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この世界のどこかできっと  作者: 悠介


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3/9

電話を掛けて

「浩にぃ、手紙来てたよ。」

「ありがとう、悠治。」

 二日が経ち、今日は土曜日だ。

 浩介は、悠治の勉強を見てやろうと思っていたのだが、悠介から手紙が来たと聞いて、それを一旦引っ込めて自分の部屋に行く。

「……。」

 無理をしちゃいけない、悠介は、その言葉を繰り返していた。

 本当に浩介の事を考えてくれている、悠介は、心の底から浩介の事を考えてくれている、と浩介は感じた。

 でなければ、会いたいと言うキーワードで、会おうと言う話になってくるだろう、と無意識に悠介を試していたのだろう。

 しかし、悠介はそれをしなかった、それがかえって、浩介の中で悠介への信頼を確かなものへと変えていく。

 会ってみたい、怖いけれど、それでも会ってみたい。

 浩介の中で、悠介と言う理想が、膨れ上がっていく。

「……、ダメダメ……。」

 駄目だ、と立ち返る浩介。

 自分はそうやって勝手に期待されて、応えられなかったから虐められたのだ。

 その虐めっ子と同じ様な思考をしている、それは嫌だったのだろう。

 しかし、悠介に会いたいと言う気持ちは本物だった、会って話がしてみたい、どんな人なのか、と想像をしてみる。

 悠介は、ダイエットが必要だと言っていたから、太っているのだろう、ぽっちゃりしているのか、それともおデブさんなのか、それすらわからない。

 会った事が無いのだから当たり前だ、そんな事もわからず、恋をしていると言うのだから不思議な縁だ。

「……。」

 会ってみようか。

 悠介に、会ってみたいと言ってみようか。

 段階を踏めば会える気がする、ならば、最初は電話からしてみるのが良いのだろうか。

 そう思って浩介は、手紙を認める。

ー悠介へ

ありがとう、僕の事を心配してくれて。会ってみたい、その気持ちは本物なんだ、だから、最初に電話をしてみたいよ。声を聞いて、どんな人なのかを知りたい、それはダメかな?電話番号は……………………。連絡、待ってます。

浩介ー

 勇気を出して、手紙に電話番号を書く。

 友達のいなかった浩介は、スマホを持ってはいたが、母や悠治以外から電話が来るという事が無かった、だから、知らない番号からかかってきたら、悠介だとすぐにわかるだろう。

 勇気を出して、一歩踏み出さないと。

 浩介はそう思って、手紙を郵便受けに出しに行った。


「夕飯夕飯ー。」

 今日は休みで、一日休んでたんだけど、何もしないのも違うなと思って、近くのモールに来た。

 ここのモール、昔は市場があって、お祭りとかをやってたり、夜中に探検してしこたま怒られたり、なんて思い出があったけど、それを取り壊して、一からモールを作るのに、何年か掛かった記憶がある。

 それが出来たのが去年の末位だったか、こっちに来る用事もなかったから来なかったけど、立派なもんだ。

「人が多いな……。」

 土曜日の夕飯時って言うのもあって、モールは子連れで混んでる。

 カップルもちらほらいるけど、俺みたいに一人で、って言う人はあんまりいないな。

 まあ良いか、なんて思いながら、モールの中をぶらつく。


「あ、眼鏡屋だ。」

 二階に眼鏡の店があって、そう言えば最近視力が落ちて来たな、って思って、ふらりと立ち寄る。

 流石に夕飯時に眼鏡を探す酔狂はいないのか、店は空いてた。

「ふーむ……。」

 眼鏡なんてした事がないから、どんな眼鏡が合うのかもわからない。

 試しに丸眼鏡を掛けて鏡を見てみると、まるで旧日本軍の兵隊みたいな感じになってて、これは駄目だと思って戻す。

「うーむ……。」

 次は、好きな色で見てみようと思って、青いスクエアタイプのメタルフレームの眼鏡を掛けてみる。

「お。」

 中々似合う、と思って、もうちょっとだけ他を見てみようとか考えながら、候補の中に入れる。

「ふむふむ。」

 何やら、店の隅にカメラがあって、映ると眼鏡が似合うかどうかをAIが診断してくれる、って言う機械があった。

 それを見て、さっきの眼鏡を掛けてそれを見てみると、結構顔にも似合ってるらしくて、高評価だ。

「これにしよ。」

 太鼓判を押された気がして、即決する。

「すみませーん、これ欲しいんですけどー。」

「はい、眼科の診断書はお持ちですか?」

「あれ、そう言うの必要でした?」

「いえ、診断書がありますと、視力を測る時間が無くなるので、と言うお話です。では、視力検査から致しますので、こちらに。」

「はーい。」

 奥に通されて、視力を図る機械を使って、視力測定をする。

 それ自体は初めての経験だったけど、そう言えば高校までは視力測定は右目だけ悪かったなーとか思いながら、店員さんに言われた通りにしていく。


「では、三十分ほどお待ちください。」

「はい、ありがとうございます。」

 店の待合席で、スマホを眺めながら、眼鏡が出来上がるのを待つ。

 SNSにそれを投稿すると、眼鏡姿が見たい!って言ってくれる人がいて、後で自撮りしてアップでもするか、なんて考える。

 ちょっとの間暇だ、三十分位って言われたけど、普段が忙しすぎて、そう言う時間って言うのはあんまりない。

「……。」

 SNSを眺めながら、今日は満月らしい。

 後で眺めようか、月を眺めるなんていくばくかぶりだけど、そう言う風情を感じるのも悪くはないと思う。

 がやがやしてるモールの中で、少し静かな店内、流れてる曲はそう言えば今年流行りの歌だったかな。

 流行り廃りに興味がない俺は、基本的に自分の好きだと思った曲を聞いてるんだけど、職場の歳が近い先輩は、そう言えば流行りに敏感で、そう言うのの追っかけをしてるって言ってたっけ。

 二年間いたけど、ころころと追っかけの対象が変わるもんで、飽き性なのかな、なんて見てたけど、それは違うって本人は言ってたっけ。

 若者の流行りに乗るのが好きなのであって、別にそのアーティストに惚れた訳じゃない、って言う話を聞いた事がある、俺はアーティスト単位で見る人じゃないし、曲を聞くアプリのプレイリストも雑多、色んなアーティストの曲とか歌が入ってる人だから、そう言う流行りに敏感、って言うのはよくわからない。

 ただ、先輩はそれで良く友達を作るとは言ってた、ただ、その流行りが終わったらその関係も基本的に終わるから、友達の賞味期限が短い、って話だった。

 友達の賞味期限ってなんだよ、なんて考えた覚えがあるけど、まあそう言う考え方をする人もいるんだな程度の認識だ、仕事を仕事としてやってくれて、円滑にコミュニケーションが出来れば問題はない。

「……。」

 そう言えば、好みの話とかを浩介とした事がなかったな。

 いつも近状報告と軽い話だけを手紙でしてたから、お互いの好みとか、好きな事嫌いな事、なんていう、友達がいたら当たり前にしてそうな話を、まったくした事がない。

 次に返事が来たら、そう言う話もしてみようか、そう言えば、俺達の出会いって言うか、始まりは俺の好きなアーティストさんのラジオからだったから、趣味は似てるのかもしれない。

 それを浩介も聞いてたから、俺達は文通を始めるに至った訳だし、共通点って言うか、一つ同じアーティストが好きだ、って言うのは話の種としては良いかもしれないな。


「お待たせしました、こちら眼鏡になります。掛けてみて、耳の形に合わせて調節をしますので。」

「あ、ありがとうございます。」

 なんやかんや三十分が経って、眼鏡が出来上がったらしい。

 受け取って、まずは掛けてみて、そこから耳の形と鼻の形に合わせて、店員さんが耳に掛ける部分のフレームを調節してくれる。

 丁度良い感じになって、視界が開けたって言うか、やっぱりぼやけてたんだなって言う感想だ。

「そのまま掛けて行かれますか?」

「はい。」

「では、お会計が八千円になります。眼鏡ケースをお選び頂けますが、白と黒どちらがよろしいでしょう?」

「うーん……。じゃあ、黒でお願いします。」

「かしこまりました。」

 会計を済ませて、眼鏡ケースと保証書を受け取って、店を出る。

 意識してなかったけど、左目だけで視界を何とかしてた節があるから、右目でちゃんと見えるって言うのは、新鮮だ。

 世界が綺麗に見える、なんだか、ちょっとだけ違う世界に来たみたいだ。

「さて、飯っと。」

 八時を過ぎて、あと一時間もすれば閉店時間だ。

 そろそろ店も空いてきただろう、って思って、モールをまたうろうろする。

「ラーメン良いな。」

 地元のラーメン屋の姉妹店が出店してて、そこに決めて、つけ麺を頼む。

 チーズカレーのつけ麺、なんて初めて食べる、楽しみにしながら、呼び出し用の機械を受け取って、フードコートの席に座って時間を潰した。

「ん、手紙だ。」

 眼鏡を買ってから二日が経って、今日も休みだ。

 シフト勤務って言う関係上、一日働いて休み、だったり六連勤だったり、不安定な仕事だなとは今更ながら思う。

 今は昼過ぎ、そう言えばポストを確認してないなと思って、確認したら浩介からの手紙が来てた。

 封を切って中身を読む、電話番号が書いてある事に驚いたけど、そうか、俺達の関係を発展させたいって言う、勇気なんだな。

 浩介は大学が月曜は講義が無いんだったか、なら今電話しても問題はないかな、と思ってスマホを手に取って、少し考える。

 本当に、浩介はそれを望んでいるんだろうか、無理をしてないだろうか、俺に合わせて無茶をしようとしてるんじゃないだろうか。

 でも、勇気を出して電話番号を書いてくれた、その勇気を無碍にするのも違う気がする。

「えーっと。」

 電話番号を入れて、コールが鳴る。


「電話……?」

 家で本を読んでいた浩介は、普段鳴らないスマホが鳴っている事に気付く、悠治が何か電話で用事だろうか、と考えながらスマホを取ると、知らない番号だ。

「悠介……。」

 悠介だ。

 手紙を送ったのが二日前、おそらく受け取ったのは今日だろう、それで、電話をかけてくれたのだろう。

 緊張する、心臓がバクバクと音を立てている、しかし、自分から勇気を出して書いたのだ、出ないと失礼になってしまうだろう。

「……。もしもし……?」

「もしもし、浩介か?」

「……、悠介……?」

「あぁ、手紙に書いてあったから、電話してみた。」

 落ち着いた、優しい声。

 ハキハキとした声、これが悠介の声なんだ、と浩介は緊張の中で感動する。

 まるで、好きな作家に初めて会って、サインを貰いながら話をしている様な、そんな感覚だ。

「えっと……、その……。」

「大丈夫か?」

「え……、うん……。悠介、僕ね……。」

 自分の声は悠介に聞こえているだろうか、自信の無い、小さな声だと思われていないだろうか。

 そんな事を考えながら、浩介は何を話せば良いのか、と戸惑う。

「……。浩介、無理はしちゃ駄目だ。何度か手紙にも書いたけど、俺は浩介のペースに合わせてやっていくつもりだから、浩介が楽だと思う様にやってくれれば、それが一番良いよ。大丈夫か?俺の声、怖かったりしないか?」

「……、ううん、怖く、ないよ……。僕の声、聞こえてる……?おどおど、して、って思わない……?」

「思わないよ。浩介は素敵な子だって、俺はまだ浩介の事を良く知らないけど、知ってるつもりだからな。手紙のやり取りを一年間続けただろう?そんな中で、浩介の人のよさって言うか、そう言うのは理解してるつもりだよ。勿論、つっかえつっかえになっちゃう理由も、よくわかってるつもりだ。大丈夫、浩介のペースで行こう。」

「ありがとう、悠介……。」

 良い人だと思っていた、それは間違いではなかっただろう。

 浩介は、こんなにも気を遣ってくれる悠介に、嬉しいと感じていた。

 暫く家族以外と交流の無かった浩介、そんな浩介が、久しぶりに、他人ときちんと関わろうとしている。

 その変化、それは、悠介と文通をしていなかったら、起こらなかった変化だろう。

「あのね……、あのね……。」

「どうした?」

「あのね……、えっとね……。悠介、ありがとう……。僕、悠介とお手紙、やり取りしてなかったら……。ずっと、そのままだった、気がするんだ……。」

「それは浩介が勇気を出してくれた結果だろう?俺がお礼を言われる様な事じゃないよ。ただ、言える事があるとすればそうだな……。頑張ったな、浩介。」

「え……?」

「浩介は頑張った。辛かっただろう虐めを受けて、それでも人と関わろうとした、その心は凄いと思う。俺も、職場以外の人とあんまり関わりがない、ネットでは友達もいるけど、それ以外には友達もいない。だから、浩介は頑張った。俺と違って優しすぎる位優しかったんだろう、俺の何倍も辛かっただろうに、頑張ったな。凄いよ、浩介は。」

 ぽたぽたと、涙が流れてくる。

 浩介は、嬉しいと思いながら、こんな風に言ってくれる人はいなかった、家族は守ってくれていたが、こんな風に言ってくれる人はいなかった、と涙を流す。

「浩介?泣いてるのか?」

「ごめん……、ね……。僕……、嬉しくて……。」

「そっか。そう思ってくれてるなら良かった、俺の言葉が怖かったり、枷になっちゃったら嫌だったから。」

 悠介は、思った通りの人だった。

 浩介はそれを知って、安心の嗚咽をこぼした。


「それで、今は弟君が高校三年生だったっけ?受験勉強、進んでるのか?」

「えっとね……。多分、大丈夫だって、思う……。悠治、頭、良いから……。」

「そっか、それは良かった。」

 浩介が泣いてて、それが落ち着いて、少しずつ世間話をしていく。

 泣いたと思った時は何か悪い事を言ったかなと思ったけど、そうじゃなかったみたいだ。

 まだつっかえつっかえだけど、嬉しそうな声を出してる。

「そうだ、あのアーティストさん好きなのか?俺達が文通を始めるきっかけになった人、あの人のラジオが俺達の始まりだったからさ、好きなのかなって思って。」

「えっとね……。あの人、小説も書いてるでしょ……?その小説が好きで、ずっと読んでたんだ……。それで、歌も聞く様になって……。」

「そう言えば書籍も出してたな。浩介はよく本を読むのか?」

「うん……。一週間で、一冊位……。」

「結構読むんだな。俺、小説って一か月位掛かっちゃうよ。最近は忙しくて読めてないな。そう言えば、高校の頃は慢研で小説書いてたっけ、懐かしい。」

 そう言えば、って思いだす。

 友達はいなかったけど、慢研に所属してて、皆が漫画を書いてる中、種になる話を書いてたり、小説に手を出して、文化祭で出したりしてたなって。

 あの時のやつらとは微妙な中だった、持ちつ持たれつって言うか、虐められたのが高二の頃、所属自体は一年からだったから、まあ関わりはあった。

 ただ、友達って程親しくはなかった、利用し合う関係って言うか、俺が漫画の骨組みを考えて、それをあいつらが漫画に仕上げる、って言う作家と原案者みたいな関係だった。

 ビジネスライクって言うか、そう言えば一人は漫画家になって、少しだけ週刊の漫画雑誌に載ってたっけ。

「悠介……、小説、書いてたの……?凄いなぁ……。」

「素人だったけどな。でも、楽しかったな。学校で友達がいない中で、唯一そこにいても良い理由って言うか、そう言う感じだった。高校出てからは忙しくて書けてないけど、案外楽しめるぞ?」

「そうなんだ……。楽しそう……、僕も、いつか小説書いて、みたいんだ……。」

「優しいお話になりそうだな。浩介は優しい子だから、きっと良い話が書けるよ。」

「そう、かな……?」

 今となっては懐かしい記憶、学校に通うのは卒業して高卒って言う証拠を得る為だけだった俺が、唯一楽しんでた事。

 その楽しみを浩介にも味わって欲しい、創作って言うのは、思った以上に心を使うし、けど心が満たされる。

 書くってなったら、浩介にとって一つ自信にも繋がるのかな、って。

 心の潤い、それは、傷を癒すのにはちょうど良いだろうしな。

「書いてみるか?手伝うぞ?」

「え……、良いの……?悠介、お仕事、大変なんじゃ……。」

「手伝う位ならいくらでも出来るよ。書こうってなると、それはそれで大変だと思うけど、ちょっと手伝う位なら、平気だ。」

「えっと……、ありが、とう……。」

 浩介はどう思ってるのか、それはわからない。

 声だけで判断出来る程頭は良くない、だから、言葉に出てきたものを信じるしかない。

 浩介は喜んでるんだろうか、暫く無言になって、考えてる様子ではある。

「じゃあ……。僕、書いてみたい……。」

「良いのか?俺から言い出した事だけど、無理してないか?」

「ううん……。楽しいって、思うから……。」

 それは良かった、俺も楽しみが出来る。

 原案を考えてる時、俺は生き生きしてたって言うか、こういう事をするのが性に合ってるんだろうな、って思ってた。

 高校を卒業してから二年、錆落としはしなきゃなとは思うけど、共同作業って言うのも悪くはない。

 俺自身、時間があったら創作をしたい、とは思ってて、何を書くべきか、なんて考えてたりはした。

 ただ、最初からフルスロットル出しちゃうと、仕事に差し支えるだろうから、軽く地ならしも兼ねて、って考える。

「それならそうだな……。まずはどんな話が書いてみたいか、かな。何を書くにしたって、何が書きたいのかがわからないと、物語がぼやけるな。浩介は、いっぱい小説読んでるんだろう?なんか、ヒントになりそうな作品とかないのか?」

「えっと……。すぐには、思いつかない、かな……。」

「そっか。じゃあまずは、それを見つける所から始めていこうか。そうだな……、小説を読む時に、無心で読むんじゃなくて、こう、自分の好きを探すんだ。自分が好きな言葉、好きな表現、好きな情景描写、なんでもいい。そう言うのを拾っていって、形にするんだ。浩介ならきっと出来るよ、繊細な子ほど、そう言う事は得意だから。」

「えっと……、うん……。悠介は、そうやって、小説を書いてたの……?」

「ん?いや、そうじゃなかったな。俺の場合、学校で習った文章とか、昔に読んだものを元に、エッセンスって言うのかな、そう言うのを抽出して、後は自分の心のままに、って感じだったな。だから、何が言いたいのか、ははっきりしてたけど、誰かの表現を参考にする、って事は殆ど無かったな。」

 そう言えば、俺は小説の基本を言っておきながら、それを実践してなかった。

 自分の思うがままに、が主義だった俺は、流行り廃りにも興味がなくて、自分が書きたい事を書いてて、原案者になる時だけ、そいつが好きな作品をちらっと履修して、それで提案してた。

 変な書き方、って言われたらそこまでなんだけど、それが俺には合ってたらしくて、執筆に困った事はなかった。


「凄い、ね……。悠介は……。」

「そうか?俺なりの書き方ってだけで、他のやり方の方がやりやすいと思うぞ?」

「でも、凄い……。」

 浩介は、悠介の執筆の方法を聞いて、驚いていた。

 浩介自身、エッセイなども読んだ事がある、それこそ、小説の書き方の基盤、と言うのは、悠介が言っていた、他の誰かの好きを見つけて、それを自分なりにしていく、と言うのも知っていた。

 だから、悠介がそれをせず、書けていたと言うのが、衝撃なのだろう。

 悠介の才能、とでも言えばいいのだろうか、誰かに影響を受けて執筆をしているのではなく、自分の想いをと言う意味合いで執筆をしていた、と言うのも驚きだ。

「じゃあ……、悠介は、どんなお話を、書いてたの……?」

「ん?そうだな……。青春もの、って言うにはちょっと青くさい、青くさすぎる、憧れだったな。恋人がいて、恋愛をして、友達もいて、一緒に遊ぶ中で。そう言う憧れが、俺の中にあったんだろうな。だから、そう言う事を書いてた。友達がいて、恋人がいて、こういう関係だったら、こういう遊びが出来たら、ちょっと悪い事なんかもして、一緒に先生や親に怒られて、なんて話だよ。」

「憧れ……。悠介も、憧れてたの……?」

「そうなるかな。虐めを受けてから、軽く人間が嫌になって、ビジネスライクな関係しか作ってこなかったから、その反動って言うのもあるかもな。」

 憧れ、友達と遊ぶ事、恋人と一緒に過ごす事、それは浩介も憧れていた。

 虐められて以降、友達の一人さえいなかった浩介が、ずっと憧れていた事、その感情。

 中学の頃から夢見ていた、そして怯えていた、憧れていた、その関係性。

 悠介もまた、そう言った事に憧れを持っていた、二人の共通点、と言うには違うのかもしれない、悠介は戦ったのだから、自分とは違う、と思っていたが、一つ共通点を見つけた様で、浩介は嬉しかった。

「僕……、書ける、かな……。変だって、思われない、かな……。」

「大丈夫だよ。きっと、大丈夫だ。誰が何と言おうと、俺は応援してるよ。俺も時間があったら一緒に書こうかな、今はどんな話が書きたいかは思いつかないけど、でも、また書きたいとは思ってるから。」

「うん……、一緒に、書く……。」

 気分が高揚してくる、淡い恋心を抱いている相手と、一緒に何かが出来る、それは嬉しい、と。

 浩介は、ずっと気分が抑うつ気味だったのだが、久しぶりに、良い意味で高揚していた。

 憧れの人、優しい人、好きな人、そんな悠介と、一緒に何かが出来る、その準備をする、それは楽しみだ、と。


「それじゃ、今日はここいらで。浩介、夜なら電話出来るか?俺夜勤な事もあるから、毎日電話出来るかって言われたら、ちょっと難しいけど、沢山話したい事があるんだ。そうだ、ライン交換するか?それなら、空いてる時に返事返せるし。」

「うん……、する……。」

「じゃあ、電話番号にSMSでID飛ばすから、登録してくれ。それじゃ浩介、またな。電話出来て良かった、声が聞けて良かったよ。」

「うん……、またね……。」

 電話を切って、SMSにラインのIDを送って、これでオッケーだろう。

 そう言えば起きてから飯を食べてなかった、今日は甘いものが食べたい気分だから、フレンチトーストにでもするか。

「……。」

 パンはある、卵と牛乳はストックしてるのがある、砂糖は……、グラニュー糖があったな。

 卵液を作って、パンの耳を切って、浸して、少し待ち時間だ。

 浩介、優しそうな声してたな。

 気が弱いって言うか、おどおどしてるって言うのは自分でも言ってたけど、それは気にならない、酷い虐めを受けてれば、そうもなっちゃうだろう。

 悲しい事だ、でも、電話が出来て良かった。

 浩介も喜んでくれただろうか、迷惑じゃなかっただろうか、なんて考えながら、SNSにその事を報告する。

 月曜だって言うのに見てる人が多いのか、電話出来て良かったな、なんてリプライが来てたり、俺とも遊んでよーなんて、ナンパチックな返事が来てたり、そんな感じだ。

 SNSを始めた当初から仲良くしてもらってて、今はラインを交換してる年上の友達には、個別でラインを送って、報告する。

「そろそろ良いかな。」

 なんて事をしてる内に、フレンチトーストを焼く時間だ。

 フライパンを火にかけて、バターを一欠け溶かして、暫くあっためる。

 そこに卵液を吸ったパンを入れて、弱火でじっくりと火を通していく。

 そう言えば、たまに行ってる店のフレンチトースト、あれはぶ厚いパンを一日浸すんだっけ、味が染みてて、ふわふわで美味しいんだよな。

 チェーン店だから、どこにでもあるだろうけど、また行こうかな。

「焼けた。」

 両面を優しく焼いて、完成だ。

「えーっと……。」

 かけるトッピングはバターと、そうだ、メイプルシロップがあったな。

 はちみつでも良いんだけど、はちみつは生憎と切らしてる、メイプルシロップでも美味しいし、良いか。

「さて、頂きます。」

 デスク兼飯を食べるテーブルなデスクに置いて、ナイフとフォークでカチャカチャと。

「ん、美味いな。」

 時短で作った割には美味い、なんて思い名がら、そう言えばコーヒーを飲みたいな。

 ケトルでお湯を沸かして、インスタントコーヒーを淹れて、牛乳を加えてカフェオレにする。

「んー、良いな。」

 何気ない飯って言うか、休日ののんびりした感じの中で食べる飯って言うのも、中々オツなもんだ。

 心地良い感情の中、日差しが部屋に入ってくる、昼寝をするにはもってこいの陽気だ。

「ふー、ご馳走様でした。」

 さっと食べ終わって、カフェオレを飲み干して、ちょっと腹ごなしに散歩でも行くかな。

 気温的には長袖のシャツが丁度良いかな、なんて思って、シャワーを浴びて着替えをして、出かける。


「浩にぃ、ただいま。」

「悠治、お帰り。」

「……。浩にぃ、なんだか嬉しそうだね。お手紙返ってきたの?」

「えっとね、電話、したんだ。悠介と、始めて声を聞いたんだ。」

 夕方、悠治が帰ってきて、浩介の表情がいつもより明るい事に気づく。

 浩介が悠介と連絡先を交換している事は知らなかった、だからと言う訳ではないが、悠治は驚く。

 浩介が、積極的に他人と関わろうとしている、それが嬉しい。

「良かったね、浩にぃ。僕、ちょっと安心した。」

「心配かけてごめんね、悠治。いつも、ありがとう。」

「それで、どんなお話したの?」

「えっとね……。」

 浩介は、今日話した事を悠治に話す。

 悠治は、悠介が虐められている事は知っていた、それは浩介から聞いていて、虐めっ子達と闘ったのが凄い、と言う風には聞いていた、ただ、それ以上の事は踏み込んで聞かなかった、だから、こういう話をされるのは、少し新鮮味がある、と言う感情を思い起こした。


「それで、悠介が小説書いてみないかって、言ってくれたんだ。」

「そうなの?悠介さん、凄い人なんだね。」

「うん、本当に、凄い人だよ。」

 浩介の話を聞いて、悠治は驚く。

 浩介がそう言った主体的な話をするとは思っていなかったし、悠介が小説を書いていた経験があった、と言うのも驚きだ。

 そして何より、浩介がそう言う事を始めようと思った、と言う事に、衝撃と共に嬉しさがこみあげてくる。

 何かきっかけがあって、前を向いてくれれば、とずっと思っていたが、何をして貰えばいいのかがわからなかった悠治は、悠介がその一手を出してくれた事を、うれしく思っていた。

 悠介との文通、それは意味のないものではなかった、まだまだこれから時間がかかるかもしれないが、しかし、浩介も一歩ずつ前に向かって歩いて行こうとしている、それが嬉しかったのだ。

「浩にぃ、どんなお話書きたいか、ってあるの?」

「うーん……。まだ思いつかないけど、悠介と一緒なら見つけられる気がするんだ。なんだか、そんな気がする。まだ、おどおどしちゃうし、怖いって言う気持ちが全部消えたかって言われると、まだなんだけど……。でも、悠介は優しい人、それはよくわかったから。」

「そっか、良かった。」

 悠治は、ほんの少しだけの嫉妬と、安心の感情に包まれていた。

 浩介が一歩踏み出してくれた、それが嬉しいのだ、と。

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