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第3話:捜査開始!

深夜。王都の空気は、昼間の喧騒が嘘のように冷え切り、湿った石畳の匂いが霧と共に立ち込めていた。

その霧を切り裂くように、数基の巨大な魔導灯が、ぼんやりとした光の柱を天に突き刺している。王都国際飛行場。あるいは、庶民がそう呼ぶことは稀な、「魔導飛行船発着場」だ。

ターミナルビルの石造りのファサードは、歴史の重みを感じさせる威容を誇っているが、この時間、その内部はがらんどうだった。


「……信じられんな。全く。この私が、こんな夜更けに、あまつさえ貴様のせいで、王都から離れねばならんとは」


エラーラ・ヴェリタスは、先の爆発と雨で薄汚れた白衣のまま、苛立たしげに吐き捨てた。その褐色の肌は、魔導灯の青白い光を浴びて、常にも増して冷ややかに見える。


「文句を言うな。お前が『興味深い』なんぞと言い出したんだろうが」


隣を歩くカレル警部が、数日分の疲労が染み込んだ声で応じた。彼のトレンチコートは、雨と夜露でぐっしょりと重そうだ。


「『知的好奇心を刺激された』と言っただけだ。それを『捜査協力の快諾』と翻訳する貴様の脳は、やはり……ハムスター以下だな。……それで、経費は?」


エラーラは、ぴたりと足を止め、カレルに向かって無造作に手を差し出した。

カレルは、盛大な舌打ちと共に内ポケットを探り、使い古された革袋を取り出した。


「……これだけだ。今、刑事課でかき集められる、ありったけの出張費だ。無駄遣いするなよ」


ジャラリ、と重い音を立てて袋がエラーラの手のひらに落ちる。

エラーラは、袋の中身を改めることもせず、無感動に白衣のポケットに突っ込んだ。


「ふん。私を誰だと思っている。私の知性を稼働させるための対価としては、塵芥にも等しいが……まあ、いい。これで、貴様が私の珈琲豆、『月光の雫』を強奪しようとした件は、ひとまず保留としてやろう」


「強奪じゃねえ、参考資料の押収だ」


「言葉遊びはよせ。私のラボを破壊し、貴重な研究時間を奪い、挙句の果てに私をこの場に立たせている。その『借り』は、この程度の金貨で返せるとは思うなよ」


「……ああ、わかってるよ」


カレルは、紫煙を吐き出したいのを必死にこらえるように、顔をしかめた。


「とにかく、経済特区の連中は、妙にプライドが高い癖に、田舎者だ。ウチからの介入を快く思っちゃいねえ。特に、お前みたいな『規格外』はな。……気をつけろよ?」


「忠告かね? 無用だな。」


エラーラは、発着場の巨大なガラス窓の向こうに目をやった。

闇の中に、巨大な船影が浮かんでいる。

それは、貴族や富豪が乗るような、流線型の美しい高速船ではない。ずんぐりとした船体に、不格好な魔力推進器がいくつも取り付けられた、旧式の貨客両用船。いわゆる「鈍行便」だ。


「……本気で私にこれに乗れと?」


エラーラの声に、隠しきれない嫌悪が滲んだ。


「…貴様らの予算が、この国の経済状況に比して異常に逼迫していることは理解していたが……まさかこれほどとは。私の安全と快適性は、一切考慮されていないと見える」


「文句は特区の連中に言え。連中が手配した、一番安い便がこれだ」


カレルは、搭乗開始を告げるくぐもったベルの音を聞き、エラーラの背中を軽く押した。


「行け。とっとと謎を解いて、とっとと帰ってこい。お前のいない王都は、せいせいするが……ちと、静かすぎる」


「……ふん」


エラーラは、カレルを一瞥すると、踵を返した。


「せいぜい、私が戻るまでに、ハムスターの脳波を解析できる程度の知性を身につけておくことだな」


彼女は、タラップへと歩き出した。カレルは、その小さな背中が闇に消えるまで、疲れた顔で、ただ黙って見送っていた。


魔導飛行船の内部は、エラーラの予想を寸分違わず裏切らない、劣悪な環境だった。

「格安の鈍行」とは、つまり、貨物室の片隅に、申し訳程度に硬い木製のベンチが並べられているだけの空間を指すらしい。空気は、積荷の家畜の匂いと、漏れ出した燃料の鼻を突く匂いで満たされている。

不規則な振動と騒音が、船体全体を揺らし、乗客たちのなけなしの安眠を妨げていた。

エラーラは、他の乗客、くたびれた行商人や、出稼ぎの労働者たちから最も離れた隅の席を確保し、深く、目を閉じていた。

彼女は、自らの意識を外界から遮断し、思考の海へと潜っていく。


(経済特区「アルカディア・ネオ」。王国の新たな経済の中心地として、ここ数年で急速に発展した都市。旧来の魔導技術と、異国から流入した新たな技術が混在する、歪な街)


(そこで起きた、魔力痕跡なき大量殺人)


(そして、自白したエルフの少女)


パズルのピースは揃っている。だが、そのどれもが、既存の論理の枠に収まらない。

その不快感が、エラーラの思考を苛む。


(……非論理的だ)


その言葉は、彼女の思考を、別の場所へと引きずり込んだ。

遠い、過去の記憶。

王都の魔導アカデミーに在籍していた頃。

彼女には、親友がいた。

唯一無二の、心を許した存在。

同じ研究室に所属していた、聡明で、太陽のように笑う女性だった。エラーラが「論理」と「数式」で世界を構築しようとするのに対し、彼女は「感情」と「直感」で世界を捉え、そのどちらもが真実だと語る、稀有な人間だった。

エラーラは、彼女に惹かれた。

自らに欠けている、その不確かで、暖かく、そして非論理的な輝きに。

それは、エラーラが人生で初めて経験する、「恋愛感情」という名のバグだった。

ある雨の日。

二人は、王都郊外の古代遺跡を調査するため、駅で待ち合わせをしていた。

彼女は、遅れた。

いつもそうだ。彼女は時間にルーズで、直感で行動し、そして、エラーラを振り回す。

エラーラは、いつものように文句を言いながらも、その非論理的な感情が胸を満たすのを、密かに受け入れていた。

魔導通信に連絡が入る。


『ご、ごめんなさい、エラーラ! また、道端で珍しい魔力苔を見つけちゃって……!列車、一本乗り遅れるわ……』


「……ふん。貴様のその好奇心は、いつか身を滅ぼすぞ」


それが、悲劇の始まりだった。

彼女が乗った、魔導列車。

それは、郊外の渓谷にかかる鉄橋で、原因不明の爆発を起こし、脱線。炎上した。

そして、彼女だけが、生き残った。

エラーラとの待ち合わせに遅れ、次の列車に乗った、彼女だけが。

街は、奇跡の生還者として、最初は彼女を持て囃した。

だが、生存者が彼女「一人」だと知れると、その視線は一変した。


「なぜ、お前だけが」


「魔法が使えないなんて嘘だ。エルフの血が混じっていると聞いたぞ」


「魔術でテロを起こしたんだ。お前が、あの列車を爆破したんだ」


憶測は、悪意となり、悪意は、集団の狂気となった。

彼女は、何も言わなかった。ただ、太陽のような笑顔を失い、アカデミーにも来なくなり、自室に引きこもった。

エラーラは、彼女の無実を証明しようと奔走した。爆発の魔力パターン、鉄橋の金属疲労、あらゆるデータを集め、論理的な反証を試みた。

だが、無駄だった。

人々が求めていたのは、「論理」や「真実」ではなかった。

彼らが求めていたのは、その非論理的な怒りや悲しみをぶつけるための、わかりやすい「魔女(いけにえ)」だった。

エラーラが、彼女の無実を証明する決定的な証拠を見つけ出した日。

彼女は、自室で、冷たくなっていた。

傍らには、一枚のメモが残されていた。


『エラーラ、ごめんね。私は、あなたのようには強くなれなかった』


……非論理的だ。

あまりにも、非論理的で、愚かで、そして、救いようのない結末。

エラーラは、その日を境に、変わった。

感情という不確定要素を、自らの思考から可能な限り排除した。

信じられるのは、観測可能なデータと、そこから導き出される揺るぎない論理だけ。

他人の感情も、社会の常識も、信じるに値しない。

自らの知性だけが、この非論理的で狂った世界を渡り歩く、唯一の武器なのだと。


ゴトン、と船体が大きく傾き、硬いベンチがエラーラの身体を打ち付けた。

彼女は、不快な夢から覚めるように、ゆっくりと目を開けた。

窓の外が、白み始めている。


(……感傷に浸っている場合ではないな)


エラーラは、冷たい手のひらで自らの頬を軽く叩いた。

あの時の無力感は、もうこりごりだ。

彼女は、真実を追求する。たとえ、その先に、どれほど残酷な結末が待っていようとも。


明け方。

経済特区「アルカディア・ネオ」は、その姿を朝靄の中から現した。

王都の重厚な石造りの街並みとは対照的に、そこは、ガラスと鋼鉄、そして純白の魔導強化コンクリートで構築された、無機質な摩天楼だった。

空を走る高架式の魔導軌道。整然と区画整理された街並み。だが、その清潔すぎる風景は、どこか人間の体温を感じさせず、作り物めいた冷たさを放っていた。


「……趣味の悪い街だ。合理性を追求しすぎた結果、最も非合理的な『居心地の悪さ』を生み出している。都市設計者の知性が疑われるな」


飛行船を降りたエラーラは、眠気と疲労で重い身体を引きずりながら、特区警察署へと向かった。

署の建物もまた、王都の古色蒼然としたそれとは違い、ガラス張りの近代的なビルだった。


「王都警察からの紹介で来た、エラーラ・ヴェリタスだ。事件の担当者を」


受付で身分証を提示すると、奥から出てきたのは、いかにも事なかれ主義といった風情の中年の男だった。その胸には「署長」という、やけに立派なバッジが輝いている。


「ああ、あなたが……カレル警部が言っていた『専門家』様ですか。ふむ」


署長は、エラーラの薄汚れた白衣と、疲労困憊の顔を、値踏みするようにジロジロと見た。その視線には、王都から送り込まれてきた厄介者に対する、あからさまな不信感が滲んでいる。


「早速だが、その『犯人』と疑われている少女に会わせてもらおう」


エラーラは、単刀直入に本題を切り出した。


「ほう。面会、ですか」


署長は、わざとらしく咳払いをした。


「まあ、構いませんがね。……忠告しておきますが、エラーラさん。そいつは『魔女』ですよ。あの凄惨な大量殺人を、ニコリともせずに『自分がやった』と認めた。まさに、化け物だ」


「化け物、ねぇ……して、貴様は、その『犯行』の瞬間を見たのかね?」


「い、いや、しかし……」


「それだけではない」


署長は、声を潜め、さも重大な秘密を打ち明けるかのように続けた。


「……エラーラさん。しかし、そいつは、エルフですよ?あの、異端の種族だ。何を考えているか、わかったもんじゃない。まず、犯人と見て間違いは、ない!」


その言葉を聞いた瞬間、エラーラの瞳から、温度が消えた。

彼女の脳裏に、かつて「エルフの血が混じっている」と謂れなく罵られた、親友の顔がフラッシュバックした。


「……署長、だったか」


エラーラの声は、地を這うように低く、冷たかった。


「一つ、訂正……させてもらおうか」


「は、はい?」


「貴様のその、偏見と憶測と、無知で塗り固められた思考こそが、『化け物』と呼ぶに、ふさわしい」


エラーラは一歩、署長に詰め寄った。その小柄な身体から放たれる威圧感に、大柄な署長が思わず後ずさる。


「貴様は、魔法使い、かね?」


「え? い、いや、私はしがない警察官で……」


「違うだろう? ならば、黙って案内しろ。魔術を解さない素人が、私の分析の邪魔をするな。時間の無駄だ」


署長は、エラーラの紫水晶の瞳に射抜かれ、顔を青ざめさせた。彼は、カレルがなぜこんな危険な女を送り込んできたのかを呪いながらも、なす術なく、地下の留置所へとエラーラを案内した。


地下の面会室は、狭く、冷たく、そして古い血の匂いが染み付いていた。

鉄格子の向こう側。小さな椅子に、一人の少女が座っていた。

長く、白銀の輝きを放つ髪。尖った耳。エルフ族特有の、人間離れした美貌。だが、その顔には一切の感情が浮かんでいなかった。ただ、虚空を見つめている。

拘束衣を着せられ、その華奢な身体は、まるで精巧な人形のようだった。


「……」


エラーラは、鉄格子越しに、その少女を無言で「観測」した。


(外見、十六歳前後。エルフ族。身体的特徴、著しい衰弱は見られない。だが……)


エラーラは、自らの魔力知覚を最大まで研ぎ澄ませた。彼女の専門は魔力生態学。生物が内包する魔力の流れ、その質、量を読み取ることは、呼吸をするのと同じくらい自然な行為だった。


(……ない)


エラーラの背筋に、冷たいものが走った。


(魔力が、ない)


ゼロだ。

完全に、空っぽだった。

エルフは、その種族特性として、強大な魔力をその身に宿す。

だが、目の前の少女は、確かに「空」だった。そう。生まれながらに魔力回路そのものが、存在しなかった、という障害を持っていたのだ。


「……君が、やったのかね」


エラーラは、静かに問いかけた。

少女は、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳は、深い森の湖のように、何も映していなかった。

少女は、答えなかった。ただ、エラーラを見つめ返すだけだ。


「あの広場で、三十四人を殺したのは、君かと聞いている」


エラーラは、言葉を重ねた。

少女の唇が、わずかに動いた。

かさかさに乾いた、小さな声が漏れた。


「……わたくしが、やりました」


「どうやって?」


「……」


「使った魔法は? 術式は? 触媒は?」


「……」


少女は、再び口を閉ざし、虚空へと視線を戻してしまった。

エラーラは、舌打ちをした。


(ダメだ。これは、尋問ではない。)


何も手掛かりは見つからない。

あるのは、「魔力を持つはずのエルフの少女」が、「魔法の痕跡なき大量殺人」の「自白をしている」という、三重の矛盾だけ。


「……署長。私は、現場を見る」


エラーラは、それだけ告げると、面会室を後にした。


中央広場は、事件から三日が経過した今も、その凄惨な記憶を生々しく留めていた。

立ち入り禁止の魔導結界が張られ、その内側は、まるでこの世の終わりのような光景が広がっていた。

石畳は、乾いて黒ずんだおびただしい量の血痕に覆われ、鼻を突く死臭が、雨上がりの湿った空気に混じり合い、エラーラの胃を不快に刺激した。

破壊されたベンチ。ひしゃげた街灯。そして、そこかしこに残された、犠牲者たちの「痕跡」。

エラーラは、白衣の袖で口元を覆いながら、その地獄の中心へと足を踏み入れた。


(魔力痕跡、ゼロ)

(残留魔素、ゼロ)

(空間の歪み、ゼロ)


カレルの報告通りだった。

これだけの規模の破壊と殺戮が行われたにもかかわらず、魔法が使われた形跡が、文字通り、何一つない。エラーラは当初、高密度の魔力を対象の体内で強制的に暴走させる、禁忌の「体内破裂呪」の可能性を想定していた。だが、それならば、術者がどれほど巧妙に痕跡を消したとしても、空間そのものに、陽炎のような微細な「魔力の焦げ付き」が残るはずだった。

それすらも、ない。


「……あり得ん」


エラーラは、呟いた。


「これは、魔法ではない。あるいは、私の知らない、全く新しい『法則』による干渉だ」


手掛かりゼロ。

完全な手詰まり。

エラーラ・ヴェリタスは、その明晰すぎる頭脳が、初めて「理解不能」という壁にぶち当たったことを自覚し、猛烈な焦燥感に襲われていた。


どれほどの時間が経っただろうか。

エラーラは、死臭の染み付いた白衣のまま、広場近くの喫茶店のテラス席に座り、ぼんやりと冷め切ったコーヒーを眺めていた。

頭脳が、完全にオーバーヒートを起こしていた。

情報が少なすぎる。矛盾が多すぎる。


(あの少女は、嘘をついている。だが、何のために? 誰かを庇っているのか? あるいは……)


思考が、同じ場所をぐるぐると回り続ける。

その時だった。


「ねえ、聞いた? アリシア様のこと」


「聞いた……信じられないわよね。あのアリシア様が、人殺しだなんて」


鈴を転がすような、しかし、ひそひそと抑えられた少女たちの声が、エラーラの耳に入った。

見ると、すぐ後ろの席に、上質な生地の制服をまとった、三人組の女子高生が座っていた。その制服には、特徴的な百合の紋章が刺繍されている。


(……あの制服は)


エラーラの記憶データベースが、瞬時に検索を開始する。


(聖アフェランドラ女学院。この経済特区で最も学費が高く、特権階級の令嬢だけが通うことを許される、全寮制の女学校)


「でも、警察はそう言ってるんでしょう? 特区のニュースも、みんな……」


「嘘よ! あの方が、あんな恐ろしいことをなさるはずがないわ! だって、あんなに優しくて、美しくて……私たち、みんなの憧れだったのに!」


エラーラの背筋が、凍りついた。


(アリシア……? 少女の、名前か)


「私たち、アリシア様のファンクラブだったじゃない。あんなに素敵な詩をお書きになる方が、どうして……」


「かわいそうに……」


エラーラは、ゆっくりと、しかし一切の殺気を消して、後ろの席を振り返った。

彼女の顔は、疲労困憊の学者そのものだった。


「……失礼。少し、耳に入ってしまってね」


エラーラは、できるだけ穏やかな声色で話しかけた。


「君たち、もしかして、『アリシア』という少女を知っているのかね?」


女子高生たちは、突然見知らぬ女に話しかけられ、一瞬、怯えたように身を固くした。


「……え、ええ。知ってますけど……あなたは?」


「私は、王都から来た研究者だ。今回の事件に、少し興味があってね」


「アリシア様は、私たちの先輩です!」


一人の少女が、半ば泣きそうに言った。


「でも、あの方は、犯人じゃありません! 絶対に!」


「ほう。なぜ、そう言い切れる?」


「だって……!」


少女たちは、顔を見合わせ、少しためらった。


「……アリシア様には、あの方がいたんです」


「あの方?」


「……セラフィナ様、です」


別の少女が、小さな声で言った。その名前に、わずかな嫉妬と、それ以上の畏敬の念が混じっているのを、エラーラは聞き逃さなかった。


「アリシア様は、セラフィナ様のことだけを、それはもう、狂おしいほどに愛していらっしゃったから……」


「私たち、みんなアリシア様のことが大好きだったけど、セラフィナ様にだけは敵わないって、わかってました」


「そうよね……アリシア様が、セラフィナ様を見つめる目、覚えてる? まるで、女神様でも見るみたいだった……」


「そのセラフィナという女学生は、今、どこに?」


エラーラは、核心に迫る質問を、さりげなく差し込んだ。

少女たちの顔が、一斉に曇った。

テラス席を、気まずい沈黙が包む。

やがて、一人の少女が、震える声で言った。


「……セラフィナ様は、亡くなりました」


「……なに?」


「今回の、あの、広場の事件で……セラフィナ様も、巻き込まれて……」


エラーラの頭脳に、閃光が走った。


「アリシアが、セラフィナを、『殺してしまった』可能性は?」


別の少女が、首を横に振った。


「ありえません。だって、……」


少女は、恐ろしい結論にたどり着いたかのように、言葉を詰まらせた。


「どうしたね?」


エラーラが促す。


「……だって、それじゃあ、まるで……」


「恋人が、恋人を、殺したみたいじゃ、ないですか……」


その言葉は、喫茶店の喧騒の中に、重い鉛のように沈んでいった。

エラーラは、冷め切ったコーヒーカップを、強く握りしめた。


(……ようやく、論理のピースが、一つ、嵌まったか)


怨恨。

間違いない。これは、何者かによる怨恨だ。

真犯人が、セラフィナを殺し、アリシアに濡れ衣を着せたのだ。

……だが、その全貌は、まだ霧の向こう側だ。

エラーラは、聖アフェランドラ女学院という、新たな捜査対象を、その思考にロックオンした。

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