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魔族に転生した俺が転生勇者を殺す理由  作者: koji


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6話 残穢

翼を広げ、空へ上がる。


村の屋根が小さくなっていく。

森の境界も、すぐに見えなくなる。

振り返らない。

風を切り、さらに高度を上げる。

黒い外套が揺れ、背の羽根が軋む。


そのときだった。


胸の奥に、わずかな違和感が落ちる。


「……ステータス」


心の中で呟く。

視界の奥に、淡い文字が浮かぶ。


――個体名:レイ・クロウフォード


――取得:剣術技能向上


一瞬で消える表示。


踏み込みの感覚。

間合いの測り方。

刃を弾く角度。

それが、骨の奥に沈んでいる。


「……残滓か」


呟く。


殺した瞬間、確かに何かがこぼれ落ちた。

魂ではない。

声でもない。

だが、強く燃えたものほど、痕を残す。


そのとき


胸の奥に、柔らかな温度が広がった。

小さな手。

少しだけ不格好な包み。

焼きたてのパンの匂い。


『……すごい』


あの声が、やけに鮮明に響く。


『やっぱり、勇者さまだね』


誇らしそうな顔。

無邪気な笑顔。

それは勇者に向けられたものだ。

俺ではない。

それでも、胸の奥がわずかに軋む。


『……お昼も、あとで持ってくるね!』


あの約束は、もう守られない。

少女は、きっとまたパンを焼くだろう。


そして、気づく。


勇者が帰らないことに。


レイは目を閉じた。


それは俺のものではない。


勇者の最後に結びついた、執着の残り火だ。


「……消えろ」


低く呟く。

冷たい風が、頬を打つ。

温度が、薄れていく。

残るのは、技だけだ。

感情は、不要。

白い揺らぎが前方に現れる。

結界を抜けると、石造りの城が姿を現した。

翼を収め、回廊を進む。

奥の部屋から、紙をめくる音がした。


「お帰りなさい、レイ様」


リネが顔を上げる。


「一人だ」


それだけ告げる。

リネは静かに頷き、帳面を開く。


「体調が優れないようですが」


「いつもの残滓だ。問題ない」


「……そうですか」


羽根ペンが紙を走る。


――勇者一名、処理完了。


――残滓確認。


少しの沈黙。


「……今回の転生勇者は、どのような方でしたか」


「善人だ」


短く答える。


「村に滞在し、仲間はいなかった。まだ成長途中だった」


リネの手が、わずかに止まる。


「……そうですか」


やるせなさが、ほんの少しだけ滲む。

帳面を閉じる。


「次の反応ですが」


別の紙束を差し出す。


「西の小国。勇者は一名ではありません」


レイは目を細める。


「……パーティか」


「はい。既に魔王軍幹部級を討伐。王都では“英雄”と呼ばれています」


空気が、わずかに重くなる。


「成長が早いな」


「ええ。出力値が高すぎます」


リネは静かに続ける。


「……回収が近い可能性があります」


レイの視線が、わずかに鋭くなる。

胸の奥が、静かに軋んだ。


「間に合うか」


「分かりません」


沈黙。


レイは外套を羽織る。


「行ってくる」


「お気をつけて」


翼を広げ、城の外へ飛び出す。

夜空を裂く。

遠く、西の空が、わずかに白く脈打っている。

まだ、完全ではない。

だが、兆しはある。

勇者パーティ。

成長しきった力。


そして――


奪われる前に、終わらせる。


レイは加速した。


生きている方が、残酷だから。

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