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魔族に転生した俺が転生勇者を殺す理由  作者: koji


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7話 勇者パーティ

前の世界では、ずっと思っていた。

 

――自分は、いなくてもいい人間なんじゃないか、と。


 学校でも、家でも、どこにいても同じだった。

 誰かに必要とされている感覚が、ずっとなかった。

 居場所がない。

 ただ、それだけで、人は簡単に壊れそうになる。

 あの日も、ぼんやり歩いていた。


 クラクションが鳴った。


 強い光。


 そして――


 気づいたときには、この世界にいた。

 そして、勇者に出会った。


「エリス?」


 前を歩いていたカインが振り返る。

 黒髪の青年。

 このパーティの中心にいる勇者だ。


「大丈夫か?」


 やさしい声だった。

 私は小さく頷く。


「うん。大丈夫」


 カインは安心したように笑い、また前を向いた。

 この世界では、異世界から召喚された者たちは

 転生勇者と呼ばれている。


 ただし、前の世界の姿のまま現れるわけではない。

 送られてくるのは――魂だけ。

 その魂は、この世界の人間の体へ宿る。

 もともとこの世界で生きていた人間の体に、

 別の世界の魂が重なるように。

 だから勇者は、この世界の名前を持つ。


 私の名前もそうだ。

 エリス。

 それは、この世界で生きていた少女の名前。

 その体に、別の世界の魂が宿った。


 ――それが、今の私だ。


 転生してきた勇者には、それぞれ特別な力が宿る。

 女神セリアの加護。


 魂に刻まれる固有のスキルだ。

 私のスキルは――


 反転リフレクション


 魔力や衝撃を跳ね返す力。

 強力な攻撃ほど、正確なタイミングが必要になる。

 それでも。

 カインは言ってくれた。


 「お前の反転が頼りだ」


 その言葉が、今でも胸の奥に残っている。

 たぶん、あのときからだ。


 この人の役に立てるなら――


 私は、ここにいてもいいと思えたのは。

 カインの隣を歩いているのはローガン。

 背の高い騎士だ。

 体格も大きく、肩幅も広い。

 背中には人の背丈ほどある大きな盾を背負っている。

 寡黙で、あまり話さない。

 でも戦いでは、誰よりも頼りになる。


 少し後ろを歩いているのがシオン。

 金髪の弓使い。

 軽口ばかり叩いている。

 けれど弓の腕は確かだった。

 森を進んでいると、ローガンが足を止めた。


「……静かだな」


 低い声だった。

 すぐ後ろから、シオンが笑う。


「おまえが言うなよ」


 肩に弓を担いだまま言う。


「さっきから一言もしゃべってないだろ」


 ローガンが振り向く。


「必要ないからな」


「ほら見ろ」


 シオンがカインに言う。


「こういうやつなんだよ」


 カインは苦笑した。


「でも、ローガンの言う通りだ」


 森の奥を見る。


「静かすぎる...」


 確かにそうだった。


 鳥の声がない。

 風もほとんどない。

 森全体が、息を潜めているようだった。


「依頼の話、覚えてるか?」


 シオンが言う。


「森の近くの集落がやられたんだろ」


 カインが頷く。


「ああ」


 森の近くの小さな集落だった。

 そこを、魔物が襲った。

 家は壊され、建物は踏み潰されていた。

 巨大な何かが暴れたような跡だった。

 人の姿はほとんど見つからなかった。

 抵抗した形跡もない。

 一方的に蹂躙された跡だけが残っていた。


「森に入った奴らも戻ってないんだよな」


 シオンが言う。


「様子見に行った連中は全員もどっていない」


 ローガンが短く答える。


 森の奥にいる魔物を見た者は、誰も帰ってきていない。


「大型魔物の可能性は高い」


 カインが言った。


「慎重に行こう」


 私たちは森の奥へ進んだ。

 しばらく歩くと、景色が変わる。

 木々が途切れ、少し開けた場所に出た。


「……なんだ、ここ」


 シオンが呟く。


 そこには石の残骸があった。

 折れた柱。

 崩れた壁。

 長い年月で風化した石造りの建物の跡。

 中央には石の台があった。

 祭壇。


 そして――

 その表面に刻まれている紋様を見て、私は足を止めた。


「……これ」


 石に刻まれているのは、奇妙な印だった。

 手。

 大きく開かれた手のひら。

 そしてその中心に――

 目。

 見開いた目が刻まれている。

 ただの装飾ではない。

 その手は、何かを掴もうとしているようにも見えた。

 いや。

 まるで――

 逃げようとするものを、上から捕まえるような。

 そんな不気味な形だった。


「どうした?」


 カインが聞く。


「この印……」


 私はゆっくり言った。


「邪教の印」


「邪教?」


 シオンが眉をひそめる。


「神の教団」

 私は説明した。


「女神セリアじゃなくて、神アイレスを崇めている」


 この世界で信じられているのは女神セリア。

 勇者を送り、人々を守る存在。

 でも、この教団は違う。

 彼らは神アイレスを崇めている。

 しかも、かなり過激な連中らしい。


「聞いたことはある」


 ローガンが低く言う。


「勇者を嫌っている教団だ」


 シオンが肩をすくめた。


「感じ悪い連中だな」


 カインは祭壇の中央を見ていた。


「……あれは」


 そこにあったのは、結晶だった。


 紫色の水晶。

 人の胸ほどの高さ。

 祭壇の中央から、生えるように立っている。

 内部で、淡い光が揺れていた。

 ゆっくりと。

 まるで――

 脈打つように。


「……」


 私は思わず息を止めた。

 

魔力の反応。


 あまりにも濃い。


「エリス?どうした?」

 カインが声をかける。


「この結晶……」


 私は結晶を見ながら言った。


「魔力が強すぎる」


 カインが少し眉をひそめる。


「危ないものか?」


「わからない……でも」


 胸の奥がざわつく。

 嫌な感じがした。


「近づいてみるか」


 カインが言う。

 私たちはゆっくり祭壇へ歩き出した。

 一歩。

 二歩。

 そのときだった。

 森の奥から、音がした。


 キィィィィィィン――


 ガラスを擦るような、甲高い鳴き声。

 全員が同時に空を見上げた。

 木々の隙間。

 光が反射する。

 何かが飛んでいる。


 次の瞬間。


 巨大な影が森の上を横切った。


「……来るぞ!」


 ローガンが叫ぶ。

 空から降りてきたのは――


 竜だった。


 巨大な結晶の翼。

 鱗はすべて水晶。

 光を受けて虹色に輝いている。

 全長は十メートル以上。

 その竜は大きく旋回すると――

 祭壇の中央へ降り立った。


 紫の結晶の前に。

 低い唸り声が響く。

 結晶の爪が地面を削った。

 私は思わず息を呑む。


「……ドレイク」


 カインが静かに言う。


「クリスタルドレイクだっ....」


 シオンが息を吐いた。


「なるほど……」


 ローガンが盾を構える。


「集落が潰されるわけだ」


 クリスタルドレイクは動かない。


 ただ、紫の結晶の前に立ち、こちらを見ている。


 まるで――


 それを守る番人のように。

 カインが剣を抜いた。


「やるぞ...」


 その声で、私は杖を握り直した。

 クリスタルの翼がゆっくり広がる。


 そして――


 戦いが始まろうとしていた。

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