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この世界のどこかできっと  作者: 悠介


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9/9

きっといつか。

「悠介、そっちは変わりない?」

「今週は会えてないからなぁ。こっちは代わりないよ、榎本君も独り立ちして久しいし、特にこれと言った変化がある職場でもないから。ただ、お客さんが何人か亡くなったかな。」

「悲しいね。」

「人の寿命だ、仕方のない事だよ。俺達介護職は、誰かの死と向き合って生きていく、医者じゃないけど、最期の最期を看取るのは俺達介護職な事が多いだろう?だから、俺達は覚悟してなきゃいけないんだ。」

「そうだね、介護士さんは、そう言う立ち位置になる事が多いだろうから……。辛かったら、言ってね?」

「ありがとう、浩介。大丈夫だ、もう二年以上勤めてるんだ、だいぶ慣れて来たよ。慣れていい事なのかどうか、はわからないけどな。」

 浩介と付き合い始めて、あっという間に二か月が経った。

 今は六月の末、そろそろ梅雨が終わって夏になる、俺はデブで汗っかきだから、夏は苦手だ。

「それで、そっちはどうだ?小説、進んでるか?」

「えっとね、大学の講義のない時とか、そういう時に書いてるから、あんまり進んで無いんだ。ただ、ちょっとずつは書けてるよ?」「それは良かった。俺からアドバイス出来る事があったら聞いてくれ、答えられる事なら答えるから。」

「うん、ありがとう。」

 榎本さん、って言ってた後輩を、榎本君って言う様になったり、真鍋さんが天寿を全うされたり、変化が無いと言えば嘘になるけど、特筆して変化はない、それが俺達介護職の定めって言うか、そう言う立場なんだから、いちいち心を砕いてたら、心が壊れるか腐っていく、だから、務めて平常心でいなければ、それも介護職の仕事の一つだ。

 浩介は今、大学で教員過程を受けてるらしくて、将来学校の先生になってみたい、自分がなれるかはわからないけど、って言ってたな。

 出会った頃に比べれば、どもりとかそう言うのも格段に改善されて、今ではコンビニに行っても普通に会話が出来る様になり始めてる、って言う話だったし、なれるとは思う、ただ、浩介自身が納得してないと、それは出来ないだろう、とも考える。

「大学の方はどうだ?」

「えっとね、ちょっとだけ、お話を出来る人が出来たんだ。良太君って言う、同級生なんだけど、一緒の教育課程取ってる子でね、一か月前だったかな、話しかけてくれたんだ。」

「そうか、それは良かったな。」

「怒らないの?ほかの男と仲良くしやがって、って言わないの……?」

「言う理由がないだろう?その子と一線を越えた、なら話は別だろうけどさ、友達が出来たって言うのなら、俺は嬉しい。」

 そう言えば、浩介が一か月前にもそんな話をちらっとしてた覚えがある。

 ただ、その時は話しかけてくれた、位にしか聞いてなくて、浩介がどもってつっかえつっかえで話をしても、それを受け入れてくれた、って嬉しそうに話してたっけ。

 ここ二週間は会ってない、夜勤じゃない日は欠かさず電話をしてるけど、でも話し漏れとかはあるだろうし、俺も会話の全部を覚えてる訳じゃない、だから、浩介が嬉しそうに話すのを聞くのは、嬉しい。

「良太君、どんな子なんだ?」

「えっとね、ちょっと悠治に似てるタイプかな、って印象かなぁ。なんだか、悠治を同い年にしたらこんな感じの子が出来る、って言う感じだよ?だからじゃないけど、話しやすいって言うか、ちょっとだけ怖くないんだ。」

「悠治に似たタイプか……。なら、ちょっとおっとりしてるのかな?」

「うん、僕はぼんやりしたタイプだから、って言ってたけど、おっとりしてる、って言うのが正解だと思う。」

 悠治とも何度か会ったり、通話を三人でする様になったり、ってやってたら、今じゃ悠にぃ呼びされる位懐いてくれて、高校の勉強の合間に連絡を取ったり、浩介の様子をちょっと聞いたりしてる。

 美智子さんとも連絡先は交換させてもらって、浩介の様子を共有してて、まるで父親みたいね、なんて言われたりしてる。

 ただ、それだけ浩介の事を皆が想ってる、それに、俺は浩介が元気になる為の手伝いをしたい、と思ってるんだから、それ位してもおかしくはないし、むしろそれだけしかしてないのか、って感じだ。

「浩介、少しずつ明るくなってるな。良かった、どんな浩介でも好きでいる自信はあったけど、明るくなってくれるのは嬉しいからな。」

「そうかなぁ?僕、まだまだだと思うんだ。中学生の頃の事がずっと怖くて、まだまだ人と関わるのが怖い、って思っちゃうから……。でも、悠介のおかげで、一歩踏み出せた、それは間違いないと思うな。本当にありがとう、悠介と出会ってなかったら、ずっとそのままだったと思うから。」

「それは、浩介が勇気を出してくれたからだろう?俺は大した事はしてないよ、浩介の勇気が、浩介を変えるきっかけになったんだよ。」

 浩介は、そうかななんて言って、照れてるみたいだ。

 でも、ホントに浩介が動かなかったら発展しなかった関係だし、手紙をやり取りし始めたのも、そもそも浩介から送ってくれたのが始まりだったし、浩介が動いた結果、今があるって言うのは間違いじゃないと思う。

 その結果、俺は浩介の支えになれてるとしてら、嬉しい話だ。

「それでね、良太君が、今度悠介にも会ってみた、って言ってくれたんだ。僕達は大学の講義が無い日だったら大丈夫なんだけど、悠介はどう?」

「是非会ってみたいよ。悠治に似てる雰囲気って事は、俺とも相性が良いだろうから。でも良いのか?せっかく大学で友達が出来たのに、そっちはそっちとして楽しんだ方が良いんじゃないか?」

「ううん、悠介のおかげ様で、友達になれたから。だから、せっかくだから会ってほしい。」

「そっか。なら、会おうかな。今週は土曜日が休みだ、その時で良いか?」

「うん、良太君に伝えておくね。」

 そろそろ俺は寝る時間、浩介はまだ寝ないで小説を書き進めるって言っていたけど、俺は明日が早番だ。

 こういう時、介護の仕事って言うのは、不規則な生活になりがちだから、困ったと思う。

 交友関係が少なかった頃はなんとも思わなかったけど、でも、こうしてると、もっと話してたい、もっと一緒にいたい、と思う。

 ただ、だからって仕事を変えたり、やめたりするのは違うと思う、それぞれの生活があって、それぞれの時間があって、って感じだと思うから。

「それじゃ、お休み。」

「うん、また明日ね。」

 電話が切れる、俺は寝る準備をしないと、と思って、トイレに行って、歯磨きをする。

「ん、お母?」

 と思ったら、お母から電話が来る。

 スマホを取って、電話に出る。

「悠介!?真由美が!」

「お母?真由美がどうかした?」

「悠介!あんたは大丈夫!?」

「落ち着いて、何があった?」

 酷く取り乱してた声、こんなお母の声は聞いた事がない、真由美に何かがあったんだろうか、それだけはわかったけど、詳しい事がわからない。

「……。真由美が、誘拐されたの……。あんたを寄こせって、真由美のスマホから送信されてて……。」

「俺を?」

「もしかしたら、あんたが高校の頃……。」

 俺を寄こせって言ってる時点で、想像は簡単につく。

 俺に恨みがあって、尚且つ真由美を狙う様な連中、成る程卑怯者って言う認識をした俺は間違ってなかった、って事だ。

「で、場所は?」

「まだ何も……。ただ、あんたのラインIDを寄こせって……。警察には電話したんだけど、すぐには動けないって言われて……。」

「向こうの要求飲んで良いよ、俺が対処するから。俺が原因だって言うのなら、それは俺がカタをつけないと駄目だ。」

「……。わかった……。」

 お母がスマホを操作して、誘拐犯の連絡先を寄こしてくる。

 電話番号、ラインじゃないって事は、飛ばしの携帯の可能性がある、なら、警察もすぐには所有者を特定出来ないだろう。

 何より、俺がきっかけで真由美に何かされる、なんて事があったら、俺は後悔する、自分で何とかしなきゃならない、じゃないと、永遠に決別出来ない、とも思う。

「それじゃあ、お母は警察の人を待って、俺はすぐ動く。」

「気を、つけるのよ……。」

「わかってるよ。」

 電話を一旦切って、誘拐犯の電話番号にかける。

「もしもし。」

「てめぇ、坂入か。てめぇの妹の命が惜しけりゃ……。」

「すぐ行ってやるよクズども。ただ、真由美に何か手を出してたりしたら、後悔すら生ぬるい結果にしてやるから。」

「ちっ……。場所を伝える、今から一人で来いよな!」

「ああ、分かった。」

 場所を言われる、それは、最近廃ビルになった、不良のたまり場って言われる場所だった。

 連中が高校生の頃屯ってた場所、成る程、懐かしい場所だ。

「……。」

 相手は何人か、どんな凶器を持ってるか、わからない。

 ただ、タダで済むとは思ってない、それは相手にとっても、こっちにとっても。

「そうだ。」

 そう言えば、って思い出して、出かける準備をしてから、物置にしてるクローゼットの中を見る。

「あった。」

 六尺棒、俺が高校時代、虐めを受けた後、一年位通ってた道場にいた頃に買った、六尺棒。

 虐めを受けて暫く、護身の為に、ってお母に勧められて通ってた、決して人に振るってはいけないと言われてた、棍術。

 妹を守る為、禁を破る覚悟をする、それは誰かを傷つける為じゃない、誰かを守る為に覚えたものなんだから、こういう時に使わないと、意味がないだろう。

 俺は、六尺棒を布袋から取り出して、軽く振ってみる。

 まだ勘は失ってない、習った事も覚えてる。

 行くか。


「ここか。」

 数十分歩いて、廃ビルに到着する。

 懐かしいと言うか、ああいうやつらが沢山屯ってるって言う噂は聞いてて、近寄らない様にしてた、面倒ごとは嫌だから、と思って、嫌悪してた場所。

 ビルの入り口は立ち入り禁止のテープが貼ってあったはずだけど、切られてる。

「……。」

 慎重に、誰かがいても良い様に、六尺棒を強く握って、中に入る。


「ほんとにこいつの兄貴が来るのか?」

「大事な妹の為だろ?来るに決まってる。」

「んで、そこを俺達が殺す!で良いんだよな?」

 五階建ての建築物、その三階に上がった所で、声が聞こえてくる。

 懐かしい声、って言うか、聞くのも嫌な声と、知らない声が混ざってる、間違いはないだろう。

 お母に、場所と真由美がまだ無事だろうって事を伝えて、スマホをポケットにしまって、覚悟をする。

 元来好戦的って言うか、勝気だった俺は、立ち向かう事を選んだ、その結果がどんなものであろうと、その結果は受け入れる、が俺の信条だった。

 ただ、妹を人質にとって、なんて卑怯な真似をする連中を、そのままにしておくわけにはいかない。

 これから先の事も考えると、今潰しておかないと、これからも面倒が起きる。

「よう、久しぶりだな。そっちのあんたは、知らない顔だ。それで、真由美は無事なんだろうな?」

「ほんとに来やがった!兄貴!こいつですよ!俺達嵌めたの!」

「嵌めた?お前らが自爆したの間違いだろ?」

「お兄!なんで来ちゃったの!」

「大事な妹の危機だ、それに俺がまいた種なんだから、俺が何とかしなきゃならないのは、当然の事だろう?で?十人いるみたいだけど、そんな人数で人質取って、なんて真似するほどチキンじゃねぇだろうな?」

 ビルの一角に入って、人数を目視する。

 真由美を捕まえてるのが二人、それに八人、俺が知ってる顔は半分、兄貴って呼ばれた奴と、知らない顔が五人いる。

「んだとてめぇ!」

「くだらない事に付き合ってる暇はないんだ。さっさと真由美を離せ。用があるのは俺だろ?なら、俺にかかってくるのが道理じゃないのか?」

「どこまでもいらだたせる奴だ!良いだろう!妹を開放してやれ!」

 挑発に乗ったのか、真由美を開放して、俺の方に放ってくる。

 真由美は、暗がりでもわかる程怖がってた、けど、外傷なんかはあんまり見られなくて、そこは安心だ。

「お兄……。」

「先に外に出て、走れ。警察がそこら辺まで来てくれてるはずだ。迷わず保護されろ、お前は守る。」

「でも……!」

「お兄を信じろ。こういう時、俺が何とかしてきたのは知ってるだろ?大丈夫だ、今回だって上手くいく、きっと上手くいく。だから、走れ。」

 真由美の目を見て、一回頭を撫でて、外の方に向かわせる。

 真由美は、うんって頷くと、走って入口の方に向かっていった。

「それで?俺の妹を攫った連中が、何の用だ?」

「てめぇを殺る為によぉ!兄貴が力貸してくれるってよぉ!」

「そうかそうか、そんな連中に手を貸してもらわないと、八つ当たりの一つも出来ないんだな。流石、警察にビビって退学した連中な事だけはある。」

「あんだとゴルァ!?」

 六尺棒を構えて、連中の持ってる凶器を確認する。

 鉄パイプが基本、で、手を隠してる奴はナイフか何かだろうか。

 リーチ的にはこっちが勝ってる、ただ、十対一って言う環境で、勝てるかはわからない。

 負けたら殺される、それだけは理解してる、だから、負ける訳にはいかない。

 俺には未来がある、こんな連中と違って、これからの先がある。

「……。どっからでもかかって来いよ。」

「兄貴!やっちまいましょう!」

「……。てめぇ、俺の舎弟が世話になったらしいじゃねぇか?代わりと言っちゃなんだが、ちょいと可愛がってやるよ。」

「……。」

 兄貴分の合図で、三人がこっちに向かって突撃してくる。

 ほどほどに広い室内、ここなら棍を振るうのにも影響はない、遠慮なくやらせてもらおうか。

「死ねや!」

「お前がな。」

「んだと!?」

 三人のうち一人が、血眼を変えて突撃してきた。

 素人の動き、まだ棍術を習ってなかった頃の俺でさえ、あんな動きはしないと思う、なんて思ってしまう陳腐な攻撃。

 大した事はない、避けて首筋に六尺棒を喰らわせる。

「が……!」

「俺がただこんな棒を持ってきた、と思ったら大間違いだな。」

「てめぇ!」

「てめぇら、負けたら俺の面汚しになんだよ、さっさと殺せ。」

「わかってますぜ!兄貴!」

 首に強い衝撃を加えた、一人倒れる。

 二人が一気に攻撃してくる、ただ、棍術を鍛えてくれた師範代の動きに比べれば、あくびが出る位遅い攻撃だ。

 冷静に鉄パイプを受けて、カウンターで思いっきり首や頭を叩く。

 嫌な感触がする、人間の骨が折れる音って言うか、そう言う感触と音がする。

 ただ、これ位しておかないと、芽をつぶせない、今回は真由美だった、なら次はお母かもしれない、次の次は浩介かもしれない、悠治かもしれない、そう考えると、容赦する心が消えていく。

「てめぇ……、俺の舎弟を潰しやがったな!?」

「だからなんだ。お前らはやってよくて、俺がやっちゃいけない、なんて法律はないだろうに。やるならやられる覚悟を持つ、それが普通だと思うんだがな。」

「やっちまえ!」

 手心を加えられてた、そうは思わなかった、こいつらは、最初っから俺を殺す気でいた、憎まれる覚えもない、ただの逆恨みだってのはわかってる。

 ガシャン!

「……!」

 鋭い痛み、太ももに何かが刺さった。

 多分、釘打ち機、ネイルガンって言われるものを、違法改造した銃的な何かだ、って気付いたけど、それどころじゃない。

「……。」

「ほら泣けよ!おかあちゃーん!って泣けよ!」

「……。断る。」

 痛みには鈍感な方だ、って言われてたけど、これは痛くてたまらない。

 汗じゃなくて脂汗が流れる、それと同時に、痛みで六尺棒を握っていられなくなる。

「終わり、なんだよ!」

 膝をついて、釘を抜こうとした時。

 兄貴分って言われたチャラい男が、ナイフを振りかぶったのが見えた。

「……!」

 背中、肺辺り、肋骨の隙間を、ナイフが通り抜ける。

 痛い、痛い、痛い。

 痛くてたまらない、ぐっと堪えるけど、それでも痛くてたまらない。

「おい!サツの連中来やがったぞ!」

「に、逃げろ!」

 七人が、慌てて逃げていく。

 警察が来た、それは安心だ、真由美はきっと、無事だろう。

 逃げていく連中の足音を聞きながら、倒れてせき込む。

 吐血してる、これは、多分駄目だな。

 警察が来たって事は、すぐに保護される可能性はある、ただ、それまで俺の体が持ってくれる、なんていう希望的観測は持てなかった。

「……。」

 最期に、一言で良いから、声が聴きたい。

 こんな所で終わる、それは悔しい、俺達には、もっと未来があったはずだ、妹の命を優先した、それは後悔してないけど、もっと先の未来、一緒にいたかった。

 なんて考えながら、緩慢な動作でスマホを取り出して、痛みの中で電話をかける。

「もしもし?悠介?」

「……。こう、すけ……。」

「どうかした?」

「……。おれ、が、いなくても……。がんばって、くれるか……?約束、して、くれ……。こうすけ、は、まえを、むいて、いけるって……。」

「悠……、介……?」

「……。」

 一言だけ、伝えたい。

 意識が消えそうになる、警察が来る音は聞こえない、これはいよいよ、持たない。

「こう、すけ……。あい、してる、よ……。」

「悠介?悠介!?」

 呼吸が出来ない、意識が遠のく。

 俺は笑ってる、浩介は、きっと大丈夫だって、信じてるから。

 これで終わりか、こんな所で終わりか。

 ちょっとだけ悔しいな。

 でも、やり切った人生だった。

 浩介の事は心残りだけど、でも、きっと大丈夫だ。

 浩介には、素敵な家族がいる、友達だって出来たんだ。

 きっと、大丈夫……。

 きっと……。


「悠介!?」

「……。」

 悠介が電話をかけてきた、とぎれとぎれな声で、気持ちを伝えてきた。

 それはわかった、ただ、それ以上の事が、浩介には分からなかった。

 何かが起こった、それは本能が理解していた。

 ただ、何が起きているか、までは理解出来なかった。

「悠介!返事して!」

 ただ、浩介は理解した。

 悠介の声が聞こえない、代わりに、何か怒鳴っている人の声が聞こえる。

 わからない、わからない、わからない。

 ただ、悠介がいなくなってしまう気がした胸がキューっとなり、心臓がバクバクと音を立てている。

 電話が切れる、浩介は、いてもたってもいられずに、家を飛び出した。


「浩介君、来てくれてありがとう。」

「お母さん……。ご愁傷、様でした……。」

「悠介は、最期に貴方に電話を掛けてたんですってね……。真由美は無事よ、ちょっとふさぎ込んでるけど、怪我もなかったの。……。きっと、あの子が守ってくれたんだろうね、あの子は、本当に人を想う事が好きだったから……。」

 悠介の死、それから四日が経った。

 浩介は、あの後悠介の家に行ったが、結局会えず、一旦帰ろうとしたところで、悠介の母から連絡を受けて、病院に駆け付けた。

 ただ、手遅れだった、悠介は、搬送された時点でこと切れていた、病院での処置は、手遅れだった、と言う話だった。

 浩介は泣いた、涙が枯れるまで泣いた、目が痛くなって、かゆくなって、腫れて、泣き続けた。

 ただ、悠介が最期に遺した言葉、それを無碍にしたくはない、そう思って、今日の葬儀に参列した。

 犯人グループは捕まった、主犯である二十代の男を中心に、悠介を高校時代虐めていた人間達の逆恨み、と言う線で捜査を進めている、と言う話を聞いていた。

 悠介は、最期、死ぬ直前に、浩介に電話を掛けてきた、それだけ、伝えたかったのだろう、と浩介は考えていた。

 また内向きで、つっかえつっかえな自分に戻ってしまうのではないか、と考えた時間もあった、自分の愛した人が、こんな形で命を奪われるなんて、と考えた事もあった、ただ、それだけでは生きてはいけない事も、浩介はよくわかっていた。

 きっといつか、前を向いて歩いて行こう。

 悠介が、何度も浩介に伝えてきた言葉、それを無碍にしてしまったら、それこそ悠介と出会った意味が無くなってしまう、と浩介は結論を出した。

 葬儀には、思っていた以上に人が来ていた、それは、悠介がそれだけ、人望があったと言う事だろう。

 悠介は話したがらなかったが、悠介を虐めていた人間達が他にしていた虐め、ついでにと解決した被害者達や、漫画研究部の先輩や後輩、同級生、そして、これも浩介は聞いた事が無かったが、六尺棒、棍術の師範代や生徒達。

 沢山の人に見送られて、悠介は逝った。


「浩にぃ、書きあがったの?」

「うん、後は送るだけ、結果はどうなるかわからないけどね。」

 一年が過ぎた。

 悠介の一回忌に悠治と母と一緒に参加した浩介は、自分に出来る事は何か、自分にしか出来ない事は何か、と考えた結果、小説を書き上げて、賞に応募すると言う選択をした。

 処女作、そして、悠介の遺作でもある、本のタイトル。

 それは、悠介が見た夢、浩介が描いた想い、そして、これからも生きていくと言う、決意だ。

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