4話 生きている方が残酷だから
岩影から、勇者を見ていた。
少し前の光景が、頭に残っている。
ストレイウルフ三体。
数で押す型だが、動きは単調だ。
勇者は距離を保ち、一体ずつ確実に削った。
剣筋は荒い。
だが、無駄は少ない。
勇者としての力は、まだ表に出ていない。
それでも、この辺りの魔物相手なら苦労はしないだろう。
女の子が去ったあとも、勇者は剣を収めなかった。
こちらを見ている。
視線が、合った。
気づいている。
なら、隠れる意味はない。
岩影から姿を現す。
その瞬間、空気が変わった。
勇者の肩が、わずかに強張る。
「……さっきから、見ていたな」
「ああ」
短く答える。
「魔族か?」
「そうだ」
勇者は剣を構えたまま、こちらを見据える。
「……何のために来た」
一瞬、間を置いた。
言葉を選んでいるわけではない。
ただ、事実を口にするだけだ。
「勇者ごっこを、終わらせに来た」
嘲るつもりはなかった。
声に感情も乗せていない。
それでも、その言葉ははっきりと刺さったらしい。
勇者の眉が、わずかに動く。
「……そういう言い方をされる覚えはない」
怒りではない。
困惑と、戸惑い。
それから、こちらを見極めようとする視線。
「……狙いは、俺だけか?」
「ああ」
その答えに、勇者は小さく息を吐いた。
圧倒的な力量差を感じ取っている。
それでも、村が巻き込まれないと分かった瞬間、
余計なものが削ぎ落とされた。
「……そうか」
剣を、握り直す。
「なら、話は早い」
勇者が先に踏み込んできた。
刃がぶつかる。
金属音が森に響いた。
一太刀。
二太刀。
勇者の剣は重い。
体重を乗せた斬撃を、受け流す。
刃が滑り、火花が散る。
距離が詰まる。
横薙ぎ。
突き。
連続する攻撃が、間合いを崩しにくる。
地を蹴り、位置をずらす。
それでも、追ってくる。
肩口を狙った一撃。
かわしきれず、刃がかすめた。
浅い。
だが、確かに届いている。
数合、刃を交える。
勇者の動きは衰えない。
こちらの剣を弾き、踏み込んでくる。
だが――
一歩、前に出た。
刃を弾き、懐へ入る。
衝撃。
勇者の身体が、前へ崩れた。
膝をつき、剣で地面を支える。
「……村に、戻るって……」
息が乱れる。
「……約束、したんだ」
視線は、こちらではなく、遠くを見ている。
返す言葉はない。
剣を振る。
勇者は、そのまま倒れ伏した。
森が、静かになる。
勇者の亡骸を見下ろす。
「……生きている方が、残酷だから」
そう呟き、翼を広げた。




