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4


 多摩川の下流に女子学生の死体と思われるものが浮いていた。

 匿名で通報をすると電話を切った。


 スクールバッグと学生靴を持ち出して車から降りる。

 シャツの襟から冬暁の冷たい風が入りこみ肌をなぞる。

 その寒さに体が身震いした。


 多摩川の土手を降り、人ひとりいない静かな河川敷を歩く。

 川は穏やかに流れていた。

 水面は光を反射させ、向こう岸に見えるビル群をゆらゆらと映し出していた。


 夏蓮から訊き出したところ、彼女はここの少し上流で携帯を捨てたそうだ。


 周りに誰もいないことを確認すると、スクールバッグを川岸の流されないところへ置いた。

 その近くに学生靴の片方を落とす。

 もう片方は川の中へ放り投げた。


 ポチャリと音を立て、靴は沈んだ。

 広がった波紋の中心から靴は浮上してくると、そのままゆっくりと流れていった。


 車に戻ると、一度だけ深呼吸をした。

 キーを回し、エンジンを動かす。

 多摩川の上流に向かい車を走らせた。


 部長と部下に、それぞれ一本の電話をかけ、会社を休むことを伝えた。

 今日は仕事納めの日だったが、年末期日の仕事はあらかじめ片付けているため問題は起きないだろう。


 俺は決断をした。


 自宅のガレージに車を停めて、玄関の鍵を上ける。

 家の中は静かだった。


 二階に上がり、廊下の手前側のドアをノックした。


「大丈夫だな?」


「うん」


 キャビネットをどけて、ドアを開けた。


「早かったね」


 夏蓮は言う。

 ベッドの上で膝を抱えて丸くなっていた。

 つま先で白いベッドシーツをぎゅっとつまんでいる。


 俺は決断をした。

 リスクを冒してでも、この運命を受け止める決断を。



「やっぱりアクセサリーは外しても良かったんじゃないの?」


「だめだ。あのバッグがおまえのものだという情報は多いほどいい」


「ああ……、可哀想なわたしのミニカワちゃん……」


 夏蓮はダイニングのテーブルに突っ伏すと、指先で木目をなぞった。


 今ごろ警察は夏蓮の遺体の捜索を始めたころだろうか。


 俺が匿名で通報した情報を頼りに多摩川の下流を捜索すれば、夏蓮のスクールバッグと学生靴の片方が川岸にあるのをすぐに発見することだろう。

 ゾンビウイルスの疑いから逃走し、行方不明になった少女と結びつけることは簡単だ。


 そうなれば、俺の匿名の通報の信憑性は高くなる。

 死体は見つからずとも、海に流されたと考えるのが妥当だろう。


 少女がゾンビであろうとなかろうと、川で溺れ、溺死したという簡潔な事実に終着するだろう。

 少女がこの家にいたという事実も、俺という存在にも、たどり着く前に一連の事件は終わりを迎える。


 という筋書きを立ててみたものの、往々にして計画とは計画どおりにいかないものだ。


 警察が訪ねてきたときの万が一に備え、少女の存在を示唆する痕跡はなるべく残すべきではない。



「スマホ貸してよ」


 夏蓮はだしぬけに言う。


「だめだ」


「そ」


 少しの沈黙。


「どうしてだ?」


「友達に連絡する」


「だめに決まっているだろ」


 呆れて、つい大きなため息がでる。


「ふざけてるのか……」


「うん。ふざけた。冗談だよ」


 夏蓮は真顔のまま言う。


「だって暇なんだもん」


 とテーブルに突っ伏したまま、トントンと指を叩く。


 まだ身の安全は保障されていない。

 悠長なことを言うなと咎めたくなったが、喉元にとどめた。

 きっと、なにかしていないと落ち着かないのだろう。


「ゼトフリはある? 観たいドラマあるんだけど」


 それなら。とテレビモニターを操作し、画面を切り替えた。


「好きにしろ」


 とリモコンを渡す。


「やったねー」


 夏蓮は嬉しそうに目を細めると、リビングに飛んでいった。

 ソファに腰を下ろし、慣れた手つきでリモコンを操作する。


 そして選んだ動画は韓国の恋愛ドラマだった。

 ランキング欄から選んでいたのを見ると、トレンドのドラマらしい。


「てゆーか、おじさん」


 ぐるりと首を回転させてこちらを見た。


「仕事は? いかないの? さぼり?」


「休んだ」


 ダイニングのテーブルにタブレットを立たせて、ニュースアプリを開いた。


「明日も?」


「明日からは正月休みだ」


「ふーん」


 と生返事が返ってくる。


「やったじゃん。大型連休だ」


「ほんの一週間ちょっとだ」


「長いでしょ。一週間は」


 夏蓮はテレビモニターに向きなおった。


「予定は? 実家に帰るの?」


「とくにないな」


「ひまじゃん」


「そうだな」


 タブレットに表示されたニュース記事の一覧をスクロールして下に流していく。

 夏蓮についてのニュースはまだ更新されていないようだ。


「よかったね」


 夏蓮は言った。


「わたしがいて。これで寂しい年末年始にならないね」


「よかったね? よくそんなことおまえが言えるな」


「だってさー」


 夏蓮は髪の毛先を指でくるくると弄んでいた。


「そう考えないとお互い気まずいじゃん」


「それは罪悪感の裏返しか?」


「さあ」


 と肩をすくめる。


「難しいこと訊かないでよ」


 無言の時間が続いた。

 俺はタブレットでゾンビに関する資料本を読み漁り、夏蓮は韓国ドラマをぼおっと眺めていた。


「全然内容入ってこないなー」


 夏蓮はおもむろに背中を反らして伸びをした。

 首を傾けると肩までかかる黒髪がさらさらと流れる。


「ねえ」


 と夏蓮は語りかける。


「おじさんはさ、どうしてわたしのことを見捨てなかったの? あかの他人のわたしなんて、すぐに警察に突き出しちゃえばよかったのに」


 タブレットから視線を外し、リビングを見やった。

 大きな窓から昼間の陽射しが差し込んでいて、まぶしい。


「どうしてだろうな」


「なにそれ。理由もなく助けてくれたなんてありえないでしょ。警察にばれたら大変なのに……」


「見捨てられた方がよかったのか?」


「そうは言ってないじゃん」


 夏蓮はソファに足を上げ、丸くなった。


「おじさんの娘ってさ……」


 こちらを見ないまま言う。


「生きてるの?」


「どうしてそんなことを訊く」


 平然を装いながら言った。


「ごめん。やっぱなんでもない」


 小さな声が返ってきた。

 その言葉に何を返せばいいか分からなかったから、何も返さなかった。


「これからどうなるの? わたしたち」


「おまえはここで匿う。ゾンビになるまではな」


「ゾンビになったら?」


「撃つ」


「一生ゾンビにならなかったら?」


「ここで匿い続けるだけだ」


「永久ニート女が爆誕するけど。ずっと養ってくれるの?」


「ひとり養うくらいの稼ぎならある。心配いらない」


「わお!」


 夏蓮は口に手を当て振り返る。


「最高の口説き文句じゃん! 独身貴族のおじさんはかっこいいね」


「茶化すな」


 夏蓮はニヤリと笑うと、テレビモニターに向き直った。


「一蓮托生ってやつだね。わたしたち」


「意味わかって言っているのか?」


「まちがってるの?」


「知らん。たぶんあってる」


「なにそれ」


 一方的に依存されているだけの状況は一蓮托生とは微妙にニュアンスが違う気もするが、わざわざ正確な正しさを求めるほど、その言葉にこだわりを持っているわけでもない。


「わたしって死んだことになったんだよね?」


「たぶんな」


 まるで脈絡もなく、ころころと話題が変わる。

 テレビのスピーカーからは緊迫したBGMが流れ、韓国ドラマは物語のクライマックスにあることが分かるが、夏蓮は全く興味を示していないようだった。


「学校にもいけない?」


「ああ」


「友達と会えない?」


「ああ」


「恋人も? 結婚もできない?」


「そうだな」


 わかりきったことを、わざわざ確認する。

 気持ちの整理に必要なことなのかもしれない。


「あーあ」


 と夏蓮は天井を仰ぐ。


「わたしにできる唯一残されたことはおじさんの話し相手なんてね。つまらない一生は確定してしまったわけだ」


「嫌だったら、いつでもここから出ていっていいんだぞ」


「意地悪なこというね」


「言い返してやっただけだ」


 韓国ドラマは終わりを迎え、エンディングが流れた。


「え、うそ! もう終わっちゃった……! ぜんぜんストーリー頭に入ってないんだけど」


 夏蓮はリモコンを手に取ると、同じ韓国ドラマを始めから再生させた。


 今度は静かにドラマを眺める。

 俺はその間、タブレットで本の続きを読み進めた。


 一時間ほど経つとドラマは終わり、再びエンディングが流れた。


「んあー!」


 夏蓮は奇声をあげながら、苛立ったように伸びをした。


「やっぱり話が入ってこないー!」


 無理もなかった。

 彼女にとっても、ここ数日間におよぶ出来事は激動だったはずだ。

 こんな状況を直ぐに受け入れられるはずもない。


 気丈に振る舞っているが、気ままに娯楽を楽しめる余裕なんて、まだないのだろう。


「部屋にもどるね」


 夏蓮は言った。

 その声に力はなかった。


「昼飯はどうする?」


 もう、正午過ぎになっていた。


「いい。お腹空いてないし」


 と黒髪を振りながら、ソファから立ち上がる。


「おい」


 部屋を出て行こうとする背中を呼び止めた。


「ルールは覚えているな?」


「わかってるよ。部屋に入ったら勝手に出ない」


 夏蓮は冷めた顔のまま、俺に向かって舌を出した。

 そして足縄を引き摺りながら部屋を出た。


 階段を一段ずつ上がる音が響く。

 少しして、夏蓮のあとを追うように階段を上がった。

 キャビネットを夏蓮の部屋の扉の前に動かしてから自室に入った。


 プロジェクターの電源を入れて、揺り椅子に腰をおろした。

 プロジェクターの光が壁一面に映像を投射する。


 サイドテーブルに手を伸ばし、リモコンを手に取ると、先ほど夏蓮が観ていた韓国ドラマを流した。

 特別な意味はない。

 ただなんとなく、暇つぶしになると思ったからだ。


 ドラマを流し見ながらニュースアプリをまた開いた。

 最新の情報欄に目を通す。


 少女のニュースがあった。


 ゾンビウイルスに発症した少女がいたという通報と、死体が川で流れていたという匿名の通報には関連性ありとして、警察は捜査を進めているそうだ。


 いったんは思い描いたストーリーで話が進みそうだ。

 しかしそれは、夏蓮の社会的な死を意味する。


 となりの部屋から声が聞こえてきた。

 それは夏蓮のむせび泣く声だった。



 夕刻になった頃、韓国ドラマは六話のエンディングを迎えた。

 恋人を殺害した犯人を突き止めていく重厚なサスペンスに、恋愛ドラマのエッセンスを綺麗に落とし込んでいる。

 女子高生がはまるのにも納得した。


「聞こえるー?」


 となりの部屋で夏蓮が声を張り上げる。

 彼女はもう泣いていなかった。


「ねえ! おじさーん?」


 リモコンを操作して、ドラマを停止させた。


「部屋から出してー!」


 寝室を出ると、となりの部屋の前のキャビネットをどけて、ドアを開ける。


 目の前に夏蓮がいた。


「おなか減った」


 あっけらかんとした顔でいう。

 先ほどまでむせび泣いていたのが嘘のようだった。


 階段を降りてキッチンに向かうと、夏蓮をダイニングテーブルの椅子に座らせた。


「大人しくしてろ」


 そう言って冷蔵庫を開けた。


 卵と玉葱、そして鶏肉を取り出し、キッチンに並べた。


「なにつくんのー?」


 夏蓮が後ろからひょいと顔をだした。

 大人しくしていろ、と言ったばかりなのに、まったく言うことを聞かなない。


「座って待ってろ」


「えー。だって暇なんだもん」


 “だって暇なんだもん”。


 不意に娘を感じた。

 顔を上げ、頭を左右に傾ける。

 そんな娘の記憶が、ふと浮かんだ。


 花恋だったら、このあとに、それおもしろい? と訊く。


「どーした?」


 夏蓮は言った。


「べつに……」


 過去に連れ去られた意識が今に帰ってくる。

 他人に娘の面影を重ねるなんて。

 この少女と出遭ってから、つくづく自分らしくないことばかり考える。


「わたしが卵わろうか?」


「必要ない」


 どんなに無愛想に応じても、夏蓮はことあるごとに話しかけてきた。


 へえ。玉葱の皮って、そうやって剥くんだ。


 わたしの分は鶏肉大きめでカットしてね。


 いい匂いしてきたねえ。


 分かった! これって親子丼でしょ!


 葉っぱ乗せてるじゃん。洒落てんねー! 三つ葉って言うんだっけ?


「めっちゃ美味しそう!」


 どんぶりに盛り付けた親子丼を前に、夏蓮は唇の端を舐めた。

 椅子に腰掛けて「いただきます」と小さくつぶやく。


 どんぶりの中から、半熟の卵を絡めた鶏肉を小さな口の中にかきこむと、んー、と舌を鳴らした。


「うまい!」


 顔を上げ、赤く染まっていない方の黒目をキラキラと輝かせる。

 特段なんの工夫もない。

 ありふれたレシピで作った料理なのに、よくもこんなに感動できるものだ。


「ゆっくり食え」


「無理。めっちゃ美味しいから」


 結局、そのままぺろりと全て平らげてしまった。


「ふー。おいしかったー」


 夏蓮はそう言いながら、テーブルの中央に置かれたポットからグラスに緑茶を注いだ。

 コポコポと液体がグラスの底を叩く音が響いた。


 となりの部屋のリビングは照明を灯していないため薄暗い。

 月明かりがうっすらとソファとその向こうのテレビを照らしていた。

 天井ではシーリングファンが回り続ける。

 二匹の梟の鳴き声が夜空の向こうから遠く聴こえた。


「あのさ」


 夏蓮はうつむき、両手でグラスを包みこんだ。


「たくさん泣いたの」


 俺は箸を置いた。


「もう友達に会えないと思ったら悲しくてさ」


 ただ、黙って聞いていた。


「もう普通の人の生活は送れないんだーって思ったら悔しくて」


 夏蓮は唇を噛みしめた。


「そもそもこの体は明日にはゾンビになって、わたしは死んじゃうのかもしれないし」


 次に口を開いたときには、唇は少し震えていた。


「百万分の一だよ? ゾンビになる確率なんて。しかも私みたいな症状は前例がないんだもん。なにそれって思ったよ。どんな確率だよって。なんで私なんだろうって……。誰でも可能性はあっただろうに……」


 少女の言うことは正しい。

 確率、可能性。

 それらは決まって、不幸を享受したときに強烈に実感するものだ。


「運命って残酷なんだね」


 そのとおりだ。

 運命とはそういうものだ。

 どんなに備えても、抗っても、それでも予測ができず、不意に訪れる数奇。

 それだけが運命だ。


「でもそれって、あたりまえなのかもしれない」


 夏蓮の右目の赤い瞳が、さらに暗みをおびる。


「どういうことだ?」


「残酷な現実を、仕方がなかったんだと受け止められるように、運命って言葉が生まれたんじゃないのかな。だって運命だったいうことにしちゃえば、もうそれ以上は悩む必要ないじゃんね」


「おまえはそれで納得できたのか?」


「どうだろう。できてないかも」


 夏蓮はグラスを口元まで持ち上げて、緑茶を飲んだ。

 グラスを離し、湿った唇で「でも」と零す。


「もう泣かなくてすみそうだよ」


 強い子だと思った。

 十四という年齢で、これだの不運にさらされても、それでも腐らずにいられるのは、この少女の芯の強さゆえだろう。

 そう思った。


「妻と娘のことだが……」


 気付けば、口走っていた。


「死んだんだ。十年前に」


 どうして、と夏蓮は訊かなかった。

 ただ俺を見つめて、次の言葉を待っていた。


「ゾンビになった。だから、銃で撃たれたんだ」


 スー、と夏蓮は小さく空気を吸って、ごくりと飲み込む。


「ゾンビウイルスが蔓延していたあの時期、外出は極力控えていた。窓やドアの周りにはバリケードを作った。俺は銃を持ち、妻と娘が外出するときは必ず付き添った。人の多いところに行ったのは、ワクチン接種が開始された初日、会場にむかったときの一回きりだけだった。でも、その一回きりで悲劇は起こった……。気を付けていたんだ。警戒していた。そうならないように。慎重すぎるほどに、慎重だった」


 夏蓮はずっと、真っ直ぐに俺を見ていた。

 まるで飾られた肖像画のように、音も色も無い静かな表情で。


「それでも悲劇はおきた。あと少しだった。あと少し、ワクチンさえ接種できていれば、ふたりとも無事だった……」


 あの日のことは何度だって振り返った。

 ときに胸の奥底が焼けるように痛み、嘔吐するほどに。

 何度思い返しても、やはり、自分の選択が間違えていたと思わない。

 それは確率的に、という意味でだ。


 あの日、あの瞬間に、感染した鴉と遭遇する確率なんて、どれだけのものだろうか。


「それからは……?」


 夏蓮は無表情のまま尋ねた。

 同情も憐れむ顔も望まれていないと、よく分かっている。


「どうやって立ち直ったの?」


「本当の意味では、まだ立ち直れていないかもしれない」


 俺は一度視線を外し、些細な沈黙をつくってから「それでも」と続けた。


「あの日のことを、どうしようもない不運だったと理解することで、今日を生きることができている」


 この話を他人にしたのは初めてだった。


 夏蓮の顔をもう一度見た。

 口元が震えていた。

 涙を堪えているのだろうか。

 それを見て、俺も口元が微かに震えた。


 鎮まれ、と自分に命じ、ゆっくりと呼吸をすることで、震えはおさまった。


「たぶん、おまえの言うことは正しい」


 また沈黙が生まれた。

 これまでよりも一段と長い沈黙。

 気まずさや緊張感とは違う、また別の沈黙。


 まるで少女との間にあった溝がひとつ取り除かれたような、そんな静けさ。


 夏蓮はグラスを飲み干すとテーブルに置いた。

 カツン、とグラスの底がテーブルを叩く音が、やけに大きく思えた。


「ふーん。大変だったんだね。おじさんもさ」


 夏蓮は空になったグラスの縁を親指でなぞる。


「娘の名前は? 何て言うの?」


 ここまで話したんだ。

 今さら隠す理由もなかった。


花恋(かれん)だ」


 夏蓮は目を見開いた。

 うつむいて、ククッと低く笑った。


「わたしと同じ名前なんだね」


「はーあ。なにそれ」


 そうつぶやきながら顔を上げた。


「ほんっとにさ……。面白いよね。人生って。面白くて、笑っちゃうくらい……憎ったらしいよね。運命ってやつはさ」


 少女は悪戯に微笑む。


「同感だ」


 俺も微笑みを返した。


「ねえ。おじさん」


 夏蓮は言った。


「わたしね、遺書を残そうと思う」




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