初めて会う日
「浩介、もう少しで着くのか。」
「うん、後二駅で、最寄り駅だって。」
「白いパーカーにジーパン、でジーンズ系のフィッシャーマンズキャップ被ってるのが俺だからな。」
「わかった。」
ラインでのやり取り、それは浩介にとって楽なのか、ぎこちなさはない。
おどおどした様子もなければ、普段の浩介はきっとこんな感じなんだろうな、って言う想像が付く、それはそうか、文章でいちいちおどおどする必要はないんだから。
俺は家から十分位の最寄り駅に来てて、浩介を待ってる。
今日は春先にしては寒い日で、薄手のパーカーが欲しいと思って、白いパーカーを着て、出かける時は必ず被るフィッシャーマンズキャップを被って、駅の改札で待機だ。
あと二駅って事は大体四分位、次の電車だろう。
東京方面から来る電車は一本しかないし、通り過ぎたら茨城行っちゃうし、地名的にも珍しい方だから、間違いはしないだろうな。
「えっと……。」
悠介のラインしてきた最寄り駅に到着した浩介は、駅のホームからエスカレーターに乗って、改札口に出てきた。
白いパーカーにフィッシャーマンズキャップ、特徴的な装いの悠介を探す。
「いた……。」
大きな体、坊主頭の様に見えるのは、学生時代の名残か、それとも趣味か。
少し垂れ目気味の細い目に、青いフレームの眼鏡を掛けた青年が、時計を眺めながら誰かを待っている。
ドキドキする、緊張と、この日を待ちわびたと言う感情と、恐怖で心臓がバクバクと音を立てている。
「悠……、介……?」
「ん?浩介か?」
「えっと……、うん……。」
「初めまして、浩介。会えて良かった。ここまで来るのに疲れたろう?」
電話で聞いたのと同じ、落ち着いた声。
本物だ、悠介に出会った、浩介は、それに感動していた。
「浩介?」
「あ……、うん……。嬉しく、て……。」
「俺もだよ。さ、今日は少し寒いし、行こうか。」
「うん……。」
顔を赤らめて頷く浩介、悠介はそれを見ていたが、ここで立ち話も、と言って歩き出す。
浩介は、見慣れない街並みを眺めながら、その後ろをついて行った。
「これ……、悠治が、持って、行ったら、って……。」
「ん、ありがとな。ケーキか、冷蔵庫入れとこうか。浩介、昼飯食ったか?」
「えっと……、まだ……。」
「じゃあ、簡単に何か作るか。」
十分位歩いて、ちょっとだけ話をしながら、家に着いた。
浩介はやせ型で、ちょっと筋肉がついてるかな?位の体型に、俺より少し小さい身長、丸顔に坊主で、ちょっと童顔だ。
可愛らしい顔をしてる、って思いながら、でもがつがつ行っても怖がっちゃうだろうな、って思って、取り合えず話をしながらチャーハンを作る。
「ここ来るまで、どれ位掛かった?」
「えっと……、一時間、位かな……。」
「そんなもんか。東京の郊外って言ってたから、もう少し掛かるもんだと思ってたよ。思ったより近くて有難いな。」
ベッドの目の前にあるテーブル、ベッドと反対の場所にある座布団に、浩介は座ってきょろきょろしてる。
あんまり他人の家に来る事が無かったんだろうな、物珍しそうに色々と眺めてる。
って言っても、テレビとパソコンデスクと棚位しかない、簡素な生活基盤の部屋だから、あんまり目新しい物も無いとは思う。
「悠介……、あのね……。」
「ん?」
「えっと……。会ってくれて、ありがとう……。」
「それは俺のセリフだよ。勇気を出して、会いに来てくれてありがとう。会いたいとは思ってたけど、会えるとは思ってなかったから。だから、ありがとう、勇気を出してくれて。」
チャーハンが出来て、テーブルに置きながら、浩介がもじもじしながらお礼を言ってくるもんだから、それはこっちのセリフだ、って返す。
浩介が勇気を出してくれたから、俺達はこうして出会う事が出来た、浩介も怖かっただろう、人と関わる事自体が、怖かっただろう。
でも、それでも俺と会ってくれた、それが嬉しい。
「さ、冷めない内に食べちゃおう。」
「いただき、ます……。」
「いただきます。」
暫しの無言、食べる時は無言になるのが俺の癖だ。
浩介もそれに倣ってるのか、はたまた緊張が解けてないのか、黙ってチャーハンを食べてる。
「ふぅ、ご馳走様でした。」
「ごちそう、さまでした……。」
「美味しかったか?」
「うん……、美味しかった……。」
それは良かった、チャーハンの皿をシンクに置いて、水で浸して少し待つ。
「……。何から話せば良いのか、意外と会ってみるとわからないもんだな。会えて良かった、って言うのはさっき伝えたしな。」
「えっと……、うん……。」
「浩介は可愛いな、見た目は気にしないって思ってたけど、可愛らしい。」
話す事が思いつかなくて、思った事を口にする。
浩介は、頬を少し赤く染めて、嬉しうにはにかんでる。
「悠介は……、ぷにぷに……、してそう……。」
「あはは、そうだな。デブだし、脂肪は多いから、ぷにぷにしてるだろうな。触ってみるか?」
「良い、の……?」
「おう、良いぞ?」
浩介は、おずおずとこっちに近寄ってきて、ちょっと手が震えてる。
でも、こういう事をしないと話が進まないって言うか、関係が発展していかないって思ったのか、勇気を出して俺の腹に手を置く。
「むにむに……。」
「そうか?それは良かった。」
ちょっとくすぐったい、浩介の手の温かさ。
ちょっと位進展しても良いのかな、なんて思って、手を添えてみる。
「え……?」
「あったかいな。」
「えっと……、うん……。」
浩介の顔が紅くなっていく、それはきっと、俺達の想いが同じだからなんだろう。
お互い、会った事も無かった相手に恋をして、好きになって、どんな人なんだろうって想像して。
俺にとって、浩介は可愛い人だった、そう言う印象だ、浩介にとって、俺はどんな印象なのかな。
「悠介……、あのね……。」
「なんだ?」
「あのね……、あのね……。」
「ゆっくりで良いんだよ、浩介。大丈夫だ、誰も浩介を傷つけようとなんてしない、だから大丈夫だ。」
手をさすって、浩介が落ち着くのを待つ。
浩介は、暫くえっとね、って繰り返した後、覚悟を決めた様に深呼吸をして、口を開く。
「えっとね……。僕と、お付き合いして、欲しい、って言ったら……、ダメ、かな……?」
「……。その言葉が浩介から出てくるとは思わなかったな。てっきり、俺が言い出すもんかと思ってたから。答えは勿論良い、だよ。俺も、浩介と付き合えたらな、って思ってた。好きだから、浩介の事。」
「ほんと……?」
「あぁ、本当だ。俺は浩介が好きだ、それは、手紙でやり取りをしてただけかもしれない、浩介の事を良く知らずにいたのかもしれない。ただ、今こうして会って思った、付き合いたいって。俺は恋愛をした事が無いから、どういう付き合いをしていくのが正解かはわからない、そんな俺でも良いか?」
「うん……。僕も、悠介が、好きだから……。」
浩介の口から告白されるとは思ってなかった、もう少し怯えてると思ってたから。
でも、勇気を出して言ってくれた、それが嬉しくて、浩介の頭を撫でる。
浩介は、恥かしそうに、嬉しそうに、はにかんで、顔を真っ赤にしてる。
その顔がまた可愛くて、俺は頭を撫で続けた。
「それで、浩介。付き合うって言って、何すれば良いんだろうな?俺、本当に恋愛経験ないから、わからないんだ。」
「うーん……。僕も、恋愛って、経験ないから……。」
「そっか。じゃあ、俺達なりにやっていけば良いんだな。ふむ……。何から始めたもんか……。」
浩介は、恥かしいと言う想いと、嬉しさの中で、顔を真っ赤にしていた。
悠介もうれしそうに笑っていて、浩介の頭を撫でながら、これからの事を考えている様子だ。
浩介は、悠介が恋愛経験が無い事は知っていた、そして自分自身、恋愛と言う恋愛をした事はない、小学生の頃に少しだけ惚れた腫れたな話があったが、それ以降は何もなかった、だから、何をするのか、恋人と言うのは何をするのか、と言うのは、物語としてしか知らない。
男同士での恋愛、と言う話も何冊か読んできた事はあったが、大概プラトニックとはほど遠いとでも言えばいいのだろうか、どろどろした事になっている事が多く、そうはなりたくないと浩介は思っていた。
ただ、何も知らないと言う悠介よりは、知っているはずだ、それならば、自分が先導しなければ、と浩介は考えたが、悠介の言葉を聞いて、それで良いのかとホッとしていた。
「悠介、あのね……。」
「なんだ?」
「あの……、キス、してみたいな……。」
勇気を出して、してみたい事を話してみる。
キス、接吻は、ずっとしてみたいと思っていた、どの恋愛小説でも、恋人同士がキスをするシーンと言うのは、情緒的に書かれていて、憧れるものだった。
だから、ではないが、付き合うと言う記念の日に、キスをしたいと思った、と言うのが浩介の内に秘めた想いだろう。
「浩介、顔上げてくれないと、キスも出来ないよ。」
「え……?」
「……。」
「……。」
悠介が浩介の頬を両手で包んで、顔を上げさせる。
と思ったら、悠介の顔が近づいてきて、浩介は目をつむる。
唇と唇が重なる感覚、手の温かさとは違う、もっと官能的な、そんな感触。
「……。こう言うのって、恥かしいんだな。」
「悠……、介……。」
「嫌だったか?」
「ううん……、嬉しい……。」
お互いに顔を赤らめて、浩介に至っては耳まで真っ赤になり、お互いの顔を見つめ合う。
付き合う証、ではないが、そう言う事をした、と言うのは、浩介にとっても悠介にとっても、嬉しい事だったのだろう。
恥かしがりながら、しかし笑みを浮かべ、互いに見つめ合っていた。
「付き合うって、どんな感じなんだろうな?浩介の読んでる本には、そう言うの無かったのか?」
「えっとね……。一緒に、買い物に行ったり、デートしたり……、お泊り、したり……。」
「そんな感じなのか。俺は本当に縁がなかったからなぁ。……。恋愛の一つでも、しておけば良かったな。そうすれば、今何がしたいかとか、これからの話とか、出来たんだろうにな。」
「僕も……、お付き合い、ってした事、ないから……。」
キスをしてから十分位黙ってて、余韻に浸ってたって言うか、恥かしくて声が出なかったんだけど、それも良くないなと思って、これからの事を話す。
って言っても、俺達揃って、恋愛に縁が無かった、浩介は惚れた腫れたはあったと言ってたけど、俺はそれすらない。
何をするものなのか、って言う事すら知らない、小説を書いてたってわりに、子供の頃にファンタジーを少し嗜んでた位だから、恋愛描写って言うのにも縁がなかった、だから、恋人って言うのが何をするのか、どういうものなのか、よくわかってない。
「うーん……。デート、か。デートってあれだろ?一緒に出掛けて、手でも繋いでさ、それで一緒に楽しむんだろ?お祭りとか、そう言うの。」
「うん……。」
「ここら辺の祭り……、って言うと、近いのだと夏祭りがあるな。浩介の近所の方は何か無いのか?」
「えっと……。僕の住んでる、所、お祭りとか、そう言うの、しないから……。」
そうなのか、ならこっちの方で一緒に行くのが良いのかな。
なんて考えながら、どうするべって感じだ。
「他にデートって、どこ行くもんなんだ?」
「えっと、ショッピングモール、とか……?」
「ショッピングモールか、そうだ、なら最近出来た所があるんだけど、一緒に行ってみないか?初めてのデート、って言うにはちょっと小さいモールかもしれないけど。」
「うん、行きたい……。」
「じゃあ、先に浩介の持ってきてくれたケーキ食べようか。」
そう言って、冷蔵庫に入れておいたケーキを出す。
中身はショートケーキとチョコケーキで、どっちでも良いんだけど、浩介はどっちが良いのかな。
「浩介、どっちが良い?」
「僕……、選んで、良いの?」
「勿論、そうじゃなかったら、聞いてないよ。」
「えっと……、じゃあ、ショートケーキ……。」
まだ怯えてる様子がなくなったわけじゃない、浩介は、まだ恐怖と戦ってる。
だから、浩介のペースに合わせていこう、改めてそう決めた。
「今日は平日だから、この前よりは人が少ないな。」
「そう、なの……?」
「この前、土曜日だったかな、眼鏡を買ったんだよ。これ、最近付け始めたばっかりなんだ。職場では似合うだの似合わないだの、いろいろ言われてるよ。」
「似合ってる、よ……?」
「ありがとう、浩介。」
モールに来て、飯でもと思って色々と回る中で、勇気を出して手を繋ぐ。
って言っても、所謂恋人繋ぎ、ってやつじゃなくて、普通に手を繋いでるだけだ。
でも、浩介の震えって言うか、怯えが少し軽減されてるな、って言うのはわかる、スキンシップを取る事で、浩介の気持ちが楽になってくれれば、と思う。
「浩介、好きな食べ物あるか?」
「えっと……、お寿司、好きかな……。」
「寿司か、あったかな。」
案内板の所まで歩いて行って、回転ずしの店を探す。
三階建ての二階にあるらしい、そこまで行く道順は、まあふらふらしてればわかるか。
「向こうの方だな、もう行くか?」
「えっと、まだ、色々みたいな……。」
「そうか、じゃあ見て回ろう。」
まだ夕方五時過ぎ、お腹もすいてないんだろう。
そう思って、モールの中を一緒にぶらつく。
「ん、あれ雑貨屋か。」
「雑貨屋さん、可愛いの、あるかな……。」
「浩介は可愛いのが好きなのか?」
「うん……。くまさん、好きなんだ……。」
くまさん、って言い方が可愛いな、なんて思いながらおしゃれな雑貨屋さんの中に一緒に入る。
中は工夫された作りって言うか、一方通行の迷路みたいになってて、こういうのが客を飽きさせない作りって言うのかな、そんな感じだ。
雑貨屋、って一言に言っても、台所用品から日用品、洗面台のなにがしまで揃ってる、意外と幅の広い店だ。
「お、くまの印刷あったぞ?」
「ほんと……?」
「ほれ、これ。」
食器のコーナーを歩いてると、小さなくまのシルエットの印刷された箸を見つける。
浩介は、それをきらきらした眼で見てて、可愛らしい。
「プレゼントしようか?」
「え……?良いの……?」
「二人の出会いと、付き合うきっかけのお礼って事で、だ。なんなら、お揃いにでもするのが良いのかな?」
「お揃い……、良い……。」
それなら、って思って、白地に黒のくまのプリントのやつと、黒字に白のプリントのやつを選んで、レジに持ってく。
「浩介、どっち使いたい?」
「えっと……、白い方……。」
「分かった。」
レジを通して、自分用と浩介用に袋を分けてもらって、白い方を浩介に渡す。
「ほんとに、良いの……?」
「良いんだよ。学生さんにお金ださせる程、困っちゃいないしな。これでも俺、勤続三年目だぞ?」
「ありがとう……、悠介……。」
「いえいえ。」
また手を繋いで、一緒に散策をする。
まだ夕飯にはちょっと早いかな、なんて時計を確認すると、意外にも時間は経ってて、今は午後六時だ。
もう少し時間を潰したら、良い感じに腹もすいてくるだろうな。
「なんかあるかな……。」
「悠介、ゲームって、する……?」
「ゲームか、あんまりやらないけど、ゲーセンがあったな、確か三階だったはずだ。行ってみるか?」
「うん……。」
浩介の方から言ってくれるのは助かる、俺はこういう時どうすれば良いのかがまったくと言っていい程わからない、だから、そう言う憧れとかを口にしてくれる、って言うのは助かる。
「行こうか。」
「うん……。」
一緒に三階まで行って、ゲーセンに足を運ぶ。
平日って言うのもあって、あんまり混んではいない、浩介にとっても、それは有難いだろうな。
「クレーンゲーム、やってみる……?」
「ん?浩介はそう言うの得意なのか?」
「えっとね……、前、やってたんだ……。」
「じゃあ、俺は眺めさせてもらおうかな。そう言うゲームをやった事がないから、勝手がわからないんだ。」
浩介は、クレーンゲームの中で、欲しいと思った商品を見つけて、百円を入れてゲームをスタートする。
中学一年の頃、まだ虐めを受ける前、夢中になってやっていたクレーンゲーム、懐かしさの中で、久しぶりにやるという緊張もあり、真剣になる。
細かな調整は出来ない、縦と横に一度ずつしか動かせないそれを、巧みに操って、一度で景品を落とす。
「お、凄いな、一発だなんて。こういうのって、大体千円位は持ってかれるもんだと思ってたぞ?」
「えへへ……。」
浩介は、出てきた景品を悠介に差し出す、先程のお礼、と言う訳ではないのだろうが、悠介に受け取って欲しそうだ。
「くれるのか?」
「うん……、お礼……。」
「ありがとう、浩介。」
何かのアニメか何かのモチーフのぬいぐるみ、悠介はアニメを見ない為、何のキャラクターかはわからなかったが、浩介の気持ちが嬉しい、と受け取る。
猫をモチーフにしたキャラクター、悠介は自分だったら選ばなそうだ、とは思ったが、浩介の趣味なのだろう、と考えた。
「そろそろ飯行くか。」
「うん……。」
二人は手を繋ぎ直して、回転ずしの店に向かう。
浩介は、そうしていられる事が幸せだと感じていた、悠介も、朧気ながらに幸せを感じていた。
恋愛を知らない者同士、ぎこちなさが残る所もあるのだろうが、しかし、愛し合っているとわかるには、十分だった。
「ただいま。」
「あ、浩にぃお帰り。悠介さんと会ってきたんでしょ?どうだった?」
「えっとね、お付き合いする事になったよ。」
夜九時、いつもより遅く帰宅した浩介を迎えた悠治は、浩介の言葉を聞いて眼を見開く。
好きだとは言っていた、それは知っていた、ただ、最初に出会って付き合うと言う選択を、浩介が取るとは思わなかった、と言うのが正直な感想だろう。
浩介自身、自分で言い出した事にも関わらず、それを信じ切れずにいた、夢でも見ているんじゃないか、と帰りの電車の中で考えて、頬をつねっていた。
「悠介がね、プレゼントくれたんだ。」
「……。浩にぃ、良かったね。ホントに、良かった。悠介さんの事、ちゃんと好きだったんだね。」
「え?うん。好きだった、思った通りの人だったよ。」
悠治が目の端に涙を溜めながら、浩介にハグをする。
良かった、と言う気持ち、やっと一歩を踏み出せた、そして、これから先がある、と言う事に、悠治も気が緩んだのだろう。
嗚咽を零す事はしなかったが、目頭が熱くなっている。
「それで、何を貰ったの?」
「えっとね、お箸。雑貨屋さんに行ってね、それで買ってくれたんだ。」
「そっか。良かったね、浩にぃ。」
「うん。」
浩介は、初めての経験を悠治に語る。
悠介と出会った事、お腹を揉んだ事、そしてキスをした事、手を繋いで一緒に歩いた事。
それらが、浩介の中で幸せになっている、それだけ、浩介は人に触れたかったのだろう。
ただ、恐怖心がそれをさせてくれなかった、そして今日、その恐怖心を一歩踏み出して、克服しようとしているのだ、と。




