にもう一度弾丸を当てたな!それも二発も!」
「お前が硬いからこうやって何回も撃ってんだよ!」
耐性が着実と脆くなっているのか、はたまた強大な力を自分の体で耐えることができていないのか。
ファーストのこめかみから血が流れ始めている。
「水野、アイツも限界みたいだぜ。俺が決める、お前は道を作れ。」
「分かりました!」
水野は異能を使う準備をする。
「無駄さ!今の僕は目を閉じてる!君の異能は効かないさ!」
だが、水野は異能を使うフリをしていた。
「なっ、何故使っていない!」
水野はファーストの肩を撃ち抜いた。
「先輩、アイツの動きを弱めました!」
「ナイスだ水野、この距離ならアイツに触れられる!」
ファーストに手を伸ばす。
肩に手が乗った。
「ファースト、お前は強いが、慢心しすぎたな。残念だが凍ってもらうぞ。お前も正義感があって、何かを変えたかったんだろうな。」
「嫌だ、僕は何一つこの世界を変えられていない!」
ファーストは年相応の、いや、それ以上に幼く見え、ぽろぽろと涙を流している。
「そんな顔しても、もう無駄だ。お前は暴れすぎた。この世はもうとっくに平和なんだよ。」
俺はファーストのことを、ゆっくりと冷たくしていった。
◇
その後、ファーストは連行されていった。
本名は、空香織という(そらかおり)というらしい。
この前のニュースで大々的に報道されていたさ。
ファーストの残した俺の傷跡も、世間に残した傷跡も治りきっていない。
なあファースト、正義と平和って、本当に何なんだろうな。
「先輩、何悩んでるんですか?というより、それ、本当に痛く無いんですか?手。」
「正直なところ、かなり痛いさ。でもこれがあると、アイツを忘れずに済むだろ?」
「ファーストのことですか。いえ、今は空と呼んだ方がいいのでしょうか。あの人の残したことはこの国を変えることになるかもしれません。」
俺はゆっくりと息を吐く。
「俺も同感だよ。アイツに会えたら、どんな平和がこの世を救うことになるのか、ってことを聞いてるんだろうな。」
そういえば?というように首を傾げる水野。
「先輩、タバコやめたんですか?」
「平和になるなら、まずは自分からってな?」
「何ですかそれ、でも、先輩が健康になるならそれはそれで嬉しいですが。」
「なあ水野、俺はこの国を笑いの絶えない国にしたい。」
「スマイルでハッピー!ってことですか?」
「……ちょっと違うような気もするが、だいたいそんなことだ。些細なことでも笑い合える、そんな世の中を作りたいさ。」
まだ平和とは言い切れない、恐ろしい世の中だ。
だが同時に、随分と楽しそうな気もする。
ピリリ、と電話がかかってきた。
「もしもし?」
「そちらの交番に、一人新人が行くことになった。面倒を見てやってくれ。」
ガチャリ、と電話が切れた。
「水野、新人が来るみたいだが、何か聞いてたか?」
水野は首を振る。
「いえ、そういう報告は聞いていません。」
一体どんな奴が来て、いつ来るのか教えてくれてもよかったのではないか。
交番のドアが音を立てながら開く。
「さっき電話で聞いた新人の人が来たか?水野、二人で挨拶するぞ。」
俺たちはドアの方へと向かう。
「こんにちは。」
中性的な声。
そこに立っていたのは、長く白い髪。
性別をどちらとも取れるような外見。
「何でお前がここにいるんだ?どうやって出てきた?」
「久しぶりだね、お二人さん。まさかこんな再会になるだなんて。」
ファースト。




