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この世界のどこかできっと  作者: 悠介


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7/9

キスをする

「えっと、こっちの駅か。」

 菓子折りを持って、浩介の家の地元駅に向かう。

 って言っても、乗り換えを二回すれば到着する、簡単なルートではある、けど、俺は電車に乗り慣れてないから、乗り換えで少し迷う。

 上野駅なんて久しぶりに来た、何番線がどの車両か、がわからなくて、スマホで調べながら、迷いつつ電車に乗る。

「ふー……。」

 土曜日って言うのもあって、周りも仕事出来てる感じの人は少ない、遊びに行ったり、何だったりって感じの利用者が多い。

 かくいう俺も、その中の一人だ、久しぶりに誰かの家に行く、恋人の家に行くなんてのは、初めての経験だから、ちょっと緊張してる。

 浩介のお母さんと悠治君に、ちゃんと挨拶が出来るだろうか、挨拶の仕方を間違えたりしないだろうか、なんて不安に思いながら、電車に揺られて車窓から景色を眺める。

 郊外、って言うだけあって、景色はビル群から住宅街に色を変えて、ちょっと田舎かな?位の駅に着く。

「えーっと、改札改札。」

 改札を出て、浩介を探す。

「おーい、浩介、お待たせ。」

「悠介、来てくれて、ありがとう……。」

 今日はちょっと気温が高くて、お互い軽装だ。

 浩介って毛が薄いんだなーなんて、ハーフパンツの裾から見える脛を見てちょっとした感想。

 俺は剛毛の類だから、毛深いって言うか、なんていうか、ちょっとケアしないと清潔感がない。

 今日は気合を入れて来たけど、普段の格好だったら、すね毛が良く見えるとは言われる。

「こっち、こっち……。」

「はいよ。」

 駅を出て、駅前の広場を抜けて、住宅街に向かっていく浩介と、それについて行く俺。

 縁もゆかりもない場所だったから、珍しいって言うか、きょろきょろしてると、普段では出会わあなそうな人達がいる。

「浩介、地元がここらへんなのか?」

「えっとね……。中学の時に、引っ越したんだ……。」

「そうだったのか。じゃあ、それ以来ここに住んでる感じか?」

「うん……。」

 引っ越した理由、はなんとなくわかる、それは今聞くべきじゃない、と思う。

 きっと浩介は、お母さんや悠治君を巻き込んだ事を悔やんでる、だから、それをほじくり返すのは違うと思うから。

「もう、着くよ……。」

「早いな、駅から近いって言うのは、来やすいから有難いな。」

 一軒家が並ぶ住宅街、その中に、坂崎、って言う表札の、二階建ての一軒家があった。

「ちょっと緊張するな……。」

「そう、なの……?」

「そうだな、緊張してる。」

 意外だ、って浩介はそんな顔をしてて、俺は俺で眉間にしわが寄る。

 恋人の家に訪ねるなんて初めての体験だ、友達がいたわけでもなかったから、友達の家に親御さんがいる状態でお邪魔するのも久しぶりだ。

 だから、若干緊張する。

「大丈夫……、だよ……。」

「そうだな、きっと大丈夫だ。」

 一緒に、浩介の家に入る。

 緊張するけど、でもきっと大丈夫だ、って言い聞かせながら。


「お邪魔しまーす。」

「ただいまー。」

 浩介が、自分の普段生活してる場所にいるからなのか、ハキハキと喋った事に驚く。

 でも、そう言う安心出来る場所があるんだな、と思うと、少しホッとする。

「浩ちゃん、おかえりなさい。貴方が恋人さん?」

「坂入悠介です。浩介のお母さん、初めまして。」

「はい、初めまして、私は美智子、よろしくね、悠介君。」

 玄関を上がって、リビングに通される。

 リビングには、浩介によく似た、浩介より体格が良い坊主の子がいて、この子が悠治君か、って認識する。

「初めまして、浩にぃの弟の悠治です。」

「初めまして悠治君、俺は悠介。って、知ってるか。」

「はい、浩にぃからお話聞いてますから。」

「悠介、座って座って。」

「お、おう。」

 饒舌な浩介、って言うのに慣れてなくて、驚きながら、リビングのテーブルに座る。

 悠治君と美智子さんは、俺の事をどんな人間なのか探ってるって言うか、お互い腹の探り合いをしてる、って感覚だ。

 浩介がお茶を出してくれて、俺の横に座って、にっこり笑ってる。

「それで、ご挨拶に来てくれる、ってお話だったわね?」

「はい、あそうだ、これどうぞ。つまらないものですが。」

「あら、有名店のクッキーじゃない!じゃあ、皆で頂きましょうか。」

 そう言って、美智子さんはクッキーを皿に出して、お茶をくれる。

 お茶を一口頂いて、挨拶しなきゃと思ったんだけど、そう言えば結局、何て挨拶するべきかを考え損ねてた。

「えーっと……。浩介とは、一年位手紙でやり取りさせてもらってたんですけど、つい数日前に会ってみまして……。それで、素敵な子だなと思ったので、付き合いたいって言ってくれたのもあって、付き合い始めたんです。」

「浩にぃ、嬉しそうにしてたもんね。悠介さん、悠介さんは、浩にぃが虐められてた事とか、知ってるんでしょう?」

「そうだね、浩介から聞いてる。……。俺も、ってわけじゃない、俺と浩介は違う結果を取った、それも知ってる。ただ、だからこそ、浩介の力になりたい、とも思う。きっと、悠治君や美智子さんと同じ何だと思う。浩介が二人の事を書く時、とても優しいって言ってたから。だから、俺達は同じ想いを持った同士だと思う。」

「悠介……。」

 浩介は、ちょっと恥かしそうに笑ってる。

 普段の浩介、本来の浩介は、こういう子なんだろうな、って言うのが良くわかる、本当は溌溂としていて、明るい性格なんだろう。

 今は美智子さんと悠治君がいるからそれを出せてる、俺と二人になったら、また普段の調子になるんだと思う。

 ただ、それでも良い、いつか、二人と同じ様に接してくれる様になったら、って感じだ。

「それで、悠介君は浩ちゃんの事が好きでいてくれたのね?私、嬉しいわ。浩ちゃんの虐めの原因は知っていたけれど、それでも浩ちゃんが恋をしようと思ってくれていたのが、嬉しいわ。」

「そうだよ。浩にぃが恋をするって、相当難しかったと思うんだ。だから、僕は悠介さんは良い人なんだろうなって、思ってた。手紙を見せてもらってた訳じゃないけど、でも、浩にぃが悠介さんの話をする時、いっつも嬉しそうだったから。だから、ありがとうございます、浩にぃに、きっかけをくれて。」

「二人とも……。でも、そうだね。悠介、ありがとう。僕、恋をする事が怖かったんだ、怖くて、怯えてて、誰に対しても何も感情を抱いちゃいけないんだって、そう思ってた。でも……。でも、悠介が、それを変えてくれたんだ。」

「褒められても何も出てこないよ、浩介。俺は、浩介の勇気があったから、俺達は今こうして出会ったと思ってるんだ。浩介が幸せだと思ってくれているのなら、俺はそれで良い。恋をした相手に幸せになってほしいのは、当たり前の感情だろう?」

 美智子さんと悠治君がいる前で話をするのは少し恥かしかったけど、でも、こういう時には素直な気持ちを言うのが一番だ、それは知ってる。

 だから、じゃないけど、俺は顔が紅くなるのを感じながら、浩介に本心を伝えた。

「……。ありがとう、悠介。僕、おどおどしてたでしょう?でも、悠治達がいてくれるから、今はこうしてすんなり話せてる。それは、悠介の前だけじゃダメだったのかもしれない。……、きっと、僕はずっとそのままだったのかもしれない。でも、悠介がこうして来てくれたから、僕はちゃんと、想いを伝えらえれる。」

「それは良かった、来た甲斐があるってもんだな。お二人にも会えたし、それも良かったよ。」

「じゃあ、そろそろお部屋に行っても良いのよ?恋人同士なんだから、二人の時間も大事でしょう?」

「母ちゃん……。うん、悠介、僕の部屋来てくれる?」

「わかった。美智子さん、悠治君、今日は時間を合わせてくれてありがとうございます。」

 そう言って、浩介の後をついて行って、二階に上がる。

 浩介は、ハキハキとした様子を見せてくれて、それが素の姿なんだろうな、って思うと、浩介が虐めで受けてきた傷の深さ、それが湧かる気がする。


「僕ね、えっと……。」

「大丈夫だよ、浩介。いつも通りで良い、無理をしちゃいけない。」

「ありがとう、悠介。……、でも大丈夫、僕も、覚悟が出来たから。」

「そっか。なら良いんだ、ただ、無理をして欲しくないだけだから。」

 浩介の部屋、六畳位の部屋には、棚が沢山おいてあって、って言うか、壁一面が棚で埋まってて、小説が沢山おいてあった。

 浩介は読んだ本を取っておくタイプなのか、って感心しながら、この量を今までで読んできたのか、って言うのにも驚きだ。

「……。僕達の出会い、あの人のラジオのきっかけって、この本なんだ。この本を読んで、ラジオを聴いて、それで、悠介と手紙のやり取りを始めて。嬉しかった、すっごく嬉しかった。僕も、人と話をしても良いんだ、人と関わっても良いんだ、って思えたから。そのきっかけをくれたのはあのアーティストさんだけど、でも、その想いをくれたのは、悠介だから。」

「そうか。……。俺もな、人と関わる事に懐疑的だったんだ。人と関わった所で、深くなればなるほど、人間の醜さを知ってしまう事になるから、って。でも、浩介は違った、この一年間、ずっと手紙でやり取りをしてて、思ったんだ。浩介は、本当に純粋な子なんだって。だから、俺もお礼を言わないとな。ありがとう、浩介。俺に、希望を見せてくれて。」

 お互い、お礼を言いあう。

 きっと、俺達は出会うべくして出会った、それは間違い無いんだろう。

 俺は人と深く関わる事が億劫で、浩介は人と関わる事に怯えていて。

 きっと違う、それはまったく違う感情なんだろうけど、始まりの部分、虐めを受けたから、って言う共通点があるんだ、そう思った。

「にしても、浩介は本をたくさん読むんだな。どれが一番だったとか、そう言うのあるのか?」

「一番……。うーん、この人のデビュー作、かなぁ。聖獣達の鎮魂歌って言うんだけど、なんていう話って言えば良いのかな……。全てを守らなきゃいけないけど、それよりも守りたい人達がいる神様と、そんな神様と戦ってる悪い人に操られそうになった子供の、勇気と希望の冒険譚、って書いてあったかな。」

「勇気と希望の冒険譚、か。面白そうだな。」

「読んでみる?」

「何巻まで出てるんだ?」

 表紙を見せてもらうと、右腕のない茶髪の青年と、灰色の髪の毛の少年が、背中合わせになってて、一緒に上を向ている。

 多分、茶髪の人が神様で、灰色髪の少年がその乗っ取られそうになった少年、なんだろうな。

「十巻で終わってるよ?」

「結末はどんな感じなんだ?」

「えっとね、悠介はネタばれって大丈夫なタイプ?」

「うん、大丈夫なタイプ。」

「えっと……。この子、蓮君って言うんだけど、世界を滅ぼそうとしてる存在に、乗っ取られちゃうんだ。それで、こっちの人、竜神王ディン、っていうキャラクターは、その世界を滅ぼそうとしてる存在と、ずっと戦ってきた。最後には、蓮君が死んじゃう事で、その破壊を望む存在も完全消滅して、って言う終わり方だよ。」

 勇気と希望の冒険譚、には聞こえない結末だけど、多分諸々を端折って話をしたから、そう聞こえただけなんだろうな。

「蓮君はね、破壊の概念って言う、世界を滅ぼそうとした存在に乗っ取られそうになった時に、その弱点をついて、ディンに勝利の道しるべを与えたんだ。他の巻の表紙になってるこの人達、聖獣の守護者達と、その指南役、って人達がいてね、その人達と、ディンと蓮君は戦うんだ。それで、勝ったんだ。でも蓮君は死ぬ事を選んだ、それが、破壊の概念って言う敵を倒す、唯一の手段だったから。勇気と希望の冒険譚っていうのは、そんな蓮君に、哀れみじゃなくて、悲しみじゃなくて、誇りを持って行こう、って意味なんだって。」

「哀れみじゃなくて、悲しみじゃなくて。良いな、そう言うの。なんだか、死んだって終わりじゃない、って言ってるみたいで、素敵だ。」

「うん。僕もその言葉が好きなんだ。なんだか、勇気をもらえるみたいで、励ましてくれてるみたいで、それでいて、どこか悲しくて。あんまり人気な小説じゃないけど、ファンだって言う人はいるんじゃないかなぁ。」

 浩介が最終巻、ディンと蓮が一緒に手を繋いで、後ろを向いてる表紙を見せてくれる。

 きっと、この物語の神様は、世界より大切なものがあったんだろうな。

 浩介の言葉からそう推察する、それはまるで、人間みたいだ。

 人間は、世界平和だなんだって口では言いながら、でも結局、自分達の事しか考えてない。

 それは痛い程知ってる、そう言うやつらに黙殺されそうになってきたんだから。

 だから、この物語の神様、ディンの言いたい事はわかる、俺だって、世界平和よりも日常の方が大切だし、何より守りたいものの為に戦う、って言うのは、理にかなってると思う。

 立ち向かう理由、戦う理由なんて、そんなもんで良いんだ、って。

「悠介にも読んでほしいな。きっと、気に入ると思うんだ。」

「ん、わかった、読んで見よう。ただ、俺は時間がかかるから、浩介みたいにすぐには読めないぞ?」

「うん、ゆっくりで大丈夫だよ。」

 そう言うと、浩介はまずはって一巻を俺に渡してくれる、俺はそれをリュックの中にしまって、家に帰ったら読んでみようと考える。

 こういう時、恋人って何をするんだろう、ゲイの友達達なら、迷わずにセックスだろとか言いそうだけど、俺がそう言う事をする気にならない、浩介は守るべき対象であって、性の対象じゃない。

 だから、じゃないけど、性欲が湧かない、浩介はどう思ってるんだろう。

「あのね、悠介。」

「なんだ?」

「えっとね……。キスしたい、って言ったら、ダメ?」

「良いぞ?それ位なら、何時だって。」

 浩介にベッドに誘われて、座ってキスをする。

 眼を閉じてるんだけど、浩介はどうしてるんだろう、って一瞬薄目を開けてみると、浩介は顔を真っ赤にしながら、目を閉じてる。

 可愛らしい、とっても愛らしい表情なんだけど、それを見てるって言うのも変かもしれないし、俺も改めて目をつむる。

 唇と唇が重なってる感触が心地良い、緊張してない訳じゃないから、ちょっとドキドキしてるけど、でも心地良い。


「……。悠介……。」

「なんだ……?」

「ありがとう、僕と付き合ってくれて。」

「それはお互い様だよ、浩介。俺だって浩介に恋してたんだ、でも、それを伝えて良いのかがわからなかった、浩介が想いを伝えてくれたから、俺達はこうして付き合ってるんだ。」

 暫くキスをしていた二人、互いに顔を紅くしながら、ベッドに座って手を繋いで話をする。

 浩介にとっても、悠介にとっても、初めての恋人、浩介にとって、恋というのは虐めのきっかけ、恐怖の対象だった。

 悠介にとって恋とは、自分にはまったく縁がない、鬱陶しいとでも言える様な事柄だった。

 それが、互いに作用しあって、今こうして互いに恋をするに至る、それは運命なのか、偶然なのか。

「ねぇ悠介。」

「なんだ?」

「えっとね、大好きだよ。」

「俺もだ。」

 多くの言葉はいらない、心が通じ合っていれば、それで良いのだろう。

 見つめ合い、恥かしがりながらも、二人はそれでも、喜んでいた。

 好き合っている、それが分かっただけでも、出会った意味があったのだ、と。


「じゃあ、悠介気を付けて帰ってね?」

「おう、ありがとな。また明日、電話するよ。」

「うん。」

 夕飯をご馳走になって、夜八時に駅まで送ってもらって、そこから一人で帰る。

 浩介がハキハキと話す様になって良かった、まだ家族がいる場所だけかもしれない、まだ他人にはそんな事は出来ないのかもしれない、それでも、そうなってくれて良かった。

 SNSを通じて関わってる友達に、浩介の家に行った事を報告する、すぐ返事が返ってきて、何をしただどうだっただって、ちょっと下世話ともとれる質問が来る。

 俺は恥かしい事はしてない、と思って、キスをした、って返して、電車で座れたから、浩介に渡された小説を読みながら電車に揺られる。

「……。」

 愛って言うのは、無償のものだ、って誰かが言ってたっけ。

 恋って言うのは代償を求めるけど、愛は代償を求めない、代償を求める愛は愛じゃない、なんて事を誰かが言ってたのを見た事がある気がする。

 なら、俺の想いは愛か恋か、小説を読みながら、そんな事を考える。

 代償を求めてるつもりはない、浩介がどんな事を言おうが、言われようが、好きだっていう気持ちは変わらない、気がする。

 なら、この気持ちは愛と呼ぶんだろうか、でも、誰かを愛するって言う経験がなかったから、どう捉えれば良いのかがわからない。

「……。」

 イヤホンをして、音楽を聴いてると、丁度そんな愛の話の歌が流れてる。

 最期に聴いたありがとうの言葉が、なんていう言い回しをしてるこの歌、認知度は低いんだけど、俺の好きなアーティストの歌、最後に聴いた、ありがとうは、きっと愛なんだろう。

 俺もいつか、そう言う事を浩介に言う日が来るんだろうか、どっちが先に死んでなんて話は物騒かもしれないけど、願わくば、見送られるより見送りたい。

 初めて知った愛、それの終わりは、去るんじゃなくて去ってほしい、何処かに行ってしまうまで、愛し続けたい。

 こういう事をいうと、重たいとかなんとか言われそうだ、惚れた腫れたが苦手だった俺が、そんな事を考える様になるとも思わなかった。

 重たいのはわかってる、加減を知らない状態なんだろうな、って言うのもわかってる、ただ、それだけ浩介の事が好きだ、って言う証左にもなる。

「……。」

 さよならなんて嫌だよ。

 そう切なそうに歌ってる声、浩介も、もしかしたらこの人気に入ってくれるかな。

 きっと好きになってくれると思う、浩介と俺の感性って言うか、そう言うのは似てないかもしれないけど、言いたい事はわかる、って感じで、わかってくれるかもしれない。

 明日電話した時にそれを話してみよう、なんて考えながら、電車の車窓から都心のビル群を眺める。


「悠介さん、良い人だったね。僕、ちょっと安心したよ。」

「私もよ、悠ちゃん。浩ちゃんが連れてくる子、がどんな子か分からなかったけれど、素敵な子で良かったわ。」

「浩にぃが僕達以外にハキハキ喋るのを見るの、何年ぶりだろうね。」

「中学生の頃以来ね。……。あの頃から浩ちゃんは全てに対して心を閉ざしてしまったから。私達は最低限信頼されていた、でもそれは、家族だから、危害を加えてこないだろうっていう感情だったと思うの。でも、悠介君に対しては違うでしょう?あの子は、心の底から悠介君を信頼しているのね。」

 浩介が悠介を送りに出ている間、悠治と美智子は、安心していた。

 悠介の人柄についてもそうだったが、浩介が自分達以外に心を開いてくれた、そして、家族だからと最低限信頼されていた自分達と違って、悠介の事を心から信頼している、それがわかって良かった、と。

 悠治は、少しだけ嫉妬していた、大切な兄を、自分達だけを頼りに生きていた浩介を、そうではない状態に持って行った、そんな事を、悠治自身は出来なかった。

 ただ、話を聞いて、少し相談に乗って、程度しか出来ていなかった自分と違い、悠介は浩介に信頼されている、それに少しだけ嫉妬心を覚えていた。

 しかし、それは無意味な事だ、ともわかっている、浩介にとって、自分は弟、そして悠介は恋人、役割が違うのだろう、と。

「ただいまー。」

「お帰り、浩にぃ。」

「駅まで送って来たよ、悠介が、今日はありがとうございました、って言ってたよ。」

「あら、しっかりとした子ね?浩ちゃんと同い年でしょう?」

「そうだよ、悠介の方が一日遅れで、誕生日が近いって言ってたよ?」

 浩介と同い年の青年、と言うのに縁がなかった美智子は、悠介にしっかりした子だという印象を受けた。

 それは悠治も一緒で、自分より二つしか歳が上ではないのに、あんなにも丁寧な物言いをする人を見た事が無い、と言った感想だ。

「良かったわね、浩ちゃん。」

「うん。それじゃ、僕部屋に戻るね。」

 そう言って、浩介は自室へと上がっていく。

「……。浩にぃ、嬉しそうだね。」

「そうね。」

 二人は目を見合って、ホッとした様子を見せる。

 浩介が無理をしていたのではないか、無理をして人と付き合って、安心させようとしているのではないだろうか、と言う不安があった、そしてそれは、解消された。

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