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【5位】異世界探偵エラーラ・ヴェリタス  作者: 王牌リウ
エラーラ・ヴェリタス短編集
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第32話:残留する無関心!

私の名はエラーラ。私の全ての行動原理は、ただ一つ。「知的好奇心」。

その日、私は、王都の巨大ターミナル駅前広場で、人間の行動パターンのデータ収集を行っていた。ベンチに座り、道行く人々を眺める。実に退屈な作業だ。


「フム…実に予測可能で、非効率な動きだねぇ」


私は、研究日誌にデータを書き込みながら、ため息をついた。

その時、私は、ある異常に気づいた。

5分前、私の観測によれば、広場の噴水の縁に座っていた人間は、3人。それが、今は5人になっている。


(…見落としか?私の観測に、エラーだと?)


いや、違う。誰も広場に入ってくる姿は見ていない。彼らは、まるで空間のノイズが実体化したかのように、いつの間にか「増えて」いたのだ。

増えた人間たちは、皆、共通して「表情がなく」「誰とも目を合わせず」「ただそこにいる」だけ。そして、最も興味深いのは、周囲の人々の反応だ。

目の前に、人が急に出現したというのに、誰も驚かない。それどころか、そこを通り抜けようとする人々が、その「増えた男」の身体を、まるで彼が空気であるかのように、すり抜けて歩いている。


「フフフ…面白い!実に面白いじゃないか!」


私は、歓喜に打ち震えた。これは、ただの幽霊ではない。


「この都市の人間は、他者への関心が極端に低い。その『認識されなかった』という、宙に浮いた存在情報が、この広場に『ゴーストデータ』として蓄積され、実体化しているわけか!」


私は、この仮説を証明するため、近くにいた衛兵に、新しく増えた、ベンチに座る男を指さして尋ねた。


「やあ、衛兵君。あの男は、いつからあそこにいるのかねぇ?」


衛兵は、私が指さす方向を怪訝な顔で見る。


「はあ?…誰のことです?あのベンチには、誰も座っていませんが」


「フム…観測完了だ。君の目は、節穴だねぇ」


だが、私がこの事実に気づき、彼らを「観測」し始めたことで、事態は、私の予測を超えた、実に滑稽な方向へと加速し始めた。

増殖スピードが、上がったのだ。

最初は、ベンチの隙間や、カフェの空席に、ぽつり、ぽつりと出現していた。

それが、5分後には、立ったまま動かない無表情な人々が、広場のあちこちに出現し始め、通行の邪魔になりだした。人々は、そのゴーストたちを、器用に避けたり、すり抜けたりしながら、何事もないように歩き続けている。実にシュールな光景だ。

10分後。出現する場所は、もはや関係なくなった。

カフェのテラス席では、すでに客が座っている椅子の「上」に、新しいゴーストが、重なるように出現した。下の客は、自分に人間が一人乗っかっていることに全く気づかず、新聞を読み続けている。

噴水の女神像の頭の上に、全裸の男のゴーストが出現したが、誰も気にしない。

そして、ついに、そのカオスは、私のパーソナルスペースにまで侵食してきた。


「チッ…!」


私が座っているベンチの、私の両隣に、いつの間にか、ぎゅうぎゅう詰めで、無表情の男たちが3人ずつ出現し、私をサンドイッチにしていた。実に、非効率で、鬱陶しい!


「これでは、私の観測スペースが確保できん!」


広場は、瞬く間に、無表情な「認識されざる者たち」で溢れかえり、物理的に飽和状態になりつつあった。私は、この美しいバグを、修正することを決意した。

ルールは単純。「無関心」で生まれ、「関心」で消える。ならば、この街の連中に、強制的に彼らを「認識」させてやればいい。

私は、広場の中心にある、古代魔術式の拡声装置を、自作の魔道具でハッキングした。そして、マイクの前に立つと、広場に増え続けるゴーストたち一人ひとりに対し、適当に作り上げたプロファイルを、大音量で放送し始めた。


「そこのベンチでうつむいている男!君は、三日前に恋人に振られたばかりだねぇ!実に興味深い精神状態だ!」


「噴水の女神像の上の男!なぜ裸なんだね!非効率の極みだ!」


「そこの角に立っている女!君の昨夜の夕食は、失敗したシチューだ!なぜ人参を先に入れた!私のレシピとは違うぞ!」


「そして、私の隣に座ったこの男!君たちは、私に近寄りすぎだ!不愉快だ!」


私のデタラメな話は、あまりに具体的で、あまりにスキャンダラスだった。

広場にいた「本物の人間」たちは、その下世話な放送に、ついに足を止めた。そして、恐る恐る、エラーラが指し示す「何もいないはずの場所」に、目を向けてしまう。


「え? 振られた男って…?」


「シチュー…?」


「裸…!?」


彼らが、ゴーストたちに「関心」を持ち、「認識」してしまった瞬間、怪異の存在基盤が崩れる。

認識されたゴーストたちは、自らの役割を終えたかのように、満足げに、あるいは不快そうに、次々と、ぽふ、ぽふ、と、まるで埃を払うかのように、消えていった。

数分後、広場は元の閑散とした場所に戻る。

私は、拡声装置のマイクを置き、研究日誌を取り出した。


「結論。『無関心』によって増殖する存在情報は、より高次の『関心』を強制的に発生させることで、その存在基盤を無効化できる。フム…」


私はペンを止め、人々がヒソヒソと噂話をしているのを眺める。


「やれやれ。私の完璧な観測対象が、またただの人間のゴ群れに戻ってしまったじゃないか。」

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