8話 クリスタルドレイク
クリスタルドレイクが翼を広げた。
水晶の鱗が光を反射し、森に虹色の光が散る。
巨大な竜は、紫の結晶の前に降り立ったまま動こうとしない。
まるで――
それを守る番人みたいだった。
「……やっぱり守ってるな」
カインが小さく言った。
黒髪の勇者は剣を構え、一歩前に出る。
「行くぞ」
足元に光が広がる。
静かな円。
淡い魔法陣が地面に浮かび上がった。
「――聖域〈サンクチュアリ〉」
空気が変わる。
カインのスキル。
聖域を展開し、仲間の能力を引き上げる力。
体が軽い。
魔力の流れも、はっきり感じられる。
その瞬間だった。
ドレイクの喉の奥が赤く光る。
空気が揺らぐ。
「おいおい……」
シオンが空を見上げて笑った。
「挨拶もなしに焼きに来るか」
次の瞬間。
竜が口を開いた。
轟音とともに、炎が吐き出される。
「ローガンっ!」
カインが叫ぶ。
「わかっているっ」
ローガンは一歩も下がらない。
巨大な盾を地面に叩きつけた。
「守護壁〈ガーディアンウォール〉」
盾の前に魔力の壁が展開される。
炎のブレスが直撃する。
熱風。火の粉。
それでも防壁は崩れない。
ローガンが踏みとどまる。
「まだまだっ!」
シオンが弓を引く。
目が細くなる。
「――千里眼〈イーグルアイ〉」
視界が変わる。力の流れ。鱗の重なり。
その中に、ひとつだけ歪んだ場所が見える。
シオンが笑う。
「弱点発見っ!」
弓が引き絞られる。
矢が放たれた。
鋭い音を残して飛ぶ。
鱗の隙間。
そこへ突き刺さる。
ドレイクが咆哮した。
キィィィィィ!!
巨大な翼が振り上げられる。
森の空気が震える。
次の瞬間。
竜の周囲に結晶が生まれ始めた。
空中に浮かび上がる巨大な水晶の塊。
ひとつ。ふたつ。みっつ。
いや――
十以上。
「……まずい」
カインが低く呟く。
「投げてくるぞ」
次の瞬間。
ドレイクが翼を振った。
巨大な結晶塊が一斉に飛ぶ。
「エリス!」
カインの声。
私は杖を握った。
魔力の流れを読む。
タイミングはここ
杖を前に振る。
私の前に魔法陣が展開された。
透き通った光の輪。
「――反転〈リフレクション〉」
魔法陣が回転する。
結晶塊が触れた瞬間。
軌道が変わる。
そして――
すべて逆へ弾き返される。
巨大な結晶塊がドレイクへ叩き返された。
竜の体が大きく揺れる。
翼が崩れる。
巨体が傾く。
そして。
ドレイクは、地面へ崩れ落ちた。
森が静まり返る。
私は息を整える。
そのときだった。
ドレイクの体から、光が浮かび上がる。
淡い紫色の粒子。
それが、ゆっくりと空へ上がる。
「……?」
粒子は、漂うように移動して――
紫の結晶へ吸い込まれていく。
まるで、呼び寄せられるみたいに。
結晶の中へ消えていった。
次の瞬間。
結晶が、強く光った。
パキッ。
小さな音。
私は思わず息を呑む。
紫の結晶の表面に、細いひびが走っていた。
一本。
そして、もう一本。
蜘蛛の巣みたいに、ゆっくり広がっていく。
結晶の奥の光が、揺れる。
いや――
揺れているんじゃない。
動いている。
そのひび割れの奥で。
暗い影が、ゆっくりこちらを向いた。
……目だ。
結晶の内側から。
ナニカの目が、こちらを覗いていた...




