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【5位】異世界探偵エラーラ・ヴェリタス  作者: 王牌リウ
エラーラ・ヴェリタス短編集2 刑事篇
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第3話:時限爆弾!

王都の真夜中を、轟音が引き裂いた。

場所は、王都の魔力供給を担う『中央マナ・リレイ・タワー』。市民が寝静まる中、タワーの低層部が凄まjい爆発によって吹き飛んだ。


「何事だ!?」


「テロか!」


爆心地は、ただの火薬による黒いススではない、青白い魔力の残滓が、オゾンの異臭と共に立ち込めていた。

それは、ギルドが厳重に禁じている「マナ圧縮爆弾」特有の痕跡だった。

幸い、爆発はタワーの基部を逸れ、魔力供給は止まっていない。

だが、これは明らかに、王都そのものへの「宣戦布告」だった。


タワーを見下ろす丘の上。一人の男が、満足げにその炎を眺めていた。

男の名はキド。

かつては王立魔導研究所に所属した、エリート魔術師だった。

彼は「魔力の純粋性」に取り憑かれ、制御不能なほどの高圧縮技術を研究していた。10年前、その研究が暴走事故を引き起こし、彼は同僚数名を死なせた。

研究所を追放され、魔導師ギルドからも破門。すべてを失ったキドは、地下にもぐった。


(……足りん。まだ足りん!)


キドの目は狂気に満ちていた。


(俺の理論は間違っていなかった! 悪いのは、俺の純粋な魔力を恐れた、あの腐った研究所アカデミーだ!)


彼は、追放された技術を使い、復讐の爆弾を作り続けていた。


(あのタワーは、奴らの腐敗の象徴だ。次は、王都の心臓部……貴族どもがふんぞり返る、あの劇場オペラハウスを浄化してやる!)


彼は、次の爆弾を仕掛けるため、闇へと消えた。


「爆弾魔だぁ!? まったく、派手な野郎だぜ!」


魔導犯罪捜査課のオフィス。朝から叩き起こされたケンが、欠伸を噛み殺しながら叫ぶ。


「冗談じゃないわよ。爆発の魔力残滓のせいで、現場に近づいただけで全身ブツブツよ!」


キョウコが、腕に塗った薬をパタパタと乾かしながら毒づく。


「……火薬だろうが魔法だろうが、やることは同じだ。足取りを追う」


リュウは、革ジャンの襟を立て、リボルバーに弾を込めている。


「そ、それが……!」


分析官のアイダが、真っ青な顔で解析結果の羊皮紙を握りしめている。


「この魔力波形……10年前に使用が禁止された『純粋マナ圧縮』のものです! 制御が不可能で、下手をすれば半径一マイルを吹き飛ばす、非常に危険な……!」


「フム……」


オフィスの隅で、朝一番のコーヒーを淹れていたエラーラが、湯気をふぅと吹き飛ばした。


「原始的だが、それゆえに強力なエネルギーだねぇ。だが、この残滓……ずいぶん『ムラ』がある。犯人は、完璧な制御には至っていない。……ああ、それより、この安物の豆は最悪だ。ワタシの繊細な味覚が爆発してしまうよ」


「ワタシは現場には行かない。粉塵は白衣の大敵だからね」


エラーラは、アイダから渡された現場の魔力残滓サンプルを、光に透かしていた。


「この不均一な圧縮パターン……見覚えがある。これは『キド式圧縮理論』だ」


「キド!? あの、10年前の研究所爆発事故の!?」


アイダが息をのむ。


「ああ。彼は、魔力を『純粋』なまま爆発させることに固執していた。愚かなことだ。不純物こそが安定を生むというのに」


エラーラは、コーヒーカップを置いた。


「10年間、地下で研究を続けていたと見える。だが、この男は『純粋性』にこだわる。次のターゲットも、ただの破壊じゃない。奴が『不純』とみなす、魔力の集積地だ」


エラーラは、王都の地図を広げる。


「アイダくん。10年前、キドが研究所で訴えていた『魔力の商業利用の是非』に関する論文、至急探し出してくれたまえ。奴の『浄化』リストが、そこに書いてあるはずだ」


・・・・・・・・・・


「論文が出たぞ!」


「『魔力は芸術のためにのみ使われるべきである』だと!?」


アイダの分析で、次のターゲットが絞られた。

今夜、王侯貴族が集う『王立オペラハウス』だ。


「間に合わねえ!」


ケンがオフィスを飛び出す。


「こっちの近道を使うわよ!」


キョウコがバイクに火を入れる。


「正面は騒ぎになる。裏口から突入するぞ」


リュウが、パトカーのサイレンを鳴らした。

オペラハウスの豪華なロビー。

キドは、すでに清掃員に変装し、客席の真下に位置する『魔力調整室』に潜入していた。


「時間だ……!」


キドが、時限式の魔力爆弾を起動させる。

そこへ、扉を蹴破ってリュウとケンが飛び込んだ!


「王都警察だ! 動くな、キド!」


「邪魔をするなぁ!」


キドが、懐から小型の爆弾を投げつける!


「危ねえ!」


ケンがリュウを突き飛ばす。爆風が室内を荒れ狂う。


「この野郎!」


ケンが、爆風の中を突進し、キドにタックルを仕掛ける。


「ウオオオオ!」


「離せぇ!」


二人がもつれ合い、床を転がる。リュウが体勢を立て直し、キドに銃口を向けた。


「そこまでだ!」


「リュウさん! ダメだ! こいつの爆弾、止まんねえ!」


ケンが叫ぶ。時限式の魔力針が、ゼロに向かって急速に進んでいた。


「クソッ! アイダ! どうなってやがる!」


リュウが通信機(伝声管)に怒鳴る。


『だ、ダメです! あれは物理的な解除は不可能! 魔力の流れを直接断ち切らないと!』


その時、けたたましいサイレンと共に、一台のパトカーがオペラハウスの正面に乗り付けた。


「まったく……これだから脳まで筋肉の刑事くんたちは、騒ぎを大きくする」


エラーラが、コーヒーの入った水筒を片手に降りてくる。

その後ろから、珍しくボスのクラタが、重い体を揺すって降りてきた。


「エラーラ! どうにかならんのか! 王都のド真ん中だぞ!」


「……やれやれ。ワタシはコンサルタントであって、爆弾処理班じゃないのだがねぇ」


魔力調整室。

ケンがキドを羽交い締めにし、リュウが銃を突きつけている。

だが、爆弾は不気味な青い光を放ち、ゼロまであとわずか。


「ハハハ! もう遅い! これで、腐った貴族どもも、俺の才能を無視した世界も、すべて浄化されるんだ!」


キドが狂ったように笑う。

そこへ、エラーラがゆっくりと入ってきた。


「……フム。実に醜悪な魔力波形だ。君の理論は、10年前から一歩も、進歩していないねぇ」


「な、何者だ、貴様は!」


「通りすがりの研究者さ」


エラーラは、光り輝く爆弾を一瞥すると、まったく関係のない壁の『配電盤』に手をかけた。


「君の爆弾は、この劇場の魔力そのものを起爆剤にしている。つまり、エネルギーを外部から供給されている、実に非効率なシロモノだ」


「それがどうした! もう止められん!」


「つまり。止める必要はない。供給を断てばいいだけだ」


エラーラは、配電盤の中枢魔石を掴むと、冷ややかに言った。


「《全系統、シャットダウン》」


パツン。

次の瞬間、オペラハウスの豪華なシャンデリアが一斉に消え、光り輝いていた爆弾も、ただのガラクタになった。


「あ……あ……」


キドが、その場で崩れ落ちる。


「……そんな、バカな……俺の、俺の10年は……」


リュウが、そのこめかみに、静かに銃口を押し付けた。



夜が明け始めた王都。

オペラハウスの屋上で、エラーラは白み始めた空を眺めていた。

彼女の手には、すっかりぬるくなったコーヒーの水筒がある。


「センセイ! マジですげえッスよ!」


ケンが興奮気味に駆け寄ってくる。


「あの爆弾、どうやって……」


「だから言っただろう。プラグを抜いただけだ、と。彼は、自分の魔力だけでは、あの規模の爆発を起こす自信がなかった。だから外部電源に頼った。それが奴の限界であり、敗因さ」


「……チッ。結局、魔法がなけりゃ解決できなかったってことか」


リュウが、革ジャンのポケットに手を突っ込んで、そっぽを向く。

エラーラは、呆然と連行されていくキドの背中を見つめた。


「……純粋なエネルギーなど、この世には存在しない。光があれば、必ず影ができる。その影の扱い方こそが、本当の『科学』なのだが、ねぇ」


彼女は、ぬるいコーヒーを一口すすると、誰よりも先に、現場を後にした。

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