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第5話:Children of the Dark

主題歌:闇の子供たち/現代東京奇譚

https://youtu.be/YAArmaNV4rM

経済特区「アルカディア・ネオ」の空は、その日も、まるで磨き上げられたガラス玉のように、完璧な青を映していた。魔導制御された天候は、人の心の機微などまるで意に介さず、ただ清潔で、無機質な光を、純白の医療タワーに降り注がせる。


その一室。あらゆる魔導医療機器が並ぶ、真っ白な部屋。

だが、ベッドサイドに並ぶモニターは、どれも無意味な平坦な波形を示すだけだった。

エラーラ・ヴェリタスは、もう何日も、この部屋に詰めていた。

彼女は、持てる知識のすべてを投入した。

アカデミーの禁書庫から取り寄せた、魂の修復に関する古の魔導書。彼女自身が開発した、神経回路の魔力パターンを強制的に再構築する薬液。


すべてが、無駄だった。

アリシア。

あのエルフの少女は、ベッドの上で、ただ虚空を見つめていた。

あの記憶の追体験の後、刑事たちを追い払ったエラーラは、少女の精神が完全に崩壊していることを確認した。彼女は、あまりにも残酷な現実の奔流に耐えきれず、自らの意識を、心の最も深い場所にある「安全な殻」に閉じ込めてしまったのだ。

食べさせれば食べる。歩かせれば歩く。だが、その瞳に、かつて友人たちを映した光は、もうない。生きる屍。

論理的に言えば、彼女はすでに「死んで」いた。


「……魔術は、万能ではない、か」


エラーラは、白衣のポケットに手を突っ込んだまま、忌々しげに呟いた。


「骨は繋げても、論理は修復できても……『心』という、この最も非効率で、最も曖昧なプログラムは、修正できないとは」


この現実は、彼女のプライドを、彼女の存在意義そのものを、深く傷つけていた。

その時、無機質な部屋のドアが、ノックもなしに開かれた。

入ってきたのは、高価な、しかし酷薄な印象を与える仕立ての良いスーツに身を包んだ、初老の男だった。アリシアの一族の、顧問弁護士と名乗る男だ。


「……ヴェリタス博士、ですかな」


男は、エラーラに一瞥をくれただけで、すぐに視線をアリシアに向けた。その目には、何の感情も浮かんでいない。まるで、不良在庫の資産価値を査定するような、冷たい視線だった。


「ご息女の様子を見に来たのかね? 生憎だが、見ての通り、芳しくない。精神的なショックによる、重度の……」


「その件ではございません。」


男は、エラーラの言葉を、冷たく遮った。

彼は、持っていたアタッシュケースから一枚の羊皮紙を取り出し、ベッドサイドのテーブルに、音を立てて置いた。


「これは、当家からの、アリシア嬢に対する『絶縁状』です」


「……な…なに?」


エラーラの声が、低くなった。


「あのような、おぞましい『魔女』の疑いをかけられ、あまつさえ、その醜聞が王都にまで届こうとしている。これは、我が一族の清廉なる歴史に対する、許しがたい汚点」


男は、まるで天気の話でもするかのように、淡々と続けた。


「よって、当主の判断により、本日付で、アリシア嬢は戸籍から抹消されました。彼女は、もはや我らとは何の関係もない。つまり、孤児ですな!」


「……貴様」


エラーラの肩が、怒りに震え始めた。


「まあ、治療費、および、これまでの入院費用は、こちらで支払いましょう。ですが、これ以降の面倒は、特区の孤児院なり、教会なり、ご随意に!はっはっは!」


「……ふざけるな」


男は、初めてエラーラを正視した。


「博士……あなたは、我々がどのような家門か、ご存じないようだ。我々は、常に『論理的』かつ『効率的』に物事を判断する。傷ついた枝葉は、切り落とす。それが、家という大樹を守る、唯一の『正解』なのです。……あなたのような『学者』であれば、ご理解、いただけるでしょう?」


男は、無言で一礼すると、一度もアリシアと目を合わせることなく、部屋を出ていった。

バタン、と閉まるドアの音が、無機質な部屋に虚しく響く。

エラーラは、その絶縁状を掴み取り、怒りのままに、くしゃくしゃに握り潰した。


(論理的、だと……?)

(あれが、貴様の言う『論理』か……!)

(あの時、私の友人を『魔女』と決めつけた、あの愚かな大衆と、何が違う……!)


彼女は、ベッドの上で、変わらず虚空を見つめるアリシアを見た。

家族からも見捨てられ、友も失い、心も失った。


完全に、手詰まりだ。

このままでは、この少女は、この真っ白な部屋で、生きながら死んでいく。


(……いや)


エラーラの脳裏に、一つの、非道徳的かつ非倫理的な、しかし、唯一の「解」が閃いた。

それは、彼女が最も忌み嫌う、非論理的な「賭け」だった。


「……おい、アリシア君」


エラーラは、ベッドの前に立ち、アリシアの虚ろな瞳を、真正面から覗き込んだ。


「聞こえているか」


彼女は、微弱な魔力で、アリシアの意識の「殻」をノックする。


「貴様には、二つの選択肢が残されている」


アリシアの瞳が、ほんのわずかに、ピクリと動いた。


「選択肢A。このまま、孤児として、ここに捨てられる。貴様はすべてを失った。遠からず、この病院からも追い出され、スラムで、かつての友人たちの幻影と共に、飢えて死ぬ。それが、貴様が選んだ『悲劇』の、論理的な結末だ」


エラーラは、言葉を続けた。その声は、悪魔の囁きのように、冷たく、甘い。


「選択肢B。……私の、禁忌の魔術を受け入れろ。貴様のその壊れた『心』を、すべて消去する。友人たちのことも、あの地獄の光景も、貴様の両親のことも、……何もかもだ」


エラーラは、アリシアの冷たい手を、強く握りしめた。


「そして。……貴様は、まっさらな『器』になる。そして……私の養子になれ。私の知識を、私の論理を、すべて貴様に叩き込んでやる。私の『娘』として、私の『研究』の、最高傑作として、新しい人生を、生きろ」


「さあ、選べ」


エラーラは、命令した。


「このまま無価値な『データ』として消え去るか。あるいは、すべてを捨てて、私の『娘』になるか」


エラーラは、沈黙を待った。

あるいは、虚ろなままの瞳を。

だが。


「……いや、です……」


か細い、しかし、明確な「拒絶」の声が、部屋の空気を震わせた。

アリシアの、虚ろだった瞳に、ゆっくりと、しかし、確かな「光」が戻りつつあった。

それは、怒りでも、恐怖でもない。

あまりにも、深く、静かな、「悲しみ」の光だった。


「……なぜ、拒否する?」


エラーラは、動揺を隠せない。


「貴様には、もう、何も残っていないだろうが」


「……残って、おります……」


アリシアは、ゆっくりと、ベッドから身を起こした。

そして、彼女の堰が、切れた。


「セラフィナ様は……! あの方は、いつも、わたくしが練習で聖琴を間違えると、ご自分のことのように怒ってくださいました……! でも、そのあと、いつも、こっそり厨房から盗んできた焼き菓子を、わたくしのポケットに押し込んで、『これは内緒よ』と、あの、太陽みたいなお顔で……!」


エラーラは、息を飲んだ。これは、あの記憶の追体験では観測できなかった、日常の、あまりにも些細な「データ」だった。


「ロザリンド様は……! いつも気高く、厳しく……でも、一度だけ、わたくしが熱を出して寮で寝込んだ時、一晩中、わたくしのそばで、濡れた布を……! あの、誰にも触れさせない、気高い手で……わたくしの、額を……!」


涙が、アリシアの頬を、次から次へと伝い落ちる。


「ライラ様は……! いつも、『ロザリンド様が』と、そればかり……でも、わたくしが描いた、拙い水彩画を、あの方だけは……『この青の色は、夜明け前の空の色ね。わたくし、好きよ』と、そう、静かに、微笑んで……!」


「カエリア様は……! いつも、わたくしたちの愚かな諍いを、困ったように見守って……でも、わたくしが、『わたくしには、皆様のような才能がない』と泣き言を言った時……『いいえ』と。『アリシアさん、あなたは、わたくしたちが、わたくしたちでいられるための、大切な『光』なのよ』と、そう、抱きしめて……!」


アリシアは、嗚咽で言葉を詰まらせながら、エラーラを、その濡れた瞳で、真っ直ぐに見つめた。


「消したい……! 消せるものなら、消してしまいたい……! あの日の、鉄の匂いも、叫び声も、あの、おぞましい光景も……! 忘れてしまいたい……!」


彼女は、自らの胸を、強く、強く、掻き毟った。


「でも……! でも、もし、それを消してしまったら……! わたくしの、この胸の中にある、セラフィナ様の笑顔も、ロザリンド様の不器用な優しさも、ライラ様の静かな眼差しも、カエリア様の温もりも……! 全部、全部、消えてしまうのでしょう……!?……それは……嫌です……!あの方々は、もう、どこにもいない……! あの地獄の中で、わたくしだけが、生き残ってしまった……!だから……! わたくしが、忘れてしまったら……あの方々は、本当に、この世界から、二度と……いなくなってしまう……!それだけは、嫌だ……! 痛くても、苦しくても……わたくしだけは、あの方々を、覚えていなければ……!」


少女は、泣き崩れた。

だが、その瞳には、友を失った絶望よりも、友を愛した記憶を守り抜こうとする、あまりにも強く、あまりにも気高い、「意志」が宿っていた。

その姿を見た瞬間。

エラーラ・ヴェリタスの、論理で固められた心の鎧が、粉々に砕け散った。


「……あ……」


彼女の目から、涙が溢れ出した。

止まらない。

アリシアが泣いている。

だが、それよりも、エラーラが、激しく、声を殺して泣いていた。


(……ああ……そうか……)


(そうだったのか……)


彼女の脳裏に、あの、自ら命を絶った、かつての親友の顔が浮かんだ。


(彼女は……私に、こう、言ってほしかったのか……!)


(『魔女』と罵られても、世界中から拒絶されても、『お(おもいで)だけは守る』と、そう、言ってほしかったのか……!)


このエルフの少女は、エラーラが、かつて、最も聞きたかった言葉を、今、目の前で、血を吐くようにして、叫んでいる。

エラーラは、その場に、膝から崩れ落ちた。

研究者として、天才として、論理の体現者として、ずっと張り詰めていた糸が、完全に、切れた。


「う……うわあああああああ……!」


彼女は、子供のように、声を上げて、泣いた。

それは、アリシアの悲劇に対する涙であり、同時に、何十年も前に失った、自らの友への、遅すぎた哀悼だった。


・・・・・・・・・・


次の日。

聖アフェランドラ女学院の正門は、朝の光に満ちていた。

昨日までの陰鬱な空気は、どこにもない。まるで、悪夢がすべて嘘であったかのように、生徒たちの明るい笑い声が、整然とした中庭に響いている。

その中心に、一人の少女がいた。

白銀の髪を、一糸乱れぬ優雅なロールに結い上げ、背筋を、まるで王族のように、ピンと伸ばしている。

その顔には、かつての虚無も、悲しみも、一切ない。

ただ、完璧に計算された、気品ある微笑みが浮かんでいた。

アリシアだった。


「まあ、皆様、ごきげんよう。本日は、なんという素晴らしいお天気ですこと!」


彼女を取り囲む、かつての友人たちが、信じられないものを見る目で、彼女を見つめている。


「ア、アリシア様……!? あな、た……」


「本当に、ご無事でしたのね……! よかった……!」


アリシアは、その反応に、不思議そうに、小さく首を傾げた。その仕草すらも、まるで教科書に載っているかのように、完璧に優雅だった。


「まあ、何を、おかしなことをおっしゃいますの? わたくしが、無事でなかったことなど、一度でもありましたかしら?」


その口調は、かつての、少し内気で、優しい彼女のものとは、まるで違っていた。

気高く、自信に満ち、そして、どこか他者を見下すような、完璧な「お嬢様」のそれだった。


「で、でも……! あの、広場での事件とか……! セラフィナ様たちの……!」


一人の生徒が、恐る恐る、あの名前を口にした。

アリシアは、心の底から、不思議そうに、尋ね返した。


「……セラフィナ? どなたですの、その方。新入生ですの? それに、事件? この、完璧に管理されたアルカディア・ネオで、事件など、起こるはずがございませんでしょう?」


彼女の瞳は、一点の曇りもない、美しい湖のようだった。

だが、そこにはもう、かつての友人たちを映した、深い森の光はなかった。


「さあ、皆様。感傷に浸っている暇はございませんわ。わたくしたち、聖アフェランドラ女学院の生徒たるもの、常に、模範でなければ。……参りましょう?」


彼女は、そう言うと、戸惑う生徒たちを置き去りにして、凛とした足取りで、校舎へと向かっていった。



学院長室。

特権階級の趣味で集められた、悪趣味なほど豪華な調度品が並ぶ部屋。

その大きな窓から、エラーラは、中庭で繰り広げられた光景の、すべてを見下ろしていた。

隣には、疲れた顔をした、老年の学院長が立っていた。


「……これで、本当に、よろしかったですのかな。ヴェリタス博士」


学院長は、胃のあたりを抑えながら、呟いた。


「あの子は……アリシア嬢は、すべてを、お忘れになってしまわれた。あんなにも大切にしていた、友人たちのことも、その悲しみも……。まるで、別人に……」


「『アリシア』は、あの病室で、昨日、死んだ。」


エラーラは、冷たく言い放った。窓ガラスに映る自分の顔は、いつもの、傲慢な研究者の顔に戻っていた。


「今、あそこにいるのは、私の『魔術』によって、再構築された、新しい『個体』だ。……ただ、それだけのことだ」


「ですが……! 記憶を奪うなど……! あなたは、その心を踏みにじった!」


「そうだ。踏み躙った。」


エラーラは、即答した。


「踏み躙ったさ!…私は、彼女の『意志』を蹂躙し、その『魂』を殺した。……それが、何かね?」


「なんと、恐ろしいことを……」


「恐ろしい?」


エラーラは、初めて学院長の方を向いた。その目は、嘲りと、それ以上の、深い自己嫌悪に燃えていた。


「あの子は、『記憶』と共に生きることを選ぼうとした!だが、結果はどうなった? 精神は崩壊し、家族には捨てられ、待っていたのは……社会的な『死』だけだった!私の友人が、かつて辿った道と、これでは……これでは、何一つ変わらん!」


彼女は、再び窓の外、校舎に消えていく「新しいアリシア」に目をやった。


「だが、あの子は生きる。何も知らず、何も感じず、ただ『完璧な令嬢』として、この腐った社会の頂点で、幸福に生きていく。……私は、あの子を『救った』のだよ。たとえ、そのために、あの子の『心』を殺すことになったとしても、な」


「……」


学院長は、言葉を失った。


「悩むだろう。……悩むのは、生き残った者の特権だ。」


エラーラは、自分自身に言い聞かせるように、吐き捨てた。


「そして……このエラーラ・ヴェリタスが、他人の人生の、それも、一度『殺した』女の人生の、その後まで、悩んでやる必要など、一ミクロンたりとも、ない!」


彼女は、自分にそう、強く、強く、言い聞かせた。


(そうだ。私のやるべきことは、研究だ。ハムスターの知能強化だ。そっちの方が、よほど論理的で、よほど建設的だ)


エラーラは、白衣を翻し、学院長に背を向けた。


「では私は失礼する。……あとのことは、よしなに、頼む」


彼女は、豪華な部屋を後にした。

校舎を抜け、再び、正門へと続く並木道に出る。

まだ、あの場所には、人だかりができていた。「新しいアリシア」が、まだ、取り囲まれている。

エラーラは、その集団を、視界の隅にも入れないよう、足早に通り過ぎようとした。


彼女が、アリシアの背中を、通り過ぎた、その瞬間。


「あ、」


鈴を転がすような、しかし、完璧に調律された、あの「新しい」声がした。


「まあ、ごきげんよう、エラーラ様。……どこか、お急ぎで?」


エラーラは、足を止めそうになり、しかし、踏みとどまった。

背中を向けたまま、短く答える。


「……ああ。王都に帰るだけだ。」


「王都、ですの。素晴らしいところですわね」


声は、変わらず、背後から聞こえてくる。


「わたくしは、このアルカディア・ネオが、一番ですけれど。すべてが、完璧に整っていて、無駄が、ございませんもの」


「……そうか。」


エラーラは、一歩、足を踏み出した。


「あの」


だが、その声が、再びエラーラを引き留めた。

今度のは、少し、声のトーンが違った。


「今度の件は……」


エラーラの心臓が、音を立てて、軋んだ。


「……ありがとうございました、おばさま!」


エラーラは、その場で、凍りついた。

全身の血が、逆流するような感覚。


(まさか……! 記憶の消去は、失敗した……!?)


(いや、あり得ない。私の術式は完璧だ。あの反応は、完全に初期化されていたはずだ)


(では、なぜ……?)


彼女は、恐る恐る、まるで錆びついた機械のように、ゆっくりと、振り返った。

そこにいたのは、完璧な、気品ある微笑みを浮かべたアリシアだった。


だが──


その完璧な笑顔とは裏腹に、彼女の美しい白銀の瞳からは、一筋、涙がこぼれ落ちていた。

周りの生徒たちは、その涙に気づいていない。アリシア本人でさえ、なぜ自分が泣いているのか、分かっていないようだった。


彼女の「魂」が、泣いていた!


失った友の記憶はない。だから、その悲しみはない。

何をしてもらったのかも、覚えていない。


だが、魂が、覚えていた!


目の前の、この厳しくて、悲しい目をした(わたし)が、自分を、あの言葉にできない地獄から救い出してくれた、ただ一人の恩人であることを。

そして、その恩人が今、張り裂けそうなほどの、深い「悲しみ」と「罪悪感」を抱えていることを、彼女の魂が、感じ取っていた。

エラーラは、その涙を見た。


(……届いた……のか……?)


記憶は消した。人格も上書きした。だが、魂は……殺しきれなかった。

私の、この非論理的で、独善的で、罪深い『救済』が、確かに、この子の魂に届いたのだ。

エラーラの目から、堰を切ったように、涙が溢れ出した。

アリシアの涙は、魂が流す、静かで、なぜだか温かい涙。

エラーラの涙は、罪と、過去への後悔と、そして、今、この瞬間に初めて得られた、ほんのわずかな「救い」が、ぐちゃぐちゃに混ざり合った、熱い涙だった。

エラーラは、泣きながら、絞り出すように叫んだ。

それは、真実を求める学者の声ではなく、ただ、一人の、不器用な、女の声だった。


「おばさまではないッ!」


アリシアは、涙を浮かべたまま、不思議そうに、ただ静かに彼女を見つめ返す。その瞳は、エラーラの深い悲しみを、ただ、そっと受け止めていた。

エラーラは、その無垢な瞳に向かって、宣言した。


「…………おかあさまだ!」

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